小倉唯「Tarte」インタビュー|初のセルフプロデュースアルバム完成!フルーツ全部乗せの“欲張りタルト”をお届け (2/3)

また爆弾的な曲になってしまったな

──「Fightin★Pose」(2021年8月発売の14thシングル表題曲)ではラップに挑戦されていましたが、アルバムの新曲「PRISM BEAT」もラップを取り入れたナンバーです。アルバムの流れで聴くと2曲目「Fightin★Pose」、3曲目「PRISM BEAT」という順番なので、ラップ連投になるんですね。

そうなんです!

──デモの段階ですでにラップパートも入っていたんですか?

はい。この曲も、次のアルバムで絶対に歌いたい!とストックしていた曲だったんですよ。リズム感が響くダンスチューンなので、ライブの情景も目に浮かぶなって。

──「PRISM BEAT」はすでにラジオで解禁されていて、SNSでは「こんなに早くおぐらっぷが帰ってくるなんてうれしい!」というファンの皆さんの声がたくさん上がっていましたが、小倉さんとしてもやっぱり「Fightin★Pose」以降もラップを続けていきたいという気持ちはありましたか?

ありました! ラップって、普通に歌うのとは全然感覚が違って。声優の仕事と少し似ているところがあるんですよね。声優をやっているからこそのフロウや抑揚の付け方があると思うので、また挑戦できてよかったです。

小倉唯

──歌詞はMaho Hamaguchiさんが書かれていますが、この曲からは心の葛藤と、サビではそれでも力強く前に突き進んでいきたいという意思を感じました。これまでも小倉さんのディスコグラフィに凛と前に進んでいくような曲はあったかと思いますが、強さの描き方がまた少し違うといいますか、葛藤の部分も漏れ出ているからこそ、よりリアルな感じがして。どういうオーダーをしたんですか?

そうなんです。この曲は、とにかくリアリティに描きたいという思いが強くて。現代的な光景を意識した歌詞をオーダーさせていただきました。具体的には、20代後半から30代前半にかけての、働く女性をイメージしていて。コロナ禍においての不安な気持ちや、葛藤を押し殺してでもやるしかないという潔さだったり。強くありたいという感情を、この曲で表現できたらいいなと思っていました。

──その心の葛藤と、それでも強くありたいという思いを、Aメロ、Bメロのラップ、サビでガラッと歌声を変えて表現しているのが印象的でした。どういうボーカルプランを立てながら歌っていったんでしょうか?

今言われて気付いたんですが、具体的に何かプランを立てて歌ったというよりは、歌詞の内容に合わせ、自然と歌声が変化していったような気がします。例えば、Aメロはポツポツと自分の本音が漏れていくようなイメージで。ラップの部分はちょっと強がりな自分といいますか、普段の自分よりも大きくありたいという思いで歌っています。サビは主人公の女性の本音を直接ぶつけるような気持ちで歌っていて。そんなふうに自分で感情を切り替えていったのが、歌い方に反映されているのかもしれません。この曲はまず、ラップからレコーディングしたんです。ラップがバシッと決まったところで、それがまた自分の自信となり、ほかのパートも気持ちよく歌うことができました。

──ラップありのダンスチューンということで、これはまたライブで楽しみな曲ですね。前回のインタビューで「Fightin★Pose」の高速ラップ×高速ダンスを「さすがにどうかしてるなって自分でも思いました。青ざめてました」とおっしゃってましたが、それを成功させたあとに、また自分に挑戦を課して追い込んでいくという。

私も、これはまた爆弾的な曲が誕生してしまったなと思って。歌って踊ったらいったいどうなってしまうんだろう、という恐怖は感じていますね。でも楽しみでもあり……。

──やっぱりワクワクするんですね。

はい(笑)。追い詰められるとなぜかワクワクしちゃいます。

またいつもと違う表現ができるんじゃないか

──アルバムの中でも「慈しみカンパニュラ」は全体的に憂いを感じるような切ないメロディでありながら、サビではキラッとした音が入ってちょっとポップなアレンジになり、面白い展開の楽曲ですね。

メロディラインがすごく素敵だなと思っていて、ずっと温めていた曲なんです。アルバムにこの曲を入れたら、変化球になるというか。またいつもと違う表現ができるんじゃないかなと思いました。不思議な雰囲気のある楽曲なので、そのメロディがより生きるように曲の構成を組み直させていただいたり。

小倉唯

──その不思議な雰囲気と歌詞がマッチしていて。「鐘にのせて響かせてくラフターラ」というフレーズが特に印象的だったんですが、全体的にあまり普段口語では使わない言葉を取り入れている印象を受けました。これはあくまでもイメージなんですけど、中世ヨーロッパの宮殿の庭でお姫様が歌ってるような……。

あっ、そのイメージはかなり正解に近いんです。この曲は、カンパニュラの花の由来と言われているギリシャ神話が元になっているんですよ。果樹園で1人の美しい女性が、兵士に突然命を奪われてしまって。それを見ていた花の女神が、亡くなってしまったかわいそうな女性を花にしたのが“カンパニュラの花”だという神話があるんです。

──なるほど。それで物語調の歌詞になってるんですね。

はい。カンパニュラという花の存在や、こういったギリシャ神話があることを知って、この話が歌詞になったら面白いんじゃないかなと思い、アイデアを提案させてもらいました。「ラフターラ」はギリシャ語で「思慕」という意味で、この曲のテーマにはぴったりのワードだと思いましたね。

──「慈しみカンパネラ」は歌声に憂いがありつつ、優雅さのようなものも感じました。繊細な表現をされていますね。

神話が元になっているので、歌うというよりは朗読をするような感覚に近かったかもしれないです。亡くなってしまった女性のことは悲しくもあり、美しい記憶でもある、という複雑な感情を自分の声色でうまく表現できたらいいなと意識して歌いました。年齢を重ねたからこそ表現できるような、今までで一番大人っぽい歌声を目指しました。