ナタリー PowerPush - OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND

TOSHI-LOWが語る 震災、音楽、自分の変化

俺の意見に批判がある人はどうぞって言えるようになった

──そういう考えには、生きるか死ぬかの瀬戸際を見て行き着いたんですか?

自分も恐れていたんじゃない? こういうことしたらこういうふうに思われるかもしれない、みたいに決めつけてたこともあったんだけど、結果動いてしまえば、どうでもよくなったというか。目の前にいる困っている人を助けるのに、賛否両論もクソもねえんだよってはっきり言い切れるから。賛否両論なんて、被災者の人たちが決めればいいだけで、何もやってない人が決める権利なんてねえんだよ。そう考えるとさ、自信があるとか押しつけるとかじゃなく、普通になんでもやればいいんだ、発案してることをどんどん出していいんだって。以前も、思いついてたことはいっぱいあったんだけど、それをどっかで止めてる自分もいて。これやったらヤらしいだろうなとか。キャンペーンとかインタビューとかも、俺の話ばっか雑誌に載ってどうなるんだろうなって思ってたから。

──今は積極的に出てらっしゃいますよね。

インタビュー風景

うん、俺の意見に批判がある人はどうぞって言えるから。どうせ目の前で言う人はいないんだもん。結局何もやらない人が、何もやらない人をかばっていたりするわけよ。こないだ面白かったのが「夢とか平和とか歌ってるアーティストって、結局何もやらないじゃないですか」って、ある雑誌で言ったのよ。そしたら、ワサワサ騒いでる人がいるわけ。「なんでTOSHI-LOWが誰々のこと言ってるんだ?」って。俺、その人のことを言ったつもりは一切なかったの。なのに、勝手にファンの人がかばっちゃってるわけ。それって、かばえばかばうほど惨めですよ、って俺は思う。何もやってないことをバラしちゃってるじゃない? そういうこともわかってねえんだろうなって。批判じゃなくて、自分たちが何もしないことを露呈しているし、罪悪感があるから、そんな単純な言葉で慌てふためくんでしょ。

──言い訳を探しているというか。

そうなの、みんな言い訳を探すの。でも、どんな言い訳も、やっぱ言い訳なんだよね。体が悪いとか、貧乏とか、時間がないとか、その中でもできることっていっぱいあって。ただ、それを「やらない」っていう選択肢も、俺はありだと思うの。ただ、だったら黙ってなさいっていう。人を批判する権利はないですよって。

──TOSHI-LOWさんにとって、考えるよりも先に行動したことが、大きかったんでしょうね。

そうそう。例えばさ「今日は写真撮られるからこういう格好をしていこう」とかって思う場合があるけど、火事だったら何も考えずパジャマで飛び出していくでしょ。そういう状態だったわけよ。“自分のアーティスト像”なんて考えている余裕がなかったわけ。そんなことより、一人の人間として動いてみたら、それがこんなに身軽で簡単なことだったんだなって。だから今は、どっかで自分がステージ上の自分を作り上げてしまってた部分があって、さらにそれをどっかで守っていたのかもしれない、って反省してる。

──地元が茨城だから、より被害を身近に感じたところも関係していますか?

そういう意味で言えば、行けるチャンスがあったってことだよね。渋谷区出身の体でやってたら、茨城に帰れないじゃん(笑)。山の手出身です、ちょっと訛ってますけどって(笑)。

これからは奪い取るんじゃなくて分け与えなきゃいけない

──TOSHI-LOWさんは、持ってる武器や立場や経験をすべて活用してらっしゃいますよね。

インタビュー風景

うん、これからはフルスイングしていこうと思って。今日思っていることをいかに今日出していくか。明日に持ち越しちゃったらもったいないから。そう思ったら、結局、今まで歌っていたことと、まるっきり一緒だったんだよね。誰に言ってたんでもなく、自分に言ってたんだって。改めて自分の歌詞を読んでも、これまでとは違うように感じられたし、人の歌詞の受け取り方も変わったよね。「あ、この人は心の底からこれを歌っているな」「売れるために耳触りのいい言葉を使ってるな」っていう違いが、くっきりわかる。それは、生きることと音楽を直結して考えられるようになったからだと思う。それまでは、満足するとか心地いいとか、豊かな生活の中での音楽だったから。でもそれが悪いってわけじゃなくて、単にそういう聴き方をしてたんだと思う。

