ナタリー PowerPush - THE NOVEMBERS
シングル&アルバム同時発売 小林祐介の劇的な変化とは?
今まで抱えていた諦観はもうなくなった
──ところで先日のライブで言ってましたけど、アルバム最終曲の「holy」は昔からあった曲なんですか?
ものすごく古い曲ですね。今回は1stシングルと3rdアルバムなんですけど、気分的にベストアルバムを出した気分になっちゃってて。「それってなんでかな?」と思ったら、今までの全部の作品の視点が入ってて、いろんな時期の自分と目が合って、お互いなんか言い合ってるとか頷いてるとか、そういうことなんですよね。「holy」も、今の自分とそのときの自分が肯定しあってる曲なんです。傷の舐めあいじゃない形で。だからうれしくて、今回のアルバムに入れたんです。昔はルサンチマンの塊みたいな曲だったから「holy」っていう曲名にしたんですけど。
──逆説だったんだ(笑)。確かに夢見るようなメロディなのに、冒頭の歌詞は「嫌いな言葉を繰り返して聞く」だし。
ひねくれてたんですね。でも今回、3行かな? 歌詞を足したりちょっと変えたりしたら、一気にルサンチマンの塊だったこの曲が、ポジティブに生きることはより良く生きていくという意味でシリアスなんだって気付くきっかけの曲になって。
──聴いてるほうとしては「素敵な言葉を抱きしめて眠る」という1行があるだけで、安心できる気がします。
でも、昔は「素敵な言葉を抱きしめて眠る」人っていうのは自分と完全な断絶があって、自分はそこには行けないっていう諦観があったんですね。でも自分の価値観を自分で作っていくことで豊かになれるんだったら、それはシリアスかもしれないけどポジティブに生きられる根拠でもあると思うようになって。今は諦観とか全然ないし、世の中のあきらめムードやしらけた空気っていうのは、もう僕には関係ないのかもしれないです。
自分の思いを全部この作品で肯定できた
──小林さんの中で、本当に大きな転換があったんですね。
震災によって、いろんなことがあぶり出されてると思うんです。「こんなときに音楽なんてやってていいんだろうか?」とか言うミュージシャンがいて、「えーっ!?」と思ったんですけど(笑)。パン屋がパン作れなかったらパン屋じゃねえだろって。被災した人のために、誰かのために何か役に立つことをするってすごく素敵なことだし、やりたい奴がやりたいときに、やりたいようにやればいいと思うんです。震災に関しては、僕が人としてできることはあっても、別にわざわざミュージシャンとして何かをする必要はないのかなって思いますけどね。
──震災によって気付いたことがあるなら作品に勝手に入ってくるだろうし、実際この作品には入りまくってますし。
勝手に入りまくってますね。自分でもびっくりしたんですよ。今まで壁というか誰もいないところに向けて歌って、自分の中で反芻するだけだった歌詞が、他者が見えるだけで全然変わって。「ああ、俺はこんなことを誰かに言いたかったのかな」とか「こういう自分であることを見せつけないと気が済まないのかな」とか。そういう思いが全部、肯定できる形で作品になったからすごく良かったです。
──ここまでぶっちゃけた作品を作ってしまうと、聴いた人からの反響も気になりますね。
すごく楽しいんですよね、今。いろんなところで賛否両論になればなるほど、僕は盛り上がっちゃうと思う。今もTwitterとかでいろんな人が僕らの作品を「良かった」って書いてくれてるみたいで、それはすごくうれしいし、気分はいいんです。でも「あの人がいいって言ってるから話を合わそう」っていう理由で聴かれるのは嫌なんですよ。ものすごくシビアな眼で見られたいし、聴かれたいですね。まっさらな状態で。
CD収録曲
- 再生の朝
- 夢のあと
- 小声は此岸に響いて
- melt
※ CD-EXTRA仕様:
「melt」のInstrumentalとTHE NOVEMBERSのアートワークを手がける [tobird] のイラストによる映像作品を収録
THE NOVEMBERS(ざのーべんばーず)
小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2002年に小林と高松によって前身となるバンドが誕生。2005年3月に前身バンドが解散し、同時にTHE NOVEMBERSとしての活動がスタートする。2007年11月にバンド名を冠した1stミニアルバム「THE NOVEMBERS」をリリース。文学的な歌詞と、鋭利さと重厚さをあわせ持つエモーショナルなサウンドがインディーズシーンで話題を集める。2008年6月に初のフルアルバム「picnic」、2009年3月に2ndミニアルバム「paraphilia」、2010年3月に2ndアルバム「Misstopia」をリリース。2011年8月にシングル「(Two) into holy」とアルバム「To (melt into)」を2枚同時に発表し、11月にレコ発ワンマンツアー「To Two( )melt into holy」を開催。