独り言みたいなラブソング
──カップリングの「赤いリボン」は、“運命の糸”というものを表題曲とはまた別の角度から捉えた曲になっていますね。
“青い糸”をテーマにした表題曲とは対照的に、カップリングは“赤い糸”をイメージしたミディアムテンポのラブソングになりました。
──歌詞では「運命の赤い糸 本当にありえるのかな」や「赤いリボンは赤い糸にはなれないし」という弱気な気持ちと、「真赤なリボンで結んでみたい きみと一緒に」という期待が行ったり来たりするような、繊細な恋心が描かれています。
恋する女の子ならではの寂しさや不安、期待感を表現している曲になっています。この曲は好きな人と結ばれている人、まだ結ばれていない人、どちらの気持ちとも捉えられるような感じにしたくて。あえてシチュエーションを曖昧にさせることで、相手に対する距離感や関係性を、聴いてくれた人それぞれの視点によって想像してもらえるような曲にできたらいいなと。
──曲調やサウンドは優しくて温かい雰囲気がありますね。
はい。ただ、あったかい感じでありながら、ちょっと切なさを感じるメロディでもあるので、歌ううえでそのバランスが難しかったですね。
──歌声は「Destiny」とは打って変わって、温かみのある歌声になっていますね。どういうプランを立てて歌入れに臨みましたか?
私はこの歌をモノローグに近いものだと思っていて。相手に向かって話しかけているわけじゃなくて、ずっと独り言なんですよ。独り言だからこそ、心の中では強く言えるというか。相手との距離感が近いようで、近くない。そういうことを意識しながら歌っていきました。
──特にこだわった部分はありますか?
要所要所にある「こっちむいてよ」とか「本当にすき?」といった台詞っぽい箇所ですね。そういうところがこの曲のフックになるなと思ったので、何テイクも重ねて、あとからスタッフさんとどのパターンがいいかオーディションをして決めました。なので、台詞の“選抜メンバー”が集結しています(笑)。
──台詞のニュアンスが、小倉さんはいつも絶妙ですよね。
ありがとうございます。そう言っていただけると、声優をやってきた甲斐がありますね。自分の中ですぐに台詞が何パターンか浮かんできて、それを発することができるのは声優として活動してきた特権だなと思います。
“自分プロデュース”がすごく楽しい
──改めて、このシングルはどういう1枚になったと感じていますか?
「Destiny」はメッセージ性が強くてたくましいロックナンバー、「赤いリボン」は対照的に甘く切ない気持ちを歌ったミディアムテンポの楽曲ということで、1枚で全然違った表情を見せられる作品ができたと思います。ジャケット写真やMVも含め、統一性のあるコンセプトで固められたので、シングル全体を通して楽しんでもらえたらうれしいです。
──「永遠少年」(2018年7月発売の9thシングル)のタイミングで「正直に言うと、最初は『ここでまた挑戦するのは、覚悟がいるな』とも思った」とおっしゃっていましたが、その後のアルバム、今回のシングルと、小倉さんは止まることなく挑戦を重ねていて。
ずっと挑戦ばっかりしてますよね(笑)。特に今年のツアーではかなり挑戦的なセットリストを組んで、この壁は超えられないんじゃないかくらいのハードルを自分に課してしまって。それを超えられたのは、本当に自信につながりました。
──大学卒業のタイミングで「『新たにこれを目指します』というものはないです」とおっしゃっていましたが、やはり小倉さんは何か大きな野望を掲げて進んでいくようなタイプではないですよね?(参照:小倉唯「白く咲く花」インタビュー)
そうだと思います。目の前にあることを、地道にがんばっていこうという感じですね。
──これだけ次々といろんなことに挑戦し続けるのは、かなりのエネルギーが必要だと思うのですが、何が小倉さんを挑戦に駆り立てているんでしょうか?
あー、それはたぶん“不安”ですね。
──不安?
自分がアーティスト活動をしていることが、奇跡に近い出来事というか。幼い頃はそんな未来を予想していなかったので。デビューしたからにはやってやろう、恥ずかしくないところまで達したいという思いがあったんです。だから今も、なんて言うんだろう……「認められたい」という感情に近いのかな。コンプレックスが強いからこそ、もっともっと克服していきたいとか、ここを認めてもらえたなら次はここもリベンジしたいなと思うし、自分が自信を持つためにいろいろとがんばれる。自分が何かをすることによって皆さんに喜んでもらえて、それを実感したときにもっとできることがあるんじゃないかなと思う。そういった探求心ですね。
──それが挑戦の原動力になっていると。
そうだと思います。今年は挑戦的な活動が多かったので、来年は少し落ち着きたいなという気持ちもあるんですけどね(笑)。ひさしぶりにラブリーな曲を歌って、原点回帰してみるのもいいなあとか。
──10枚目ということで、アーティスト活動においてご自身の中で心境の変化はありますか?
これまでいろいろな作品を出したり、ツアーをやってきたことで、自分が表現したいもの、表現できるものが、今は明確に見えるようになってきていて。なので、最近は“自分プロデュース”がすごく楽しいんです。
──アルバム「ホップ・ステップ・アップル」で初めて歌詞のコンペに参加したとおっしゃっていましたよね。
そうですね。トラックダウンにも立ち会わせていただくようになって。
──今回も立ち会われたんですか?
2曲とも行きました。レコーディングでイメージ通りに歌えても、トラックダウンで雰囲気がガラッと変わっちゃうこともあって、それがすごくもどかしく感じていたんです。でも、最近はいろんなことにおいて「こう表現したら、こうなるんじゃないか?」と客観的に自分をプロデュースできるようになってきた気がします。そういったところをどんどん磨いていければいいなと思っているので、ファンの皆さんには、ぜひ今後の作品やライブも楽しみにしていただけたらうれしいです。