Nulbarich「ASH feat. Vaundy」鼎談|JQ×Vaundy×n-buna(ヨルシカ)が語る、3人のプロデューサーが向き合って生まれたコラボ曲

Nulbarichが10月28日に配信シングル「ASH feat. Vaundy」をリリースした。

今作はタイトルの通り、シンガーのVaundyをゲストに迎えて制作された1曲。カップリングとして収録されるリミックスバージョンは、ヨルシカのn-bunaが手がけている。音楽ナタリーでは、一見共通点のない3組がコラボするに至った経緯を探るべくNulbarichのJQ(Vo)と、Vaundy、n-bunaの鼎談をセッティング。「ASH」の制作エピソードを中心に、それぞれが考える音楽と自己表現について語ってもらった。

取材・文 / 渡辺裕也

今一番面白いやつとやりたい

──今回のコラボレーションは誰もが予想だにしなかったことだと思います。そもそもNulbarichがほかのアーティストと作品でコラボすること自体、今回のシングルが初なのでは?

JQ(Nulbarich) そうですね。そもそも僕らはこの4年間、ほかのアーティストと触れ合う機会がほとんどないまま突っ走ってきちゃったので。どうも近寄りがたいと思われているのか、ツーマンライブのオファーをもらうことすら、そんなになかったんですよね。

──それでは、そんなNulbarichが今回の「ASH」でVaundyさんをフィーチャーするに至った経緯を教えていただけますか?

JQ 昨年末にさいたまスーパーアリーナでワンマンライブをやって、「Nulbarichがこれから2ndフェーズに向かうにあたって、何をするのが面白いのか?」と考えたときに、ふと思い浮かんだのがコラボレーションだったんです。で、どうせやるなら今一番面白いやつに声をかけたいなと。そこでVaundyくんにオファーしたんですけど、どうやら彼はさいたまスーパーアリーナ公演に遊びにきてくれてたらしくて。

──Vaundyさんにとっても、Nulbarichは気になる存在だったと。

Vaundy そうなんです。というのも、僕は「東京フラッシュ」という曲を出してるんですけど、あの曲を作る過程でよく聴いていたのがNulbarichだったんですよ。

JQ え、そうだったの?

Vaundy はい。僕、有名な曲には理由があると思っていて。要はメロディの配置やコード進行だったり、そこに合わせたリリックには何かしらの正解があるはずなんです。それを探すためにレコメンドとかをいろいろ聴いたりするんです。トレンドを自分なりに理解したうえで「これは絶対に流行る」というイメージをもとに作ったのが「東京フラッシュ」で、そのときによく聴いてたのが、Nulbarichの楽曲だったんです。

JQ マジ!? それって流行る曲を作ろうとして本当に流行らせたってことでしょ?ヤバいな、その話。

Vaundyくん、度胸あるなあ

Vaundy ただ、今回の「ASH」に関してはNulbarichに自分の好きなものを押し付けたところはあったかも(笑)。実際、今回の作り方ってかなり斬新だと思うんですよ。少なくとも僕1人ではまず作れなかった曲なので。

──具体的にはどのような制作過程だったんですか?

JQ 僕がLAに拠点を移したのもあって、必然的にオンライン上でのやり取りですべて作りました。お互いにデータを投げ合いながら作り上げていく感じだったよね。

Vaundy そうですね。JQさんから送られてきたトラックを、僕がグシャグシャにして送って、それをまたJQさんがうまくまとめてくださるという流れでした(笑)。

JQ まずはラフのメロディも付けずにトラックだけを投げたんです。で、あとはそこにVaundyくんの好きなようにメロディを乗せてくださいと。そうしたら、彼はメロディを乗せるだけじゃなく、トラックにも手を加えてきて(笑)。

n-buna(ヨルシカ) Vaundyくん、度胸あるなあ。それ、どれくらい手を加えたんですか?

Vaundy えーっと、コード進行を変えたりとか。

n-buna え、コード進行も!? 大胆ですね。

JQ そう、大胆なんですよ。僕が最初に渡したやつはワンループ気味のトラックだったんですけど、それをVaundyくんが“A→B→サビ”みたいな構成にバキッと変えてきて。僕も「案外、ヴァースを埋めたりはしてくるかも」と予想はしていたんですけど、まさかサビまで変えてくるとは思わなかった(笑)。

Vaundy 本当にすみません(笑)。僕もいざ送ったあと「やっちまった……これ絶対に嫌われたわ」と思いました。

JQ でも、それが面白かったんですよ。特にサビの「灰にして」というフレーズを聴いたときに、これは絶対に使いたいなと。なので、そのサビのフレーズを生かしつつ、僕がまた別のアプローチで曲を作り直して、それをまたVaundyくんに送ったんです。つまり、ここまでの行程ですでに3曲できたと言っても過言ではない(笑)。

Vaundy そうですよね(笑)。 僕が渡した第2段階目の曲を“Vaundy「ASH feat. Nulbarich」”としてリリースしても、ぜんぜん問題ないと思う。

LAと日本、会話なしの制作

──ここまでのお話を聞いてると、今回の曲は“feat. Vaundy”というより、もはや共作と呼んでもよさそうですね。

Vaundy 「お前、フィーチャリングって言われてんのにどんだけ出しゃばってんだよ」って感じですよね(笑)。

JQ いやいや、僕は最初からそのつもりだったんです。今回はこちらからオファーしたってことで、一応“feat. Vaundy”という形にしてますけど、実際これは共作ですから。オンライン上でのやり取りも、結果的によかったんじゃないかな。というか、会話せずに作ったのがよかったよね?

Vaundy そうですね。もしこれがスタジオで一緒に作っていたら、もっと平坦な曲になっていたかもしれない。

──というのは?

Vaundy 対面で話しながらの制作となると、どうしても無駄な感情が入ったり、ともすれば妥協してしまう可能性だってある。でも、オンライン上でのやり取りだと、相手から受け取った音をしっかりと客観視してからこちらの意思を伝えられるんです。それに音を聴けば相手の考えていることはわかるので、それを踏まえて「だったら俺はこうしたい」と。

n-buna いやあ、すごいな。僕、そんな作り方は今まで聞いたことがないです。

JQ いや、普通はしないよ(笑)。僕もこういう作り方はこれが初めてだったし。

──JQさんが用意したトラックにメロディを乗せるにあたって、なにか意識したことはありましたか?

Vaundy まず僕が担う部分の歌詞は絶対に日本語でいこうと思っていました。そのうえでJQさんの世界観に寄せようと思ったときに、なんというか、日本語を英語で歌うようなニュアンスが出せたらいいなと。例えば「う」を「ヴ」と発音してみたりとか、「このまま」という歌詞の「まま」を日本語とは全然違う発音にすることによって、Nulbarichがアレンジしたときに違和感がない歌い方にしたいというのは意識しましたね。

n-buna なるほど。だから、VaundyくんとJQさんが交互に歌っても違和感がまったくないんですね。今の話はすごく納得させられたな。

JQ よくまとまったよね、本当に。

Vaundy 本当にNulbarichすげえなと思いました。もともと僕は誰かと一緒だとモノを作れないタイプなんですけど、今回はいい意味でお互いがわがままにやれたし、それがNulbarichの作品として出してもらえるのがすごくうれしいんですよね。だって僕が送ったデータ、本当にグシャグシャだったから(笑)。

n-buna そのグシャグシャな状態の音源も聴いてみたいな(笑)。僕は最終的にまとまった状態しか知らないので。