雨の森はウソつき
──いろんな挑戦が詰まったアルバムですが、その中でも「雨の森はウソつき」は衝撃作ですね。
この曲、衝撃的ですよね(笑)。
──悲痛な思いを1人きりで叫んでいるような楽曲で、「痛い 痛い 痛い」というフレーズが胸に刺さります。どういった経緯でこの曲がセレクトされたんですか?
この曲はかなり早い段階でアルバムに入れることが決まったんですよ。今までにないウェットな質感と懐かしさのあるメロディがとても魅力的で、「これはぜひチャレンジしたいよね」とスタッフさんとも満場一致で決まりました。歌詞についても、最初の段階からほとんど変わっていないです。最初は「痛い」というフレーズについて「ちょっと強すぎませんか?」とスタッフさんに相談したんですけど、「それがいいんです」ということだったので、思いきってこの世界観を表現してみようかなと。
──小倉さんの中にこういった憂いが前面に出た痛ましい表現もあるんだなと驚きました。
歌うとき、試されているなと思いました(笑)。聴いている人をハッとさせたいなと思ってがんばりましたね。「雨の森はウソつき」は最近声優としていろんなキャラクターとの出会いがあったからこそ、チャレンジできた曲だと感じています。昨年は役を演じるうえでの自分のスタンスを改めて考えたり、声色の幅が広がっていった1年で。表現のバリエーションが増えましたし、そこで得た新しい価値観によって今回こういう曲に挑んでみようとも思えました。そういった声優活動とアーティスト活動の相互的な作用もありますね。
──具体的にはこの曲をどのように解釈されましたか?
この曲は小説のように具体的な物語があるというよりは、絵本のように大きな世界観が広がっているイメージで歌っていきました。雨降る森の中で、行き場のない女の子が悩みや苦しみを叫んで、愛を求めていて……そういういたたまれない気持ちを伝えられたらなと。この曲はアルバムの中でも特に皆さんの耳を引き付ける曲だと思うので、ぜひ皆さん衝撃を受けてほしいです(笑)。
Hopeful Days
──「Hopeful Days」は作詞の磯谷佳江さんが小倉さんの思いを汲み取ってそのまま歌にしたような……。
そうなんです!
──1歩1歩着実に前に進んできた小倉さんの姿が、「歩んできた道があるから 今ここにいるって思うの」「続けてゆくことが 何より チカラになってゆく そうでしょう?」と飾り気のない言葉で描かれています。
この曲は私からスタッフさんに「こういうイメージの曲をアルバムに入れたいです」と曲の方向性を提案させてもらって、いろんな方に歌詞を上げていただいたんですよ。それで私も初めて歌詞のコンペに参加させていただいたんですけど、やっぱり磯谷さんには全部バレてるなって(笑)。
──ははは(笑)。
お手上げだなと思いました、ホントに。私はこの曲を通して“どんな場所にいたって自分は自分”“続けていくことが何よりも自分にとって大事なものになる”というメッセージを伝えたかったんですけど、そういった思いを等身大の言葉でまとめてくださったので本当に感動しました。
──小倉さんから磯谷さんに具体的なキーワードを渡しているのかなと思うくらい、小倉さんの姿がそのまま反映されていますね。
「こういう言葉でお願いします」というような限定的なことはお伝えしていないんですけど、最初からほぼこのままの歌詞でした。磯谷さんはレコーディングにもよく来てくださったり、ライブにも毎回足を運んでくださって、MCも聞いていただいているので。自分の気持ちはしっかりと伝わるものなんですね。ちゃんと活動してきてよかったなって思いました(笑)。
──小倉さんの姿がそのまま描かれた曲だからか、歌も飾り気のない声色になっています。
ちょっと語りかけるようなイメージで歌うというよりも、モノローグに近い雰囲気で歌いました。ひとり言のように自分の気持ちを語っているような、そんな曲にできたらいいなと思いました。
──そもそもこういったご自身のことを歌う楽曲をアルバムに入れたいと思ったのはなぜなんでしょう?
今、自分の周りの環境がすごく変化している時期なので、そういったところが影響しているのかもしれません。年齢を重ねても、環境が変化しても、それでもやっぱり自分は自分でいたいという思いをこの曲に込めたので。どこにいっても怯まずに、自分という軸をちゃんとブレずに持っていれたらいいなって、このタイミングで意思表示させていただきました。
Love Me × Love Me
──シングルのカップリング曲でアルバムに入っているのは、この「Love Me × Love Me」が唯一ですよね。
そうですね。最近はクールな楽曲が多かったので、ここまで振り切ってラブリーな世界観を歌うのは楽しかったです。この曲はダンスメインでMVが構成されていたり、アルバムにダンスバージョンの映像が入っているので、ぜひライブでパフォーマンスを楽しんでもらいたいです。早くライブで披露したいですね。
──リリース時のインタビューでは女の子に楽しんでいただきたい曲だとおっしゃっていました。
はい。ともかくMVの人気が高くて、ダンスも好評だったのでよかったです。早くライブで観たいと思ってくださっているファンの方も多いんじゃないかな。この曲を披露するときは、ヘッドセットでパフォーマンスしたいなと思ってます!
Brand-New-Road
──「Brand-New-Road」は小倉さんが監修したハイレゾプレーヤー「AK70 MKII Yui Ogura Edition」に収録されている楽曲で、今回初めてCD音源化されることになりました。多保孝一さんが作曲したこの曲は、とても壮大で包容力のあるナンバーですね(参照:小倉唯監修ハイレゾプレーヤー登場、ボディに実姉SAKITTY ART描き下ろしイラスト)。
すごく美しくて煌びやかなんですけど、芯の強さというか、女性の強さを感じる曲です。この曲を歌ったとき、私の中ではお母さんとか、現代社会の厳しさを乗り越えていく女性の姿が思い浮かびました。
──世界を愛で包み込むような、これほどスケール感のある楽曲を表現できているのは見事ですね。
ありがとうございます。この曲は視点の置きどころが難しかったですね。いつもだったら楽曲からイメージした景色を思い浮かべながら歌っているんですけど、この曲は自分がキラキラした光の中にいるような感じで歌っていたんです。何か対象があってそこに歌いかけるんじゃなくて、自分がキラキラしたものを発信することで、それに気付いた人が染まっていくみたいな……そういうイメージで歌いました。
──1つひとつの言葉を、大切に歌われている印象を受けました。
それは多保さんのディレクションが大きいかもしれません。こういったテイストの楽曲に初めてチャレンジしたので不安はあったんですけど、多保さんが温かく丁寧にディレクションしてくださって。レコーディングの中で得るものがたくさんありました。
──具体的にはどういったディレクションを受けたんでしょうか?
いつもディレクターさんからは「ここの『あ』の音がちょっと『お』っぽくなっています」みたいな作業的な指示をいただくことが多いんですが、多保さんには精神的な部分でディレクションしていただいた記憶があります。「もうちょっとこの視点で、こういう気持ちを置いて歌ってみよう」とか。歌っているアーティスト目線で考えてくださっているのかなという雰囲気でした。視点を変えて歌ってみたら、こんなに歌も変わるものなんだなという驚きがありましたね。