音楽ナタリー PowerPush - 小倉唯
待望の1stアルバムを手に語る“イチゴのジャム”の作り方
「Strawberry JAM」じゃなかったら歌わなかった言葉
──ただ小倉さんがメッセージ性の強い楽曲を歌うのは「Get over」が初めてではないですよね。今年の頭のゆいかおりのシングル「NEO SIGNALIFE」も自身の思いをしっかり言葉にした曲でした(参照:ゆいかおり「NEO SIGNALIFE」インタビュー)。
そうですね。
──今年に入って「ボーカリスト小倉唯が歌いたいこと」が変化してきてます?
確かにいろんな経験をさせてもらってきたことで、やっと自分の思いを伝える自信が付いたっていう面もあるんですけど、今回のアルバムがもし「Strawberry JAM」じゃなかったら、小倉唯の名前では「Get over」みたいな曲は歌わなかったかもしれないです。
──「『Strawberry JAM』じゃなかったら歌わなかった」?
「いつだってCall Me!」なんかを選んだ理由と同じなんですけど「私のいろんな表情をジャムみたいに詰め込んだアルバム」っていうテーマがあったから、思いをちゃんと伝えられる自信の付いた私を見てもらっても面白いのかな?って思えたというか……。
──その表現欲求の湧き方って面白いですよね。歌いたいことありきでアルバムを作るのではなくて、「Strawberry JAM」という枠組みありきで歌うべきこと、歌いたいことを発見している。
あっ私、今回に限らずいつもそういう感じかもしれないです。やってみたいことももちろんあるんですけど、それを実現すること以上に、「こういうCDを作りましょう」「このアニメのこの役を演じてください」っていう枠組みの中で自分のできることを考えるほうが楽しかったり、その枠組みの中で自分の力を出し切れたほうがうれしかったりしますし。
──なんでなんですかね?
コンプレックスに思っていた自分の声のことを皆さんが受け入れてくれたっていうのが、声優としての活動と音楽活動の原点にあるからなんだと思います。自信がなくて不安でも、与えられた場所で全力を出せば、応援してくれる方が現れることや、その人たちとちゃんとつながれることを実感として知っているから、期待されている場所ではやっぱりがんばりたくなるというか。あと私、料理が好きなんですけど、なぜごはんを作るのが楽しいのか?っていったら、一緒に食べる人に喜んでもらえるのがうれしいからっていう理由もあって。それは料理に限らず、なんでもそうで、やっぱり人に喜んでもらうことが好きなんです。もちろんお料理するのには“私が”おいしいものを食べられるからっていう理由もあるんですけど(笑)。
「Raise」が“イチゴジャム”にもたらしたもの
──そのごはんの中身なんですけど、定番メニューすらちょっと味付けを変えてますよね。要はデビューシングル「Raise」のことなんですけど……。
アレンジを少し変えていただいて、ボーカルも録り直してます。
──シングルバージョンの「Raise」はドラムに景気よくエフェクトをかけたりと面白い音作りをしていたんだけど、アルバムバージョンはもっとすっきりとした音像に仕上げていて。しかも小倉さんのボーカルスタイルもオリジナルバージョンとは違う。
ちょっと余裕のある感じで歌ってみました(笑)。
──そうやってしっかりリメイクしてるから「なんちゃらかんちゃらミックス」みたいな、もっとド派手なバージョン名にして目立たせてあげればいいのに、とすら思いました(笑)。
あはははは(笑)。でもおっしゃる通り「Raise」は本当に大切にしたくて。デビュー曲ということもあって3年間、本当に何回も歌い続けてきた曲、いろんな経験をしてちょっとずつ成長してきた私にずっと寄り添ってきてくれた曲だから、今回は小倉唯を集大成する意味でも3年間で培った力で改めて歌い直してみたかったんです。
──しかもこの「Raise」はアルバムのB面の始まりを告げる機能も果たしている。この7曲目を境にアルバムの質感が大きく変わります。
ここからはホントにいろんな表情の曲を詰め込んでみました(笑)。