──いろんなことがシンプルになりましたよね。

そう。だって、生活もシンプルにしていかないとダメでしょ。今までみたいに、なんでもかんでも使いたい放題で、お金があればなんでもできて幸せになれるっていう考えが吹っ飛んだ人は多いと思う。東北のあの状況を見るとさ、それじゃどうにもならないでしょ。お金があろうが、何があろうが、一瞬で消え去るわけでしょ。被災地に行って地元の子に聞いた話なんだけどさ、評判の良くなかった守銭奴みたいなおじさんがお店をやっていて、津波の第1波で逃げたんだけど、第2波が来る前に金庫が心配になって取りに帰ったんだって。そのあと、その地元の子たちが見にいったら、おじさんはお腹にお金を抱えて亡くなってたんだって。亡くなった方には申し訳ないけど、何が大切かを気付かされるよね。「日本昔ばなし」みたいでしょ。だから、日本の人って本当は昔からわかってたんだよ。シンプルじゃなきゃこの小さな島では生きていけない、奪い取るんじゃなくて分け与えなきゃいけないって。

──できるはずですよね。そこに立ち返ればいいわけだから。

そう。できるでしょ。それは我慢じゃなくてさ。例えば、スポーツするのって我慢じゃないでしょ。走るのって苦しいけど、なんでこんなにマラソンやってる人がいるのかって考えると、そういうことをするのが自分のためになるからであって。精神を鍛えるとか、暑い寒いでガタガタ言わない体を作りたいとか。そうしたら冷え性が治ったりするかもしれないじゃん。当たり前だよね、あんなにクーラーガンガンかけてたら冷え性にもなるわって。今までがおかしかったんだよ。それなのに今、「我慢しなければ乗り切れない」みたいに言われてるじゃない。でも俺は違うと思う。もう一回、人間が自然に合わせる。それは我慢じゃなくて楽しめることだと思う。自然の摂理があって、人間がいくら知恵を働かせようが、死ぬときは死ぬし、生きていれば何かしなければいけないって思う。

──そういう考えが、一人でも多くの人に伝わればいいと思います。

それは俺もそう思うよ。だから、今までずっと「好きな人だけ聴いてくれればいい」って言ってきたけど、こういう考えに共感してくれる人たちがいれば、日本は変わる……別に俺は活動家でも政治家でもないから、日本を変えるために支援をやってるわけじゃないけど、奪い合うより分け与える世の中のほうが、人間としていいと思うし。恨み合うより助け合う、シンプルにいいものはいいって言い合える世の中になることに関しては、そんなに反対する人はいないと思うんだよね。

インタビュー風景

──考えや人柄は音楽にも出るから、TOSHI-LOWさんの音楽活動にも、そこからの影響が今後より表れるようになるのでは?

本来ステージは人となりが出る。いくらゴージャスな衣装を着ようが、貧乏な人は貧乏が見えるよね。威張ってても、精神が弱い人は弱さが出る。ステージって魔力があるから。もちろん逆の場合もあって、ノってるときには持ってる以上のものを出せたりもするけど、最終的には本当の姿が出てしまう。今まではよかったんだよ、多くの人が虚構でもゴージャスなものも楽しめばいいと思っていたんだろうけれど。今は、だんだんそれは変わっていくんじゃないかなって予感がしてる。そういうものじゃない何かに。そして、何か変わるときは、そこに音楽があったんじゃないかなって思うしさ。学生闘争のときにフォークがあったように、ヒッピーにウッドストックがあったように、何かの裏では音楽が起爆剤になっていたと思うからね。

ミニアルバム「夢の跡」 / 2011年6月1日発売 / 1600円(税込) / TOY'S FACTORY / TFCC-86353

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CD収録曲
  1. 夢の跡
  2. gross time ~街の灯~
  3. coffee stain
  4. wisp
  5. pilgrimage
NOFRAMES PRESENTS
meet in the park

2011年7月10日(日)
東京都 日比谷野外大音楽堂
<出演者>
EGO-WRAPPIN' / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
チケット一般発売:2011年6月4日(土)

New Acoustic Camp

2011年10月15日(土)・16日(日)
山梨県 道志の森キャンプ場
早割チケット発売:2011年6月11日(土)

OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND(おーばーぐらうんどあこーすてぃっくあんだーぐらうんど)

BRAHMANのメンバー4人とスコットランド系アメリカ人のMARTIN(Vo, Violin, G)、KAKUEI(Per)の6人から成るアコースティックバンド。TOSHI-LOW(BRAHMAN)とMARTINを中心に、2005年6月に結成される。2005年にオムニバス盤「The Basement Tracks-10YEARS SOUND TRACK OF 7STARS」に初音源「Dissonant Melody」を提供し、2006年に1stアルバム「OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND」にてデビュー。「FUJI ROCK FESTIVAL '06」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2006」をはじめとする各地のロックフェスティバルに出演し、多くの観客を魅了した。

その後もBRAHMANや個々の活動と並行し、定期的なライブツアーを実施。また2007年にミニアルバム「all the way」を、2009年にフルアルバム「New Acoustic Tale」をリリース。さらに2010年には、10月に道志の森キャンプ場(山梨県)にてキャンプイベント「New Acoustic Camp」を実施し、成功に収めた。2011年6月、新作ミニアルバム「夢の跡」を発表。