爆音かつ繊細、最高傑作アルバムついに完成
小谷美紗子のニューアルバム「Out」がいよいよ6月13日にリリースされる。これは(かなり控えめに言っても)2007年の日本の音楽シーンを代表する1枚と言えるだろう。
1曲目「消えろ」のイントロから、絨毯爆撃のような音の粒が降り注ぎ、その歌声は聴く者を叱り飛ばしてみたり、やさしく赦してみたり。そしてシングルとして先行リリースされた2曲目「YOU」、壮大なスケールで歌い上げる「Out」と、冒頭の3曲でつかみはオーケー。これだけで完全に持っていかれてしまう。
「この3曲はどれがシングルになってもいいと思ってたんです。ほら、試聴機の事情とかもあるし(笑)、アルバムの最初のところは、なるべく1回聴いただけで気に入ってもらえるようなものにしたいと思ってました」(小谷)
そしてそれに続くアルバム後半の4曲は、さらに濃く深く。「京都の山奥から東京にやってきた」と語る彼女が独自の視点で歌うラストの「東京」まで、切なくも美しい楽曲が続き、小谷美紗子の世界に思わずズブズブとハマっていってしまう。
「実はそれを狙ってるんです。ワニが獲物を食べるときみたいに、ひきつけておいてパクッと捕まえたい(笑)」
ジャンルを超えた音楽の力に震える
それにしてもものすごい迫力だ。ドラムとベースとピアノだけのアンサンブルが、アルバム1枚を通して強烈な意志を持って迫ってくる。初期の小谷美紗子は、どちらかというと"歌"に集中するアーティストというイメージがあったが、このアルバムは"音"自体の存在感がとにかくハンパない。
「でも10年前から変わってないんですよ。丸くなったとは言われますね。昔は怖い人だと思われてた(笑)。だけど自分ではずっと楽しくやってるし、今ピアノトリオでこういうアプローチの音楽をやってるからといって、昔の音楽を否定しているわけじゃない。確かにアレンジは違うけど、でも例えば1stアルバムと3rdアルバムを比べてもぜんぜん違いますからね。だから聴く人の好みじゃないかな。単純に今の私がやってることを好きな人が以前より多かったっていうことだと思う。私は自分が今までやってきた音楽はぜんぶ好きだから」
そしてこれだけ主張の強い演奏の中で、きちんと歌が聴こえてくるというのがまたすごい。アルバムでもライブでも、ボーカルの音量が特に大きいわけではないのだが。
「バンドでやるときに、ドラムとベースが聴こえないような音はすごく嫌いなんです。芯が見えない感じがする。そうすると歌がつまらなく聴こえてしまう。そうじゃなくてちゃんとドラムがバンって鳴って、ベースがドーンと支えていたら、歌のバランスが小さくても耳が歌のほうに行くんです。だから歌が大事であればあるほどそういうミックスがいいって、昔からそう思ってますね。私の声はすごくちっちゃくても聴こえるんです。聴こえるって自分で信じてるんです」
なるほど確かにこのアルバムを聴くと、まずはその鮮烈な演奏に圧倒される。歌と楽器がせめぎ合い、でも最終的に心に残るのは、小谷美紗子の"歌"なのだと思う。ロックもポップスもジャズもソウルも関係ない、ただひたすらにやり遂げた"音楽"としてのひとつの到達点。この傑作がすべての音楽ファンに届くことを願うばかりだ。
ーー最後に。今回ナタリーでは3週にわたって小谷美紗子の特集ページを企画したが、この短い間にも彼女の音楽がどんどん世の中に広がっているのを強く感じる。ライブハウスで隣の観客が息を呑む音。インストアライブ後のCDの売れ行きがズバ抜けているという話(だからあの爆音が許されるという説も!?)。これまで孤高のアーティストと呼ばれていた彼女だが、そろそろブレイクの瞬間が近づいているのかも。その証拠に、こんな人たち(↓)もどっぷり小谷美紗子に夢中だったりするわけで……。
小谷さんの歌は、とっても強くて太刀打ちできないように思いますが、その強靱さに見え隠れする「弱さ」みたいなものが、私はすんごく好き なのです。
星野源(SAKEROCK)/ミュージシャン・俳優
正直言いますと私は数えられないくらい小谷さんの音楽に救われています。そして素晴らしいアルバムをありがとうございます。また泣いちゃうじゃん・・・。
松本素生(GOING UNDER GROUND)
素晴らしい! 本当にすっげぇアルバムが出来たね!
もはや俺がどうこう言えるレベルではないので、手紙を書いてみました。
この前、会ったばっかなんだけども(笑)。
「生」と「死」。
今回のアルバムの曲にはこの2文字がとても印象的に用いられているよね。
美紗子ちゃんの歌詞も、俺の詩もリアルだからさ、
この数年、100sのメンバーと美紗子ちゃんと、
幾夜と知れず話した貴重な時間を思い出します。
お互い、いろいろあったもんねぇ。
お互い、と言えば、お互い10年選手ですな!
正確に言うと、美紗子ちゃんの方が先輩なんですけども。
美紗子ちゃんに初めて会ってからもう5年くらい経つんだもんな~。
でもさ、俺らって、きっと、何年やっても、
始まることにワクワクして、終わることに立ち向かって行くんだろうね。
お互い、じいさんばあさんになってもさ、
部屋飲みでさ(笑)、どーしょーもない事でも話してさ、
音楽していこうね。
んじゃ、また、次の会の名目を決めましょう!
中村一義(100s)
ますます、才能絢爛継続中である。
ぼくから見るにある時から、より一層オーセンティックなスタイルへ進み始めた彼女の音楽は、それまでの氷山の一角の下、つまり海面下に広がるスケールの大きさが海面に顔を出すがごとくに感じられるものと言い切れる。
本人にとっての真実の音楽を、それまでの活動の経験を、望む望まずに関わらず踏まえた上で実現できるかどうかは、ある程度のキャリアを積んできたアーティストにとっては避けて通れないものなのであるが、彼女は確実にそれを成し遂げている。
そして、最近感じるのは、衝撃的なデビュー時の彼女の音楽に秘められていた沢山の胞子は実は今、次々と実を結んできているのではないかというところだ。
彼女の才能はもはや「可能性」の域ではない。
佐藤竹善
■2007年6月13日発売 ■2205円
先行シングル「YOU」に続きピアノトリオで制作された、セルフプロデュース3作目のニューアルバム。濃密な歌の世界と、力強く軽やかな極上のアンサンブルが全7曲にわたって展開される。初回プレス分のみ豪華ブックレット/応募ハガキのW特典封入。
■2007年5月16日発売 ■735円
アルバムからの先行シングルは激しく切ない恋の歌。性急なビートと情感あふれるピアノに乗せて、唯一無二の歌声が"あなた"の心に突き刺さる。カップリングにはここでしか聴けないレアトラック、1999年発表の名曲「オオカミ」のトリオ新録バージョン(一発録り)を収録。
interview and text by TAKUYA
彼女には駆け出す準備が既に出来ていた。ライブの時に素足で演奏するのはこの為だろう。玉田豊夢と山口寛雄が持ち込んだ強烈なアイデンティティに背を押され、小谷美紗子は駆け出した。強い眼差しで。前を向いて。不敵に。
二宮 友和(eastern youth)