小倉唯|変わらない信念を抱き、新たな世界へ

こういう面も見せていいんだ

──「白く咲く花」は小倉さんの本質的なところや今のモードに重なる楽曲だとは思いますが、一般的なイメージで言うと小倉さんはそれこそ「Honey♥Come!!」や「Baby Sweet Berry Love」のようなキュートでポップな楽曲の印象が強いと思います。学生生活が終わる大事なこのタイミングでシングルの表題曲にこういった大人っぽいナンバーを持ってくること、その挑戦に対する怖さはなかったですか?

小倉唯

さっきの自己開示の話につながることかもしれないんですけど、ここ数年で自分が思い描いてた「こうじゃなきゃいけない」というイメージがだいぶほぐれてきたことによって、最近はだんだんファンの方に対しても「こういう面も見せていいんだ」と思うようになって。素の自分に近いものを見せることが、前よりもだんだん怖くなくなってきたんですよね。あと、ずっと同じことを続けることももちろん大事ですが、それに加えて日々挑戦していきたいという気持ちもあるので。そういう部分でうまくバランスを取って、今回こういう楽曲にチャレンジしようかなというところまでたどり着けました。

──小倉さんの歌声もしなやかで凛としたものになっていると思いますが、どういうことを意識しながらレコーディングしていきました?

「白く咲く花」はいつもとは違う段取りでのレコーディングだったんですよ。いつもは楽曲ができあがって、レコーディングをして、そのあとに皆さんの前で披露したりミュージックビデオを撮影して……という流れだったんですけど、今回レコーディングのときにはすでにツアーで初披露して、ミュージックビデオも撮り終えていましたね。一度お客さんの前で披露したことによって、自分の中で曲の世界観やイメージが定着した状態でレコーディングに臨めたので、技術的に難易度の高い曲だからと言ってすごく苦戦したという印象はないです。どちらかと言うとイメージがどんどん湧いてきて、自分の世界観に浸かりながら気持ちよく歌えました。

──そのフローでのやり方は今までもあったんですか?

いや、なかったですね。レコーディングの前に振り付けも完成していて。今回振り付けも今までと違った感じで、全身で表現してるんですよ。ダンスと言うよりも身体表現に近いような、伸びやかでキレのあるような振りになっています。

──ミュージックビデオでも、この曲の凜とした強さが白いワンピースでのダンスシーンから伝わってきますね。

今までダンスショットはカメラに目線を向けながら踊ることが多かったので、カメラを見ないで踊るのがすごく新鮮で、ちょっと不安でしたね。「こんなに見なくていいのかな」みたいな(笑)。

──雪の中に佇むシーンにも楽曲の世界観が出ていますね。

撮影に大雪の日が被ってしまって(笑)。予期せぬ事態だったんですが、「白く咲く花」ということで、白い花びらが舞ってるイメージで観てもらえると!

心はみんな一緒でずっとつながってる

──今回シングルとしては、初めてのカップリング2曲入りですね。

そうなんですよ!

──「ずっとふたりで」は「白く咲く花」とはまた別の角度から卒業というものを歌っている曲です。ポップでキラッとしたナンバーになっていて、これはさっきの話で言うなら小倉さんのパブリックイメージ、王道に近い感じがあります。

まさにそうです。表題曲でガッツリと今までと違う一面を見せているので、カップリングには自分らしいアップテンポなナンバーを1曲入れたいと思ったんですよ。歌詞は遠距離恋愛をイメージしていて、1番では男の子の視点、2番からは女の子の視点に切り替わって、そのあと両思いになるという流れがあります。物語性があってかわいらしい曲になっていると思いますね。

──大切な人と物理的な距離は開いてしまうけど「どこだって会いにいく どんな日も大丈夫」っていうように、前向きにその距離と向き合おうとしてるナンバーですね。これはどういう気持ちで歌われましたか?

