音楽ナタリー PowerPush - OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
TOSHI-LOW×ハナレグミ対談
歌に感じる“人の気配”
TOSHI-LOW ライブのたびに決めるの? この日はこの人たちとやろう、とか。
永積 そうだね。そのときどきで。
TOSHI-LOW こないだマダムギター(長見順)やBO GUMBOSの岡地曙裕と一緒にブルースやってたでしょ。あれもすげえよかった! 俺、ブルースって音楽が苦手で。つまらないし、おじさんの音楽だと思ってたの。でも観たら超カッコよくて。
永積 僕は震災以降、急激にブルースばかり聴いてるの。なんかこう……映像とかで観てると、鬼気迫るっていうか。単純な12小節の構成で、少ないフレーズと決まったサイクルを繰り返すだけで、あとは結局その個人の感情移入だけで成り立ってるから。ブルースってジャンルの1つではあるけど、個人個人の情念が全開になってる状態がブルースって気がして。そういうものにすごく触れたくなったのかなと。でも聴いてると、TOSHI-LOWくんの感覚もそういうところなんじゃないかなって気もする。バンドとかアンサンブルの妙もあるだろうけど、もっとこう、個人のエモーションが歌で聞こえてる気がして。だから今回「FOLLOW THE DREAM」を聴かせてもらって、BRAHMANの去年のアルバム(「超克」)も聴いて、不思議だなあって思ったことがあって。このとき(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)の声ってすごく静かなんだけど、どこか絶叫してるみたいに聞こえて。で、BRAHMANのときはすごく叫んでるんだけど、どこかものすごい静かだなと思って。
TOSHI-LOW へえ。
永積 これって要は、「人の気配」が感じられるってことなんだろうなって。
──音の表面的な形態を超えた人間的な感情が感じられると。
永積 ブルースも、例えばマディ・ウォーターズの曲とか歌ってみるんだけど、圧倒的に埋まらない何かがあるんですよ。ただ歌詞をなぞって歌ってるだけ、みたいな感じになっちゃう。意気込みとか、苛まれてることとか、抱えてることとか、そういうものが鳴ってるのが歌なんだろうなあという気がして。
──黒人として差別された経験がない白人や日本人にブルースが歌えるのかって議論は、それこそ何十年も前からありますね。
永積 でもジャンルは違うけど、友川カズキさんとか、聴いてて怖くなってくるほどものすごいんですよ。腰のあたりからガクガクガクってするような、そういう感じがあって。それは僕がブルースから感じるものと一緒なのかなって。
TOSHI-LOW すっげえ興味あるなあ、そのあたり。
永積 「歌う」ってどういうことなんだろうって、いつも考えてるんですよ。全然安定してないっていうか、確かなものがない。「これでOK」みたいなものがない気がしてて。そう考える自分から目を離さないってことぐらいしかできない。それが自分なりの思いを充填するやり方なのかなって。
SUPER BUTTER DOGの解散
TOSHI-LOW なんでバンド解散したの?
永積 なんでだろう……。
TOSHI-LOW ハナレグミの形態もあってバンドの形態もあって。あんな自由なやり方だったら、別に解散しなくてもできたんじゃねえのって、普通に思ってたんだけど。
永積 ああ、でもねえ、中途半端になっちゃうような気がして。(SUPER BUTTER DOGは)歌詞が一見コミカルだったり、音楽的にもファンクとかダンスミュージックだったから、けっこう楽しそうにやってるように見えたかもしれないけど、バンドのメンバーはみんなまじめでストイックだったから。そういうことであの楽しさが成り立ってた。だから片手間みたいにやると本当にユルくなっちゃうような気がして。そういう中では自分は歌詞を書けないかもなあ、と思ったんですよね。
TOSHI-LOW ……確かにSUPER BUTTER DOGを見てストイックには感じなかったよね(笑)。
永積 わはははは!(笑) でも真剣だったけどね。
TOSHI-LOW うん、そういうふうに言われると、ああそうだったんだろうなって思う。ふざけるために、ちゃんと気を遣ってたんだろうなと。
永積 そうそう。
TOSHI-LOW ほんとにふざけてたら、ふざけたまんまで終わっちゃうでしょ。PVとかもふざけてるっぽいのが多かったけど、今観るとすごい細かく作ってるしさ。「FUNKYウーロン茶」のやつとかさ。その頃は「けっ!」と思ってたけど(笑)。
永積 わはははは!(笑)
TOSHI-LOW 「けっ、ふざけやがって!」って(笑)。でもほんと、ふざけるために努力があったんだろうなって、今では思うよ。
音楽をやめようと思ってた
──BRAHMANはどうなんですか?
