強靱で繊細なピアノグルーヴ！小谷美紗子が今、相当ヤバイ

その歌とピアノで凡百のロックバンドをなぎ倒し、音楽のど真ん中へと突き進む、孤高のシンガーソングライター小谷美紗子。そんな彼女が待望のニューシングル「YOU」をついにリリースした。

2005年のアルバム「adore」以来、ドラムに玉田豊夢、ベースに山口寛雄（ともに100s／スネオヘアーなどで活躍）を加えたピアノトリオ編成で活動する彼女。このシングルは、タイトな8ビートとしなやかなベースラインに乗せて、自身の激しい感情を鮮やかに描き出す、あからさまな名曲に仕上がっている。生き急ぐようなイントロから、流れるようなBメロヘ。そして強い決意を感じさせるサビのフレーズ。切羽詰まった緊張感が全編を覆い、リスナーは曲の世界に深く誘い込まれていく。

「前のシングルが『Who』で今回が『YOU』だから、関連があるのかって聞かれるんですけど。内容的にはつながってるわけじゃなく、不思議と今回『あなたのことだよ』っていうような歌ができただけ。『Who』と『YOU』は違う人のことを歌ってるんです。好きな人のことを歌っているけど、2つの歌の相手はそれぞれ違う人」

小谷美紗子は実在する相手に向けて、実在する感情を歌にする。そういう設定の"物語"ではない。本人は「だってそれしか書けないから」と笑うが、「会いたい」と歌うのは会えないからだし、「傍にいたい」と歌うのは傍にいることができないからだ。そんな切実でリアルな思いが、この歌には込められている。

だが、じゃあこの歌が重苦しく聴こえるかというと、決してそうならないのが不思議なところ。聴けば一発でわかる通り、リズムは躍動感にあふれ、ピアノはボーカル以上に感情豊かに歌い続けている。そして「タイムマシーンはいらない陽炎のような今が欲しい」という必殺のフレーズが耳に飛び込んできたとき、その勢いと鮮烈さに誰もがハッとさせられるだろう。

「うん、そこをいちばん聴いてほしい。それが言いたくて作った曲だから」

彼女に会ったとき、この文章の見出しのように「この曲、ヤバイですね」とバカみたいな感想を伝えてみた。すると彼女は「うん、『ヤバイ』って書いておいてください。それで伝わるから」と笑顔で応えてくれた。「YOU」というのはきっとそういう曲だと思う。

カップリングはアルバム未収録の一発録りレアトラック「オオカミ」

「『オオカミ』をこの3人で演奏したのは（前作の）『CATCH』のツアーのときがはじめてだったのかな。3rdアルバムの『うたき』に入ってる曲で、その頃の曲をトリオでやってみたいと思ってたんです。それで『オオカミ』どうかな？ってライブでやってみたらすごくよくて。自分で感動するくらい。途中まではベースと歌だけだから、ヒロはベースなのにギターみたいに、手が裂けそうになりながら弾いてくれて(笑)。今回はせっかくシングルのカップリングだし、ちょっとした特典みたいな感じでこの曲を入れておきたいと思ったんですよね。私にしては珍しく幸せな恋の歌です(笑)」（小谷美紗子）

彼女は「ちょっとした特典」と言っているが、聴けば「ちょっとした特典」どころの出来ではないことがわかる。スタジオ一発録りのテンションもありつつ、歌には丁寧な感情が込められた、まさに奇跡のテイクなのだ。この曲を聴くためだけにでも、このシングルを買う価値があると思う。