遠距離恋愛というテーマにはなりますが、私は自分とファンの方の関係性に通じる部分があると思っています。今ちょうどツアー中なんですけど、いろんな地方に行かせていただく中で、やっぱりその場でしか会えない方がいらっしゃって。でも、距離は遠いけど心はみんな一緒でずっとつながってるんだということを、そこですごく実感したんですよ。この曲はライブでもすでに披露しているんですけど、ファンの方にもこういうふうに私のことを思っていてほしいですし、応援してくださっているファンの方に私の感謝の気持ちが伝わればいいなという気持ちで歌わせていただいています。

“学校”は人に与えられた可能性の1つ

小倉唯

──そしてもう1曲のカップリングは、小倉さんが初めて作詞をされた「かけがえのない瞬間」です。「ハイタッチ☆メモリー」のインタビューで小倉さんは「作詞は今のところは考えてないです。まだちょっと恥ずかしいので」とおっしゃっていたかと思うのですが(参照:小倉唯「ハイタッチ☆メモリー」インタビュー)、あれから2年半を経てどういう心境の変化があったんでしょうか?

正直、やるつもりはずっとなかったんですよ(笑)。でも前々から「作詞どう?」というお話はいただいていて。なかなかきっかけはなかったんですけど。ただ今回……実は「かけがえのない瞬間」は、歌詞を付ける前から今回のシングルに入れようとずっと前から決まってたんですよ。「すごくいい曲だからいつかまたこれは絶対歌おう」と温めてきた楽曲だったんです。自分としてはいきなり表題曲で作詞に挑戦するのはハードルが高くて自信がなかったので、ゆくゆくやるのであれば自分自身の気持ちを素直に描けるバラード曲のほうが最初は挑戦しやすいだろうなというのを前々から思っていて。いろんな要素が重なって、この曲で今回「やります」と決断しました。

──冷静に判断したうえでの挑戦だったんですね。いつ頃に書いた歌詞なんですか?

これは年末ですね。卒論と同時進行で作詞に挑みました!

──今回小倉さんの学生生活からいろんなシーンを切り取った歌詞になっていますが、卒業というテーマから「かけがえのない瞬間」というワードはどのように出てきたんですか? 春夏秋冬と、季節に沿った歌詞になっているのも印象的でした。

小倉唯直筆の「かけがえのない瞬間」歌詞。

小倉唯直筆の「かけがえのない瞬間」歌詞。

まず自分の中で最初に決まっていた軸としては……私はこれまで学生生活と仕事を両立しながらやってきた中で、学校という場所があったからこそ自分を保てているところもあったんだなと思ったんですよ。それは友達との何気ない会話だったり、楽しい瞬間だったり、いつも支えてくれてる家族だったり……そういった学生時代の1つひとつの瞬間がつながって今の自分の力になっているということを描きたくて、こういう歌になりました。

──この歌詞で書かれている学生生活の中の何気ないシーンは、卒業する今だからこそ「かけがえのない瞬間」だと気付けたんでしょうか?

小倉唯

いや、私はわりと冷静なタイプなので学生時代からずっと気付いてて、噛み締めながら生活してました(笑)。もちろん卒業するこのタイミングだからこそ「あのときってこうだったな」と感じる部分もあるんですけど、私は普段から達観して物事を捉える人間なので、友達と話したり遊んでても「これって今だけの景色なんだな」と思いながら。仕事もしているから、より学校での時間を尊いものとして感じていましたね。一瞬一瞬大事にしようって。

──小倉さんにとって学生生活って、改めて考えるとどういうものでした?

学生生活は……人に与えられた可能性の1つと言うか(笑)。人間を構築するうえですごく大事な機関だということを思い知らされました。学校を考えた人はすごいなって思ったくらい。

──それは人との関わりとか?

人との関わりもそうですし、私は自分自身のアイデンティティを確立するのってすごく時間がかかる作業だと思っていて。それってただ単にいっぱい本を読んだから解決するのかという話ではないし、社会に出ていろいろ経験したから構築されるのかというわけでもなく。学校という1つの特殊な組織にいるからこそ気付けること、学べるものがたくさんあると思うんですよ。私は学校生活があったからこそ、ちゃんと今の自分になれている気がしています。特にこの仕事をしてると、どうしても考え方が偏りがちになってくるんですけど、学校でいろんな人と関わることによっていろんな人生観や価値観を学ぶことができましたね。