TOSHI-LOW 逆。俺、ストイックに見えて実はふざけてたから(笑)。ストイックに見せることばかりに一生懸命だったからね。だから今こういう結果になってる(笑)。
──今となってはBRAHMANが解散することはまったく考えられないですけど、そういうことが頭をよぎった時期ってあったんですか?
TOSHI-LOW 俺、それ以前に音楽をやめようと思ってたから。震災の前あたりが一番、本気でやめようと思ってた。
永積 ふうん……。
TOSHI-LOW ほんとに震災のひと月前に、言ったの。トイズ(ファクトリー。所属レコード会社)に。「休むって言ったらどれぐらいもらえる?」って。誰も知らない国とか行きたくなってね。そのときはほんとに空っぽになって……言葉が出てこなくなっちゃってさ。そうなる直前に書いたのが今作に入ってる「夢の跡」って曲でね。それが2010年かな。あとはBRAHMANの「霹靂」って曲。「これがもう最後の曲だな」って、絞り出すように書いて。
──ああ、そんな覚悟があったんですね。
TOSHI-LOW だからどっちも感覚が似てる。どっちもエンディングみたいな。自分の中ではもう最後の最後、これで終わってしまって消えていくんだって気持ちでギリギリ書けた。最後だからと思って書けた。自分はもともと音楽的じゃないから、メロディで詰まるとかそういうことはそれまでもしょっちゅうあったけど、言葉にはけっこう自信があったからね。歌えることはあるんだって気持ちはいつでもあったけど、それがなくなっちゃった。「これは終わった」って思ったね。だって俺の場合、衝動で始めたものだから。感情を吐き出すために、たまたまバンドがあった。それはバイクでもよかったし、もっと悪いことやってもよかったんだけど、バンドだったってだけだから。自分の始めた理由がなくなった時点で、これはもう終わったんじゃないかと思ったの。2011年の2月……「夢の跡」のPVを撮ったのもそれぐらいだったんだけど……そのあたりに担当の人につらいから休みたいって言って。半年ぐらい海外行ったら直るかなあとか考えてた、毎日。嫁にも「どっか行っていい?」って聞いた気がする。そしたら……揺れちゃって。
永積 うん、うん。
TOSHI-LOW それで、それどころじゃなくなったことが、もう1回自分と向き合うきっかけになったんだよね。変な話だけど、超救われちゃったよね、俺個人は。
──自分のことで手一杯だったのが、もっとデカいことが起きちゃって。
TOSHI-LOW そうそう。だからもし震災が遅れてたり、起こらなかったら――もちろんそのほうが絶対よかったんだけど――音楽やめてたかもしれないし、ここでしゃべってることもなかったかもね。
──震災によって作る歌詞も、アーティストとしての生き方も変わった。
TOSHI-LOW うん、全然変わったね。世界が変わっちゃったから。自分の中で見えてるものも変わったし、音楽との付き合い方が一番変わった。歌う楽しさ、音楽の楽しさを、それまで見てなかったんだよね。音楽をやる理由ばっかり探していて。音楽の楽しさになんにも触れてなくて。「ブルースカッコいい」とか、ほかのジャンルに対してそういう態度をとらないことで自分を保ってたから。それがほかの人の音楽に触れて、カッコいいものをちゃんとカッコいいと言ったり、楽しいことを素直に楽しいって言えるようになった。普通の人は普通にできてたことなんだろうけど、それができるようになったら、音楽の楽しさが新たにわかったりしてね。
永積 なるほどねえ。
次のページ » カバーとセルフカバー
- OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDニューアルバム「FOLLOW THE DREAM」 / 2014年9月3日発売 / NOFRAMES
- OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND「FOLLOW THE DREAM」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86487
- 通常盤 [CD] / 2800円 / TFCC-86488
CD収録曲
- Follow The Dream
- Broken Glass
- 夢の跡
- Blind Moonlight
- Making Time
- Pilgrimage~聖地巡礼~
- Ride Today
- N.A.C
- Treason Song
- Clumsy Queen “Isabella”
- 朝焼けの歌
- Question
初回限定盤DVD収録内容
- 「New Acoustic Camp」のハイライトを集めたライブ&ダイジェスト映像
- 未公開MVを含むMUSIC CLIPS
- Making Time
- 夢の跡
- otherwhere
- New Tale
- all the way
- Thank You
- Dissonant Melody
2014年9月13日(土)群馬県 水上高原リゾート200
<出演者>
- Stage YONDER
- SOIL & "PIMP" SESSIONS / the band apart / 安藤裕子 / Mini-Atus / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
