ナタリー PowerPush - THE NOVEMBERS

実験と挑戦の先に見えた柔らかな光「GIFT」

「( )」から「GIFT」へ

──そして発表する予定のなかった曲ですが、それに「( )」という名前がついて、この曲にインスパイアされた作品を投稿してもらうという企画もありましたね。

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そのことに関しては、作品を投稿してくれた方がすごく真面目に取り組んでくれたっていうか。「自分の作品をとりあえずここに投稿すればいいや」っていうよりは、その人なりに「( )」という曲に対してリアクションをしてくれたので、そこで「いいな」と思った人たちと、この先何かできたらいいなっていう気持ちはあります。

──そして「( )」は今回のアルバム「GIFT」でも一部の音が聴けますね。

そうです。「Moire」の最初にハープの音が入ってるんですけど、あれは「( )」に使われてるフレーズなんですよ。「Moire」は自主企画ライブのタイトルでもありますし、一連の他人から影響を受けたこととか、他人と関わってることの象徴で。「( )」から「Moire」への流れというか、物語があって。「Moire」という曲の中で「これからも関わっていくし、明日がまた来たらいいな」って祈っているようなところはありますね。

意志のある静けさや柔らかさ

──そうしたさまざまな要素の結晶が今回の「GIFT」だと思うんですが。

そうですね。

──前作には醒めた怒りを表現した曲も半分程度ありましたけど、今回のアルバムにはそういうタイプの曲は全然なくて。

そうですね。音楽的な意味では全くないですね。

──柔らかい、光がある感じの曲だけになった理由はなんでしょう?

あらかじめビジョンがあったんです。今回はその他人と関わることの楽しみを見出していく中で、今まで自分たちがやらなかったことやできなかったことがあるっていうのに気付いて、試みや実験という可能性を追求していくことが楽しみだと自覚したんですよね。それを全うしていく中の1つに、僕たちって今までこういう雰囲気で作品を1枚作ったことはなかったなと思って。昔「paraphilia」ってアルバムで、そういう意志のある静けさや柔らかさを出したいと思ったんですけど、どうしてもラウドな曲とか影が濃い曲が入ってないと作品として成立することができないっていう気持ちがあって、そのときの自分にはできなかったんです。でも今回は1枚でそれを試みようと。だから狙ったところもあるし、結果的にできたというところもあるし。

──アルバム全体がこういうムードであること自体が意思表明ですよね。

そうですね、うん。

実験作であることは説明しない

──このアルバムは種明かしをすると、「Moire」企画の3回目のライブテイクがベーシックトラックなんですよね。

ベーシックトラックというか、素材の1つとしてドラムやベースをメインに使いつつ、サックスやストリングスもそのまま生かしたり、ギターの音はうっすら残して、新たにギターをレコーディングして被せたり。だからグルーヴはライブ盤なんですけど音はスタジオ盤っていう独特なものが作れたなと思っていて。そういうものになるようにうまく転がせる努力はしたんですけど、それ以上に実験や試みが一番の目的だったんです。せっかく実験したんだから作品としてリリースしようっていうことじゃなく。良くなかったらリリースしなかったと思うんです。

──ではアルバムをリリースすることは前提ではなかったと。

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「できたらそうしたいな」とは思ってました。その3回目の自主企画ライブでは大所帯の編成でそのときならではの演奏をやろう、ライブでもいろんな人に参加してもらおうと。で、そのときに新曲を全部プレイする。それでせっかくだったら録音しようっていう話になって、録音するんだったらいい録音をしたいし、いいものを残したい。で、いいものを残せたんだったら人に聴かせたい(笑)。

──しごく真っ当です(笑)。オーケストラやブラスを入れたいっていうのは、何かに影響されてですか?

興味は元々ありつつ「自分でもやってみようかな」と思ったきっかけは、僕たち、台湾のフェスに出たんですけど、そのとき「万能青年旅店」っていうおそらく中国のバンドがいて。そこに風貌がまるでMO'SOME TONEBENDERの武井(靖典)さんがティアドロップのサングラスをかけているっていういでたちのトランペットの人がいて。

──ハハ!(笑) 武井さんより怖そう。

その人はステージの端っこにいてトランペットを構えてるだけで、直立不動なんですよ。それだけで異様な存在感で最初はすごい笑ってたんです。「ヤバイ」って言って。でもいざその人がトランペットを吹き始めた瞬間に、楽曲のサビより観客が沸いたんですね。それで僕たちも感動して。トランペットにしか見せられない景色ってあるんだなって認識した瞬間でしたね。それに元々ARCADE FIREとかBROKEN SOCIAL SCENEとかSIGUR ROSとか、ああいういろんな楽器が入ってる大所帯の編成はホントに好きだし憧れがあったんで、他人と関わることが楽しいと思える今だからこそ、やっておいたほうがきっと自分に正直なのかなと思ったんです。

──今回、ライブレコーディングがベースにあることはあらかじめ打ち出していませんね。

そうですね。ライブ盤として作る気はなかったっていうところと、奇抜なことをやってるというか「ライブレコーディングを基にどうのこうのした実験作を作りました」っていう言い方はちょっと違うかなと。実験はしましたけど(重要なのは)そこではないので。だからあとから人に僕が話すとか、そのときに初めて明かすっていう構図が一番自分の中でしっくりくるっていうか。だからあらかじめ説明はしてないんです。

──確かに最初にその情報があるとそういう耳で聴いちゃいますからね。

そうなんですよ。「どうりでライブっぽいと思ったわ」っていう。

──ありがちな反応が来ると?(笑)

そう。「ホントかよ?」っていう(笑)。

THE NOVEMBERS(ざのーべんばーず)

プロフィール画像

小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2005年から活動をスタートさせ、2007年11月に「THE NOVEMBERS」でデビュー。2008年6月に初のフルアルバム「picnic」、2009年3月に「paraphilia」、2010年3月に2ndアルバム「Misstopia」をリリース。2011年8月にシングル「(Two) into holy」とアルバム「To (melt into)」を2枚同時に発表し、2012年3月には台湾で行われたロックフェス「MEGAPORT FES 2012」にも出演。同年11月に「GIFT」をリリース。