Nulbarich|ニュースタンダードと向き合った2年ぶりのアルバム「NEW GRAVITY」完成

2019年12月に自身最大キャパとなる埼玉・さいたまスーパーアリーナでの単独公演を成功させ、2020年からは制作の拠点をLAに移したNulbarichが2年ぶりとなる新作アルバム「NEW GRAVITY」を完成させた。

今作はCD2枚組となっており、DISC 1には映画「HELLO WORLD」の主題歌「Lost Game」や、JQ(Vo)がバンド結成以前に葛藤の中で生きる自分自身に向けて書いた「TOKYO」、テレビ東京系ドラマ「珈琲いかがでしょう」のエンディングテーマ「CHAIN」など12トラックを収録。DISC 2にはこれまでほかのアーティストとのコラボを行ってこなかった彼らが初のフィーチャリングゲストとしてVaundyを迎えたシングル「ASH feat. Vaundy」と、n-buna(ヨルシカ)が手がけた同楽曲のリミックスバージョン、今年3月発表のBASI(韻シスト)とのコラボ曲「Together feat. BASI」、そしてプム・ヴィプリット、Mummy-D(RHYMESTER)をゲストに迎えたコラボ曲、唾奇、AKLOによる既発曲のリミックスバージョンが収められている。さらに初回限定盤付属CDには、Nulbarichが昨年12月に開催した自身初の配信ライブ「Nulbarich Live Streaming 2020 (null)」の音源が収録されている。音楽ナタリーではJQに、LAに制作拠点を移した経緯や、各アーティストとの制作エピソード、アルバムの魅力について話を聞いた。

また特集の後半にはKREVA、Vaundy、Mummy-D、DISH//の北村匠海と橘柊生、俳優でシンガーソングライターの松下洸平といったNulbarichと関わりのあるアーティストによるコメントを掲載している。

取材・文 / 黒田隆太朗 撮影 / 草野庸子

制作拠点をLAへ

──LAに拠点を移したのは、さいたまスーパーアリーナでのライブを終えてからですか?

たまアリでワンマンをやった翌月(2020年1月)からLAに移りました。基本的には生活居住空間というか、日々感じるものを新鮮にしたくて、LAから日本へ通う感じにしようかなと。

──移住という選択をした経緯を教えてください。

Nulbarichを始めた2年目くらいから、旅行がてらLAに行って友達とセッションするようになって、Nulbarichとは関係なく向こうにコミュニティが増えてきたんです。それが自分の刺激になっていたので、たまアリワンマンを終えたタイミングで移り住んで、制作はLAを拠点にしようかなと思って。Nulbarichの音楽をもっと広い世界に発信していくことを考えても、ある程度世界のことを知っておいた方がいいかなという気持ちもありました。

JQ(Vo)

──文化的に魅力的な場所はたくさんあると思いますが、その中でLAを選んだことには理由があったんですか?

クラブミュージックやビートミュージックを好きになったきっかけがアメリカの音楽だったからです。……ただ、僕は西か東かで言ったら東派なんですけどね。

──ニューヨークのほうですね。

そう。アメリカに遊びにいくときは必ずニューヨークでした。ただ、ここ10年くらいみんなLAに行っているんですよ。東で活躍されていた方たちが、快挙を成し遂げて次のフェーズに向かうときに西に移住して、ゆったりとした時間軸の中でマイペースにやるっていう流れがあって。プロデューサーたちもLAに移っている人が多いですし、オーディション番組のファイナルがLAだったりもする。ここ10年くらいで段々とそういう場所になってきている感じがあって。日本での活動も考えると、移動だけで4、5時間変わってくることもあり、今移るならLAだなって思いました。

──移住してみて創作に影響はありましたか?

人の耳に自然に入ってくる音、同時にその中でいかに記憶に残るフックを作れるか、ということにフォーカスして作るようになった気がします。日本の環境だと、僕の場合は好きな音楽を探しに行くような感覚があるんです。でも、向こうって勝手に落ちているものなんですよね。しかも、その数が尋常じゃないので、入り口がすごくゆるいんです。

──音楽が生活の近くにあるということですね。

みんなラジオで音楽を聴いていますし、スーパーのBGMで踊っている人もいれば、スピーカーを持ちながら歩いている人もいて。そのスピーカーで、通りすがりの人が一緒に踊ったり、日本だと夏の海くらいでしか見ない光景がLAではわりとナチュラルに見られるんです。LAで暮らしているうちに、自分もそういう場所で鳴っている音楽を作りたいという気持ちにはなりました。

コラボしてくれませんか?