- Stage HERE
- 奇妙礼太郎 / 押尾コータロー / ハナレグミ with U-zhaan / Caravan(New Acoustic Candle) / 中納良恵(New Acoustic Candle)
- Stage VIA
- くもゆき / T字路s / つじあやの / 武藤昭平 with ウエノコウジ
2014年9月14日(日)群馬県 水上高原リゾート200
<出演者>
- Stage YONDER
- YOUR SONG IS GOOD / 片平里菜 / フラワーカンパニーズ / スガシカオ / EGO-WRAPPIN'
- Stage HERE
- Johnsons Motorcar / orange pekoe / salyu×salyu / 真心ブラザーズ
- Stage VIA
- 石崎ひゅーい / mabanua with 関口シンゴ / Predawn
- OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
TOUR 2014 -FOLLOW THE DREAM- - 2014年10月6日(月)沖縄県 島野菜カフェリハロウビーチ
- 2014年10月11日(土)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2014年10月12日(日)高崎県 高崎club FLEEZ
- 2014年10月17日(金)宮城県 darwin
- 2014年10月19日(日)福島県 AREA559
- 2014年10月23日(木)新潟県 ジョイアミーア
- 2014年10月24日(金)長野県 まつもと市民芸術館 小ホール
- 2014年10月31日(金)大阪府 Shangri-La
- 2014年11月1日(土)京都府 GROWLY
- 2014年11月2日(日)岡山県 ルネスホール
- 2014年11月4日(火)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2014年11月7日(金)福岡県 THE Voodoo Lounge
- 2014年11月9日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2014年11月15日(土)愛知県 Tokuzo
- 2014年11月21日(金)東京都 EX THEATER ROPPONGI
- 2014年11月29日(土)宮城県 BLUE RESISTANCE
- 2014年11月30日(日)岩手県 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO
OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
(オーバーグラウンドアコースティックアンダーグラウンド)
BRAHMANのメンバー4人とスコットランド系アメリカ人のMARTIN(Vo, Violin, G)、KAKUEI(Per)の6人からなるアコースティックバンド。TOSHI-LOW(BRAHMAN)と MARTINの出会いをきっかけに、2005年6月に結成される。2005年にオムニバス盤「The Basement Tracks-10YEARS SOUND TRACK OF 7STARS」に初音源「Dissonant Melody」を提供し、2006年に1stアルバム「OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND」にてデビュー。その後もBRAHMANや個々の活動と並行して定期的なライブツアーを行い、2010年からは野外フェス「New Acoustic Camp」のオーガナイザーを務める。2014年9月、約5年ぶりのフルアルバム「FOLLOW THE DREAM」をリリースした。
- OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
- OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND | TOY'S FACTORY
- OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDの記事まとめ
ハナレグミ
1974年東京生まれの永積 崇(ex. SUPER BUTTER DOG)によるソロユニット。2002年11月に1stアルバム「音タイム」をリリースし、そのおだやかな歌声が好評を得る。2005年9月には 東京・小金井公園でフリーライブ「hana-uta fes.」を開催し、台風に伴う大雨にもかかわらず約2万人の観客を集めた。2009年6月に4年半ぶりとなるアルバム「あいのわ」をリリースし、ツアーファイナルの日本武道館公演を成功させる。2011年9月には5thアルバム「オアシス」を発表。2013年5月リリースのカバーアルバム「だれそかれそ」では多くの名曲をさまざまなアプローチで歌い上げ、ボーカリストとしての力量を見せている。