Keyword 3 音楽性
Nulbarichの楽曲の特性を1つ挙げるとするならば、それは聴き手に対する近さだろうか。ジャンルレスを前提としながら、1990年代のアシッドジャズや2000年代のネオソウルのような、ハウスやヒップホップ以降のクラブミュージックやブラックミュージックを基盤に持ち、さらにモダンな2010年代型のR&Bやポップスの意匠も取り込んだNulbarichの楽曲たち。そこにはヘッドフォンリスニングで楽しめる綿密に構築されたプロダクションがあると同時に、ラジオやカーステレオから流れてくるBGMとしても最適な、広く空間的なグルーヴ感もしっかりと存在している。その証拠に、「Who We Are」のリード曲「It's Who We Are」は全国35局のラジオ局でパワープレイを獲得し、「Guess Who?」の収録曲である「NEW ERA」と「Follow Me」は、テレビCMに採用されている。Nulbarichの音楽は、すでに“街の音楽”や“お茶の間の音楽”として、私たちの日常に溶け込んでいるのだ。
唯一、メンバーの共通言語になるのがブラックミュージック
──Nulbarichを始めるに当たって、音楽的な面での青写真はあったのでしょうか?
そういうのはまったくなくて。そもそもジャンルを決めていないから、これだけ自由にできるのかなって思います。メンバー全員好きなものを細かく分けていけば全然違うんですけど、唯一、みんなの共通言語になるのがブラックミュージックなんです。なので、バンド内の落としどころとしてブラックミュージックの匂いを感じ取れる要素が曲の中にあれば、みんなが会話できるっていう感じです。
──JQさんご自身の音楽遍歴は、どのようなものなんですか?
僕は小さい頃から習い事でピアノをやったり、小学校の頃にマーチングバンドをやったりしていたので、4歳の頃から音楽は空気みたいな存在で、やっていないときが1回もなかったんですよね。でも初めてヒップホップに触れたときに、それまでとは違う衝撃があったんですよ。「この空気、めっちゃうまい!」みたいな……今まで当たり前のように触れていた音楽に対して、「今まで、こんなに魅力的なものに俺は触れていたんだな!」って気付いたきっかけがヒップホップでした。
──子供の頃から音楽漬けだったJQさんに、ヒップホップは何をもたらしたのでしょうか?
「新しいカルチャーを発見した!」っていう感じでしたね。それまでやっていたピアノにしろ、マーチングバンドにしろ、あくまで音楽は“演奏するもの”っていう感覚だったんです。「オペラ座の怪人」とかビバルディとか、そういうものをずっと演奏してきた自分が、あくまでリスナーとして世の中の楽曲に踏み込んでいくきっかけになったのがヒップホップで。ワンループのトラックの上でラップしたり、シンガーが展開を付けたりしていくヒップホップの楽曲の構造もそれまで触れたことがなかったものだったので、衝撃的でしたね。
──最初に衝撃を受けたヒップホップの曲って、覚えていますか?
The Fugeesの「Killing Me Softly」ですね。あの曲はAメロは全部ドラムだけで、その上をローリン・ヒルが歌っている。そしてサビでやっとベースが入ってくるっていうすげえシンプルな曲なんですけど、めちゃくちゃカッコよくて。「世界にはこんな音楽があるんだ!」って思えた1曲です。あの曲を聴いたとき、すぐにそこにいたDJに話しかけてレコードを見せてもらって、メモしましたね。
音楽はあくまでその人の日常の中にあるもの
──日本語と英語を混ぜ合わせたNulbarichの歌詞は非常に独特ですが、このスタイルはどのようにして生まれたんですか?
そもそも、音楽を聴いていて歌詞に耳を傾けていることのほうが僕は少ないんです。何かをしながら音楽を聴くことのほうが多いし、音楽はあくまでBGMと言うか、その人の日常の中にあるものだと思う。なので、1曲通してすごくいい歌詞よりも、要所要所で入ってくる歌詞のほうが響くんじゃないかって思うんです。それで今の書き方になったんですよね。英語の中に日本語が入ってきたり日本語の中に英語が入ってくるほうが、なんとなく聴き流してる中でもいい意味での違和感になって、言葉がちゃんと入ってくるのかなって思ってます。
──歌詞の中にJQさんの言いたいことやメッセージ性はどのくらい入ってくるものなのでしょうか?
パンチラインになる部分は日本語にしよう、みたいなことは考えますけど、なるべく直接的なメッセージ性は出さないようにしています。僕自身、説教されるのは嫌いなので。「こうしろ!」とか言われても、「うるせえし!」としか思わないから。自分がされて嫌なことは人にしないでおこうって(笑)。
──今はたった1人でも、ラップトップに向いながらクオリティの高い音楽を作り出すことが可能な時代だと思うんです。そのうえで、あくまで生演奏にこだわっている側面は、Nulbarichにはありますか?
いや、特に生演奏にこだわっているわけではないですね。今の時代、バンドの音楽性だって自由であることが当たり前だと思うし。ただ、僕にとって重要なのはもっと根本的に“バンドである”っていうことです。後ろにメンバーがいるかいないかっていうポイントが、僕にとってはすごく重要と言うか。そもそもバンドじゃなかったら俺は歌ってないな、とも思います。今のバンドメンバーは僕のもともとの知り合いや、その横のつながりで出会った人たちなんですけど、好きなヤツらと好きなことで生活ができるのは本当に最高なことで。楽しいメンバーと楽しいことをし続けるには、音楽しかなかったって言う感覚が大きいのかなって思います。
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Keyword 4:ライブ
- Nulbarich「Long Long Time Ago」
- 2017年12月6日発売 / RAINBOW ENTERTAINMENT
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[CD]
1296円 / NCS-10174
- 収録曲
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- In Your Pocket
- Spellbound
- Onliest
- NEW ERA(88 REMIX)
- Nulbarich ONE MAN TOUR 2018 "ain't on the map yet" Supported by Corona Extra
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- 2018年3月14日(水)大阪府 なんばHatch
- 2018年3月16日(金)東京都 新木場STUDIO COAST ※チケット完売
- 2018年3月17日(土)東京都 新木場STUDIO COAST ※チケット完売
- 2018年3月28日(水)宮城県 Rensa
- 2018年4月6日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2018年4月7日(土)福岡県 イムズホール
- 2018年4月13日(金)愛知県 DIAMOND HALL
新木場STUDIO COAST公演以外のチケットは2018年1月27日10:00に各プレイガイドで販売開始
- Nulbarich(ナルバリッチ)
- シンガーソングライターのJQを中心に結成されたバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。2016年6月にタワーレコードおよびライブ会場限定の1stシングル「Hometown」、10月には1stフルアルバム「Guess Who?」をリリース。その後は積極的なライブ活動を行いながら、2017年5月に4曲入りCD「Who We Are」を発表し、11月に自身初のワンマンツアーをスタートさせた。12月に新作CD「Long Long Time Ago」を発売した。