──ここ1年ほどの活動を象徴するものとして、多数のコラボレーションが挙げられると思います。今作のDISC 2にはコラボ曲だけがパッケージされていますが、これまでやってこなかったコラボを積極的に行っていったのには何か理由があるのでしょうか。

たまアリを経たのがめちゃめちゃデカかったかもしれないです。あのライブまでは“群れず”って意識がわりとあったし、「Nulbarichって何? バンドなの?」と言われ続けてきたので。Nulbarichって名前以外で別の印象を持たれるより先に、まずは自分たちのスタンスの確立を目指していたんですよね。でも、たまアリのライブを経て、「コラボしてくれませんか?」と言ってもいいフェーズに入ったのかなと。

──なるほど。

あと、そのライブをやった年にKREVAさんに声をかけていただいて1曲一緒に作っているんですよね(2019年8月発表の「One feat. JQ from Nulbarich」)。クリエイティブなブレインを持った人とセッションすることがすごく刺激的で、あの経験でコラボレーションに対する思いが強くなっていきました。なのでKREVAさんとの経験やたまアリワンマンの成功が、僕を後押ししてくれたんだと思います。

──今回の作品では国内のアーティストが多く参加している中、シンセポップ風の「A New Day」ではタイのシンガーソングライター、プム・ヴィプリットをフィーチャーしていますね。

LAに住み始める前の年から頻繁にアメリカに行くようになっていたんですけど、ここ数年アメリカの一部地域では日本の80'sがめちゃめちゃ流行っていて。

──シティポップリバイバルが起こっていますよね。

それこそ山下達郎さんとか、その時代の松任谷由実さんのレコードばかりが流れているバーがあって。すごい値段がする年代物の山崎ウイスキーをショットグラスで飲んでいる人がいたり、たまにJay-Zが来ているという噂を聞くようになって(笑)。1980年代ってすごく音楽が繊細だった時代で、達郎さんの作品を聴くとやっぱり音がいいですよね。楽曲には日本人の繊細さが表れていて、それでいて音楽の下地にはブラックミュージックを感じれるアレンジがあったり、それが当時のアメリカでも人気になっていたと思うんです。今はその息子や娘たち世代が達郎さんの音楽を聴いて、またヤバいってなってる現象があるんですよね。

──世代が一周した感じがあります。

JQ(Vo)

そうなんですよね。で、そういう現象が起こっている中、僕も3年くらい前からアメリカの80's……例えば「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(Netflixのオリジナルドラマシリーズ)とかで流れていたTOTOとかシンディ・ローパーにドハマりしちゃって。そこからいわゆる、過去のサウンドを今に落とし込んでいるアーティストをディグるようになって、プムはそこで出会ったアーティストですね。彼は88risingにも参加しているし、曲はチルだけどオルタナっぽさもあるところがすごくよくて、そのとき聴いていた曲たちの中でもハマったアーティストでした。それで今回コンタクトを取ってみたら、ぜひやりたいと言ってくれて。セッションを重ねていくうちに80'sがテーマになってきて、何回かやり取りを繰り返す中で「A New Day」ができあがりました。

──唾奇さんを招いた「It's Who We Are」のリミックスバージョンもすごくいいですよね。

唾奇くんはラッパーとしてもカッコいいし、沖縄タイムというか、あの感じも魅力的な方ですね。

──どういう経緯でオファーしたんですか?

「In Your Pocket」のMVに出てくれているUNAさんが沖縄の子で、唾奇くんとつながりがあったんですよ。で、出演してくれたときに、唾奇くんが僕らの音楽を聴いてくれているってことを教えてくれて。今回コラボレーションの作品を作ろうと思ったときに「もしかしたらやってくれないかな?」と、そのときの言葉を信じてオファーしてみたら引き受けてくれて。曲はお任せしたんですけど、「『It's Who We Are』でいかせて下さい」と言ってくれたんです。

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夢を叶えたDISC 2