Nulbarich|JQが語る、新作ミニアルバムで描いたもう1つの宇宙

やっぱりこういうの好きだよね

──かつてはJQさんもギター少年だったんですか?

どうだろう。僕の場合は習い事でピアノをやったり、吹奏楽部でパーカッションをやったり、バンドでドラムをやったり……みたいな感じでいろいろプレイしていく中でブラックミュージックと出会ったので、楽器との出会いで言うと、MPC(AKAI PROFESSIONALのサンプラー)を手にしたときが一番大きかったかもしれないですね。「これで食ってこう」みたいな意思が生まれたのはそこだったかも。

──続く「Get Ready」は非常にソリッドなファンクチューンです。アグレシッブでかなりライブ映えしそうですね。

「Get Ready」はフェスのサウンドチェックでみんなと音を重ねていたときの演奏がそのまま下地になって、そこからできた曲なんです。それこそライブのサウンドチェックでもよくやってる曲ですね。

──実際にライブ時のテンションから生まれた曲なんですね。

そうなんです。いつもなら楽曲があってライブ、となるところが、ライブからの楽曲という流れで生まれたという、わりと珍しいタイプの曲ですね。あと、おっしゃる通り確かにファンクというか、スウィングしている曲なんですけど、実はこの曲ってけっこう縦ノリでもあるんです。それこそ首を縦に振りたくなるようなロック感が出てる。Nulbarichをここまでやってきた中で「俺たちやっぱりこういうの好きだよね」ということを再認識させられた曲ですね。

“リッチ”と“パンク”の共存

──そして次が「Rock Me Now」。Pet Shop Boysみたいな80'sシンセポップ風の立ち上がりから、コーラスで一気にボーカルドロップしていく展開がとにかくスリリングですね。

去年のパリコレを見ていたら、1980年代後半から1990年代にかけてのアートワークというか、そのあたりの時代を思わせるルックがものすごく多いなと思って。そんなタイミングでアパレルブランドのポップアップイベントで音楽担当のキュレーターとして参加させてもらえることになったので、その機会に当時の音楽を掘ってみようと思ったんです。要はグランジとかオルタナとか、そのあたりですね。

──これまでグランジやオルタナはあまり掘ってなかったということ?

そうなんです。僕がもともと好きだったのはヒップホップだったので、実はオルタナとかってそんなに知らなかったんです。とにかくヒップホップに熱狂していたので、それ以外のジャンルが入る余地がなかったというか。なので、今回は1つの情報源としてグランジやイギリスのガレージを取り入れて、うまくブラックミュージックのテイストと掛け合わせてみようかと。そうやって当時の世界観を自分なりにイメージしていく中でできたのが「Rock Me Now」なんです。

JQ(Vo)

──グランジやオルタナってもともとはドレスダウンだったと思うんですけど、近年それをハイブランドがモチーフにしてるというのは、確かに興味深いですよね。それこそカート・コバーンがアイコン化されたり、いろいろ倒錯しているというか。

そうそう、逆説的というか。それこそNulbarichも“Null but rich”(何もないけど満たされている)というワードの造語なので、この曲では“リッチ”と“パンク”を共存させたいと思って。それで「君の豊かさの中にある棘を僕に見せてくれ」というリリックを書いたんです。

──「PUNK」というワードは歌詞にも出てきますね。

そうなんです。こういう言葉を歌詞に入れたのもこれが初めてだし、とにかく1曲の中で柔らかさと激しさをどちらも出せたらなと。それで思いついたのが、コーラスのドロップポイントなんです。こういう展開の曲自体これまでのNulbarichにはなかったんですけど、それでいてすごく自由奔放に作れたというか、新しい自分たちに出会えた感じがする曲ですね。これをライブでどう演奏するかっていうのは今の悩みどころですけど(笑)。