ナタリー PowerPush - 踊ってばかりの国
共感不要の傑作アルバム「世界が見たい」
「言いたいこと言えなくなるぞ」って思った
──今回の「世界が見たい」というアルバムに関しても、制作にあたっては特にコンセプトを立てたわけではなかったわけですよね。
そうですね。タイトル曲ができたのが最近だったんで。「EDEN」とか「僕はカメレオン」はもっと前からあったんですよ。で、地震が起こって、このタイトルにするのもええかなっていうので、これにしたんですけど。
──「EDEN」に「今はイカサマの時間だね バカは騙されるよ」という歌詞がありますよね。僕としては、震災や原発事故以降の社会を歌ったような価値観や感覚を感じたんですけれども。でも、実は前からあった曲なんですね。
そうなんですよ。曲を作ったのは一昨年とかの話なんで。
──このアルバムの全体のムードにも、3月11日以降にどう物事を感じたか、どういうスタンスでこのバンドがいるかというのが、如実に出ていると思うんです。
そうですね。容赦がないというか。結構みんな「これは聴いた人に引っかかるかな」とか考えて歌詞を書くと思うんですけれど、俺らはインディーズやし、そんなもんはええかなって。そんなことばっか考えてたら「言いたいこと言えなくなるぞ」って思ったんで。
──それこそ、震災直後には「踊ってばかりの国」というバンドの名前自体が皮肉のような状況になったわけで。「EDEN」についてもきっとなんらかの符合は感じたと思うんです。曲が状況にリンクしたという感覚はありました?
これはホンマ不謹慎かもしれないけど、自分でもちょっと「おもろいやんけ」って思ってました。でもね、敵を作るじゃないですか、この名前って。どう思います?
──あのね、これは僕がこのアルバムを聴いた感想なんですけれども。今、ロックバンドやいろんなジャンルの表現者の人で「こういうときに出すアルバムだから希望を感じさせるものにしたかった」と言う人はすごく多いんですよ。でも、このアルバムに関しては、それが一切ない。きれいさっぱりないですよね?
ないですねえ。なんかね、ダサくないっすか?(笑)
──そうそう、その感覚がアルバムにある。それがこのアルバムのカウンターカルチャーらしさにもつながっていて。
あんまり「がんばれよ」とか好きじゃないんですよ。みんなポジティブばっかりになってません? この国、今、躁病っすよ、多分(笑)。
結局死ぬから、やっぱり覚悟せなあかん
──踊ってばかりの国って、鳴らしてる音はすごく柔らかで手触りのいい感じなんですよね。
はい。生ぬるい感じですよね。
──で、メロディもポップだと思うし。でも歌詞にかなり毒がある。
まあ、歌詞に関してはしょうがないっすね。「アイラブユー」なんていらないでしょ。サムくないっすか?(笑) 逆に次のアルバムで突然そういう歌詞を書き出したらどうします?
──「どうしたんだろう?」って思います(笑)。
でしょ? 金を欲しがりだしたぞ!って。
──そもそも踊ってばかりの国は「死」についての曲がすごく多いですよね。歌詞にも「死ぬ」「殺す」という言葉がよく出てくる。これはどういう理由で?
これは友達が言ってたんですけど「人生は罰ゲームや」って。「なんで生まれたのに、死ななあかんねん」って。そんときにハッと気付いたことがあるんですよね。「これヤバイな。そっか、死ぬんか」って。死ぬのってぶっちゃけ怖くないっすか? その概念ばっかりで書いちゃってる感じですね。
──思ったり考えたりすることの視界に、まず死が入ってくるという?
いちいちそんなん考えてないっすけどね。ただ、死にかけたことがあったんですよ。髄膜炎になって入院して「今夜がヤマや」みたいなことをホンマに言われて。しかもそれが2~3回あって。そういうところから、死ぬことにビビるようになっちゃいましたね。
──ビビるって言ってますけど、「死」というものに対してある種「喧嘩上等」って捉えてる感じもします。
いやいや、できれば死なん方向でいきたいですわ(笑)。でも結局死ぬじゃないですか。だからやっぱり覚悟せなあかん。言い聞かせてる感じなんすかね。
収録曲
- 世界が見たい
- !!!
- going going
- 言葉も出ない
- ドブで寝てたら
- 僕はカメレオン
- EDEN
- 反吐が出るわ
- よだれの唄(リアレンジ)
- 悪魔の子供(アコースティック)
- お涙頂戴
- 何処にいるの?
- セレナーデ
踊ってばかりの国(おどってばかりのくに)
下津光史(Vo, G)、林宏敏(G)、柴田雄貴(B)、佐藤謙介(Dr)からなる4人組バンド。2008年神戸で結成。2009年3月に発表した自主制作盤1stミニアルバム「おやすみなさい。歌唄い」と2010年3月の2ndミニアルバム「グッバイ、ガールフレンド」がともに好評を得、同年「FUJI ROCK FESTIVAL」「RUSH BALL」などの大型フェスに出演。2011年3月には初のフルアルバム「SEBULBA」を発表し、全国ツアーを行うなど活動の幅をさらに拡大させる。同年11月には2ndフルアルバム「世界が見たい」をリリース。