Yaffleの頭の中を覗いてみたい
──NulbarichとYaffleさんがコラボするのはこれが初めてですね。
JQ Yaffleくんの曲は以前からめちゃくちゃ好きで、一度、頭の中を覗いてみたいと思っていたんです。直接会って話をしても曲作りの秘密がわからなかったので、作品でコラボするのが一番いいんじゃないかと思って。
Yaffle 日本の音楽シーンを広く捉えたら、Nulbarichと僕は同じジャンルの中にいると思ってます。
──だからYaffleさんがキュレーションした昨年のライブイベント「TOKYO M.A.P.S Yaffle EDITION」にNulbarichを招いたんですか?
Yaffle あのイベントには裏コンセプトがあって、NulbarichやSuchmosのようにブラックミュージックにインスパイアされたバンドがJ-POPシーンに同時期に出てきて10年くらい経ったから、その総括みたいなことがやりたかった。そこでNulbarichに初日のトリを務めてもらったんです。
JQ 僕らがデビューした頃って、バンド系の人たちが横でつながっていてコミュニティができあがっていたんですけど、僕らはそこに入りきれずにいたんです。でも、それから世の中的にいろいろ変わってきて、こういうイベントに呼んでもらえたのはうれしかったですね。
イメージは「全米トップ40に入っているような曲」
──今回はどんなふうにコラボしたのでしょうか。
JQ 共作というより、ほぼYaffleくんが作ってます。ざっくりと曲の方向性だけは伝えましたけど、できた曲に関しては「Yaffleくんがこれを歌えと言うならがんばって歌わせていただきます」というマインドでいようと思って。
Yaffle もうびっくりしましたよ。トップラインを含めて全部作ってほしいと言われて。誰かと共作するときって、ビートメイカー的な感じで入るのかトップライナーとして入るのか、いろいろ想像するんですよ。でも今回は予想以上にこっちに預けられる部分が大きかった。
──通常の共作とは役割分担が違っていたわけですね。
Yaffle 作業内容も違っていて。普段は依頼してきたアーティストがメロディと歌詞を書いてきて僕がビートを作り、そこにいろいろ乗っけていくことが多いんです。そういうやりとりの中では相手が出してきたものに対してどれだけ早く答えを返すかが重要で、2時間もかかると相手がダレてケータイとか見始める(笑)。そういうプレッシャーの中でアイデアを考えないといけないんですけど、今回はリモート作業だったので、JQくんに「1回メロディを書いてみて」と言われてからじっくり考える時間があった。それは僕にとって新鮮でしたね。
JQ コライトにはいいときと悪いときがあるんですよ。ケミストリーを生むときもあるけど、何時間やってもどうにもハマらなくてダメなこともある。初めて会った人との作業だと、ファイルを持ち帰って曲に手を加えたいけど、相手に対する遠慮もあって変えづらい。それで結局ボツになるっていうのが嫌なんです。だからYaffleくんと一緒にやるんだったら軸はYaffleくんにしようと思っていました。僕が主導権を握ると、いつものNulbarichになっちゃうじゃないですか。それだと意味がないので、今回は任せちゃったほうがいいと思ったんです。
──曲のイメージについてはどんな話をされたのでしょうか。
Yaffle ざっくり言うと「全米トップ40に入っているような曲」。これは僕の解釈なんですけど、この2人でやるとアンニュイというか、アブストラクトなものが曲に入ってくる。だからメジャー感があるキャッチーなものを目指して作っていったほうが、最終的に2人のフィルターがかかったときにちょうどいい感じになるのかなと思いました。
JQ Nulbarichはバンドでありながら、打ち込みもしっかりやれる。そういうバンドって日本にはあまりいないと思うんですよ。となると「目指すはトップ40でしょ」みたいな。いい塩梅に自分たちの個性が出るんじゃないかと思ったんです。
──それに対してYaffleさんの出した答えが「Lonely Road」だった。ギターのリフで引っ張るバンド感がある曲ですね。
Yaffle Nulbarichをバンドとしてどう捉えるのか考えたときに、ステージ上のNulbarichのイメージが1つあったので、それをコンセプトに落とし込むと方向性はなんとなく決まっていきました。2曲提出したんですけど、個人的に「こっちかな」と思っていたほうが選ばれましたね。
JQ そうなんだ! どっちも素晴らしい曲だったんですけど、よりインパクトがあるほうを選びました。Yaffleくんが思う「トップ40に入ってくるポップスバンド」の答えをもらった気がしたんですよね。この曲は歌詞で「めっちゃ孤独なんだぜ」みたいなことを歌ってるんですけど、そういう曲も結局人に作ってもらっているという。みんなに支えられていても孤独を感じることってあるじゃないですか。そういう皮肉な歌詞と曲がマッチしているような気がしました。
JQはノリがいい研究肌
──Yaffleさんが提出した曲にJQさんは歌で返答したわけですが、Yaffleさんはそれを聴いてどう思われました?
