ナタリー PowerPush - NOTTV×ナタリー「風とロック LIVE福島 CARAVAN日本」

箭内道彦が描く“ライブイベント”

広告的手法でイベントを作り支援する

──あとイベントの構成も面白いですよね。映画「あの日 ~福島は生きている~」を全国上映したいからキャラバンを企画したとのことでしたけど、それにしても映画上映とトークショーとライブの3本立てという発想は箭内さんならでは。興行会社やイベンターにはないセンスかもな、という気がします。

トークショーを入れたのは、これまでやってきたUstream中継の影響なんですよ。「風とロック LIVE福島」の告知なんかのために出演ミュージシャンと一緒にUstreamをやってるんですけど、そうするとタイムラインに必ず「親戚のおじちゃんちに来たみたいだ」っていう感想を書き込まれて(笑)。いつもはステージの上、要は高いところにいるミュージシャンが自分と同じ場所に降りてきたような感じがするんだと思うんです。そしてそれはきっとすごくいいことだとも思っていて。3.11以降、1人で家にいることが怖くて不安な人ってかなりいるはずで、そういう人に向けて僕らが親戚のおじちゃんみたいな感じだったら「あっオレ、1人じゃないんだ」って思ってもらえるかもしれない。そういう瞬間を「風とロック LIVE福島 CARAVAN日本」の中にも作りたかったんです。あと実は今言われるまで本人はまったく気づいてなかったんだけど(笑)、イベントに取り組む姿勢は確かにイベンターっぽくはない。明らかに広告の延長だと思って作ってますね。

──「広告の延長」ですか?

箭内道彦

広告の仕事の一番の意義って企業が抱えている課題をアイデアで解決することだと思うんですよ。だから広告屋の職業病というか、業というか、性というか……。「あっ、問題を見つけた」「悩んでいる人を見つけた」ってなると、つい「自分のアイデアやスキル、人脈で何かできないかな?」って考えてしまう。

──だから福島の困難を目の当たりにしたときも広告マンとして課題を解決しようとした?

そうですね。自分の仕事と被災地の支援を直結させられるはずだし、させたいと思いましたから。イベントの話からはちょっとズレるんですけど、2011年4月に福島の避難所5カ所を回ったとき、サントリーのお茶とか、グリコのビスコとか、ちふれの乳液や口紅とか、それこそタワーレコードの音楽CDとか、自分のクライアントのアイテムを持って行っていて。それからグリコやダンロップなんかには「風とロック LIVE福島」シリーズの賛同社にもなってもらった。サントリーもそう。「広告」「企業」「商業」っていうと何か汚いものを感じてしまう人もいるかもしれないけど、そんなことはない。どの会社も人を助けたり幸せにするために商品を作っているんだし、企業活動をしているわけですから。「だったらいっそのこと一緒に面白いことしちゃいましょうよ」って提案させてもらったんです。そうしたらイベントのお客さんが「グリコが『風とロック』を応援してるから、わたしグリコのお菓子を買いました!」「ダンロップのタイヤ、使ってますよ」ってニコニコしながら話しかけてくれるようになって。それで自分が広告の仕事をしている意義みたいなものが証明できた……っていうと生意気だな(笑)。仕事をする理由みたいなものが自分の中でちゃんと腑に落ちたんですよね。

異なる3グループが朗らかに共存する楽屋裏

──その広告マン的発想や広告的手法は、今回の「風とロック LIVE福島 CARAVAN日本」にも当然盛り込まれているんですよね?

「今回はこんな新しい発想でこんなことをしました!」ということはほとんどなくて、今までお話し「福島の人って今こんなことを感じているんだよ」ということを“広告”することが大前提だから「あの日 ~福島は生きている~」を公開するわけですし、皆さんの不安や寂しさという課題を解決するためにトークショーをやるわけですし。そもそも「札幌に『風とロック LIVE福島』が足りない!」っていう声があったり、「自分たちには先輩の知恵や経験を知る機会が足りない!」っていう意識があったりするから、それを解決するために全国を回っているわけですし(笑)。だから今後もし「『I love you & I need you ふくしま』『Two Shot』だけじゃ足りない」って言われたら……。

──ツアー中にそれを補う楽曲を作ってしまうかもしれない(笑)。実際に今、そのキャラバンで全国を回っている最中ですけど、各地の反応っていかがですか。

箭内道彦

出演してくれるミュージシャンがみんな素晴らしいから、会場はすごい盛り上がりますね。しかも映画があったりトークショーがあったりする上に、さっきお話したようにいろんな年齢層の方が来るイベントでもあるから「ライブの1曲目からみんなで立ち上がって盛り上げなきゃ」みたいな強制感もない。それぞれがそれぞれの楽しみ方で長い時間を過ごしてもらえている。その雰囲気もいいんですよね。

──バックステージってどんな雰囲気ですか?