──アルバム前半の「いつだってCall Me!」や「A Lovely Tea Break」のメロディラインとアレンジも新機軸ではあるんだけど、ポップで明るいトーンは2nd以降のシングル曲と地続き。でも後半戦はというと……。
まず「シュガーハートエイク」という私の曲としては初めてのバラードがあって(笑)。
──とはいえ“フラれて泣きました”みたいなベタなバラードではない、という。
脆いんだけどどこか甘いし、甘いんだけどどこか脆くて(笑)。この曲はまさにテンポ感で選んだ曲なんです。バラードといえばバラードなんだけど、そんなにスローではないし、メロディも切ないし、ほろ苦いんだけど、悲しすぎはしなくて。ちょっとかわいくもあるから……抽象的な言い方で申し訳ないんですけど、みんなの心を鷲づかみにする感じじゃなくて、ちょっとつまむようなイメージで歌ってみたら、甘いんだけどどこか脆い、私ならではのバラードになるかなって思ってました。
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- 1stアルバム「Strawberry JAM」 / 2015年3月25日発売 / キングレコード
- CD+Blu-ray / 3996円 / KIZC-276~7
- CD+DVD / 3996円 / KIZC-278~9
- 通常盤 [CD] / 3024円 / KICS-3174
CD収録曲
- FUN FUN MERRY JAM
[作詞:中原徹也 / 作曲:ARM(IOSYS) / 編曲:大久保薫] - Charming Do!
[作詞:磯谷佳江 / 作曲・編曲:奥井康介] - いつだってCall Me!
[作詞:松井五郎 / 作曲:板垣祐介 / 編曲:菊谷知樹] - A Lovely Tea Break
[作詞:大森祥子 / 作曲:CHI-MEY / 編曲:大久保友裕] - PON de Fighting!
[作詞:大森祥子 / 作曲・編曲:大久保薫] - Get over
[作詞:松井五郎 / 作曲:小野貴光 / 編曲:山口朗彦] - Raise(album ver.)
[作詞:只野菜摘 / 作曲:俊龍 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)] - シュガーハートエイク
[作詞:こだまさおり / 作曲:小野貴光 / 編曲:山崎寛子] - Tinkling Smile
[作詞:磯谷佳江 / 作曲:小野貴光 / 編曲:大久保薫] - Happy Strawberry
[作詞:山口朗彦、中原徹也 / 作曲・編曲:山口朗彦] - Baby Sweet Berry Love
[作詞:山崎寛子 / 作曲:俊龍 / 編曲:Sizuk] - Sing-a-ling-a-Harmony
[作詞:こだまさおり / 作曲:俊龍 / 編曲:大久保薫]
Blu-ray / DVD 収録内容
- Happy Strawberry(MUSIC VIDEO)
- Raise(MUSIC VIDEO)
- Baby Sweet Berry Love(MUSIC VIDEO)
- Charming Do!(MUSIC VIDEO)
- Tinkling Smile(MUSIC VIDEO)
- Making of Strawberry JAM
小倉唯(オグラユイ)
1995年群馬県生まれの声優、アーティスト。2009年に14歳で声優デビューし、2011年「神様のメモ帳」のアリス役、「ロウきゅーぶ!」の袴田ひなた役で大きな注目を集め、以来、毎シーズン放映のアニメの主要キャラを演じるように。また2010年に石原夏織と結成したユニット・ゆいかおりでメジャーデビューを果たし、2011年には「ロウきゅーぶ!」の出演声優ユニット・RO-KYU-BU!で歌った楽曲の数々がスマッシュヒットを記録するなど、声優業と並行して積極的に音楽活動も展開している。2012年にはシングル「Raise」でソロデビュー。2014年8月リリースのアニメ「ヤマノススメ セカンドシーズン」のエンディングテーマ「Tinkling Smile」まで、4枚のシングルを発表しており、2015年3月には1stフルアルバム「Strawberry JAM」をリリースする。