Yaffle ブチ上がりましたよ。どっちかというと自分から投げるより、答えを受け取るほうが楽しいので。投げるのって、残り少ないわさびのチューブを絞ってるような感じなんです。「まだ出るかも」と思って絞り続けるけど、そこにリスナーとしての喜びはない。絞って出たものがいいのかどうかもわからないし。でも自分が絞り出したものがNulbarichの音として戻ってきたのを最初に聴けるのは楽しみで仕方ないですね。「ここはこうくるだろうな」と予想した通りのところもあれば「こう来たか」と裏切られた部分もあって面白かったです。
──さまざまなシンガーの作品を手がけているYaffleさんから見て、JQさんのシンガーとしての魅力はどんなところですか?
JQ こわ! そんなこと聞きます?(笑)
Yaffle うーん。やっぱりフロウの呼吸の感覚じゃないですかね。言語化が難しいんですけど、バカっぽく言えば“ノリがいい”。人はそれぞれ固有のノリを持っているんです。曲にもノリがあって、曲を演奏したり歌ったりする前からそのノリを意識していないと頭で絶対つまづくんです。シンガーは自分のノリで曲のノリにさっと乗っていく。そこで完全にノリを合わせても面白くないので、時にはあえてずらしたりもする。その乗ったり外したりする加減がシンガーによって違うんですけど、JQくんはそのさじ加減が抜群に気持ちいいんです。
JQ 確かにシンガーによってノリって全然違いますよね。僕の場合、まずプロデューサーが正解とするノリにできる限り寄せていくんです。なんでそうするかと言うと、新しい自分を発見したいから。今回もYaffleくんが用意してくれた曲にだいぶ寄せていて自分を出したという感覚はない。寄せきれずに出てしまった部分が、自分の個性なのかなと思いますね。僕は1人でレコーディングすることが多いので、その間、ずっと歌い方をいろいろ試していて。
Yaffle JQくんは研究肌だよね。前に話をしたときも、歌詞や声をどう当てたらグルーヴが変わるのかということをずっと話してたし。
JQ そういう研究をするのが楽しいんですよね。僕は声にめちゃくちゃコンプレックスがあるので、研究の結果、ちょっとでも歌声が成長して自分の声が好きになれるとうれしいんです。
──今回のコラボは、ボーカリストとしてトライアルな部分が大きかったわけですね。
JQ そうですね。トラックメイキングと違って、ボーカリストとしては歴史がまだ浅いんで。
Yaffle ただ歌を乗せるだけじゃなく、自分でも曲を作れるクリエイティビティが抜群にある人が、あえてシンガーというロールに乗ってやってみる。その結果を聴いて、これは普段のやり方では生まれない、探求から生まれた曲だと思いました。しかも、普段なら曲を提供した僕が仕上げるんですけど、今回はNulbarichが仕上げた。そういうやり方も初めてだったのでお客さん気分も味わえたし。
JQ 思い切って丸投げしたことで「Yaffleの脳みそをぜいたくに無駄使いしてやったぜ!」という思いです(笑)。おかげでNulbarichの新しい一面を引き出せたんじゃないでしょうか。
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JQ単独インタビュー