旅のムードがそうさせるのかもしれないけど、なんかみんな東京にいるときより楽しそうなんですよ(笑)。東京にいるときには気付かなかったお互いの魅力やヘンなところを発見して盛り上がったりしていて。ただ、今回のキャラバンで一緒に回っているミュージシャンって、いわゆる仲良しグループ的なくくりじゃない。これは僕のブッキングのコンセプトなんですけど、各都市のライブの出演ラインナップにはいくつかの柱があって。

──いくつかの柱とは?

1つは渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)や富澤タク(グループ魂、Number the.)や音速ラインのような福島出身者たち。で、2つめが沖縄のMONGOL800、札幌のSLANG、神戸のガガガSPや黒猫チェルシーのような各地の出身ミュージシャン。そして3つめの柱が斉藤和義やゴッチ(後藤正文 / ASIAN KUNG-FU GENERATION)のような、それぞれのスタンスで福島と関わっている人たち。そして震災前から福島での風とロックに出続けてくれている怒髪天や高橋優。この多様なメンバーが一緒にLIVE福島のステージに立ちます。

──しかもさっきのお話の通り、それぞれ音楽性はもちろんイデオロギーもバラバラなんですよね?

なのになぜかみんな楽しそうだし、ちゃんと共存している(笑)。そういう雰囲気って絶対にトークショーには現れるし、ライブパフォーマンスからも伝わってくるはずなので、ちょっと注目してもらいたいですね。

見どころは岩手の「日程、会場調整中」

──9月の福島での最終公演「風とロック芋煮会2013」まで、広島、宮城、岩手と、まだまだ「風とロック LIVE福島 CARAVAN日本」は続きます。実際に会場に足を運ぶ人はもちろん、NOTTVの各公演の中継番組を楽しみにしている人も多いと思うんですけど、今後の見どころってどこですか?

ファイナルの福岡はもちろん、どの会場のイベントも絶対楽しいものにする自信はあるんだけど、強いて言うなら、岩手の日程と会場が決まってないところ?

──へっ!? 確かに公式サイトには「日程、会場調整中」って書いてあるけど、これ、サプライズを狙った仕掛けとかじゃないんですか?

全然(笑)。「絶対出たい」って言ってくれている人たちのスケジュールが合わないんですよ。普通なら当然ハコが決まって、そこに集まれる人たちをブッキングするんですけど、予定していた日程を告げたら「その日にされたらオレら出られないじゃないですか!」「困るから別の日にやってくれ」って。そのくらい思い入れを持ってくれてる連中なので、どうしようもなくなっちゃってるんです。チケット発券会社さんやNOTTVさんには確実に怒られる気もするんですけど、岩手公演がどうなるのかっていうのはすごく面白いところだと思います(笑)(取材後、岩手会場は9月8日(日)岩手県公会堂での開催が無事決定)。

──ここまで待たせたぶん、ものすごいラインナップになるのは確実ですもんね。

もしかしたらこんな調子で復興イベントの話をしていると、不謹慎だと思う人もいるかもしれないんですけど、僕は笑うことって人にとって絶対に必要なことだと思っていて。3.11以降、怒ることを覚えた人はたくさんいるんだけど、今はその怒って振り上げた拳の下ろし方を考える時期なんじゃないかと思うんです。もちろんまだまだ怒るべきこと、抗議するべきことっていうのはたくさんあるんだけど、その一方で「じゃあどうやってみんなで明日を作っていくのか?」っていうことも問われているんじゃないかって。そういう前向きなことを考えるときには怒った顔や難しい顔だけじゃなくて、素直に笑っている顔も必要なんじゃないのかなあ。生きていくために。そして、そのみんなが笑顔でいられることこそが僕にとってのエンタテインメントなんです。

箭内道彦
風とロック LIVE福島 CARAVAN日本
風とロックLIVE福島CARAVAN日本 9公演ダイジェスト
放送日
4月27日(土)22:00~23:00 長崎公演ダイジェスト版
5月18日(土)22:00~23:00 東京公演ダイジェスト版
※放送スケジュールは変更になる場合があります。番組表でご確認ください。
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