音楽ナタリー PowerPush - NORIKIYO×ILL-BOSSTINO

ガチンコヒップホップ対談

NORIKIYOが通算6枚目のフルアルバム「如雨露」(じょうろ)を12月10日にリリースした。このアルバムの発売を記念してナタリーではNORIKIYOとTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOとの対談を企画。「如雨露」の話題を中心に、ライブのやり方、日本のヒップホップシーンなどについて話してもらった。

取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 佐藤類

パーフェクトなアルバム

──2人が対談するのは今回が初めてなんですね。

左からNORIKIYO、ILL-BOSSTINO。

NORIKIYO そうなんです。もちろん交流はあるし、この前も名古屋のイベントでご一緒させてもらったんですけど、しっかり話す機会となるとこれが意外となくて。

ILL-BOSSTINO イベントで一緒になるのも数年ぶりだったしね。

NORIKIYO はい。お酒のないとこで話すのは今日が初めて(笑)。

BOSS むしろライブの現場以外で会うのは、今日が初めてかもね。

NORIKIYO 今日、こうやってBOSSくんと同じソファに座って音楽の話をできるのは楽しみです。

──では、BOSSさんはNORIKIYOさんの「如雨露」をどのように聴かれましたか?

BOSS ひと言で言うなら、NORIKIYOのキャリアの大きな到達点。パーフェクトなアルバムだと思った。

NORIKIYO ……ありがとうございます(笑)。

BOSS 俺は普段、俺以外のラッパーのアルバムをこんなふうに言ったりはしないんだけど。韻の踏み方は固いし、しかもそれはさりげないし、声も音もいい。しかも歌ってるトピックが、ビートとすごくマッチしててさ。

──今回はラブソングが多いですね。

ILL-BOSSTINO

BOSS いい意味ですごくキャッチーなアルバムだよね。聞こえがね。中身は超ドープだけどね。そのバランス感覚と実際の表現がパーフェクト。普通ヒップホップのラブソングっていうと、女の子のシンガー呼んできて、男がちょっとラップして、フェードアウトみたいなのが多いじゃない?(笑) アメリカでもそんなんばっかなんだけど、このアルバムにはそもそも客演なんてほとんどいなくて、しかもNORIKIYOは自分のラフなヒップホップの美学を崩さずに、聞こえがキャッチーな曲を成立させてる。それって実はすごいことだと思うんだ。そういう意味では絶妙なバランス感の上に成り立ってる完璧な作品だよ。簡単そうに見えてこれがけっこう難しいんだ。

NORIKIYO そんなことBOSSくんに言ってもらえるのはマジでうれしいです。

ヒップホップ的トピックのないアルバム

BOSS 今回のアルバムって構成が面白いよね。前半はラブソングばっかりなんだけど、聴き進めていくうちにいろんな世界が広がってくるというか。ヒップホップでこういうアルバムの構成っていうのは新しいと思ったな。

NORIKIYO 1stアルバム「EXIT」が好きな人は、今回の「如雨露」は肩すかしを食らったような気分になるかも。

──それは「メイクマネー」のようなヒップホップ的なトピックが少ないから?

NORIKIYO

NORIKIYO そうですね。でも今回は軽く聴ける感じにしたいっていうのは、前作「雲と泥と手」を作ってるときから決めてたんで。

BOSS 1年で3枚もオリジナルアルバムを出せば、同じトピックばっかり歌うわけにいかないしね。そもそもそういう「のし上がっていくぜ」みたいな歌ってヒップホップじゃビギナーの表現なんだ。誰でもできる。結局もちろんそういうのも超カッコいいけど、人生っていろんなことあるじゃん。人は成長するし、結婚するし、離婚するし、子供産まれるし、仲間はいなくなるし。俺もある時点で「そこまで歌わないと」って気付いたんだよ。

NORIKIYO 別にヒップホップ的なことを歌ってないからといって、僕は自分が育ってきたヒップホップ畑を捨てたわけじゃないんですよ。ただ今自分が登りたいと思う山が違うというだけなんです。

NORIKIYOニューアルバム「如雨露」 / 2014年12月10日発売 / 3000円 / YUKICHI RECORDS / YRC-045
ニューアルバム「如雨露」
収録曲
  1. 何度でもやる
  2. 何時かの夕立ちを想ひて
  3. 密会
  4. 最後の朝
  5. 未練にキスを
  6. Cha La Cha La feat. BRON-K
  7. Go So Far
  8. プラットホーム
  9. Music Train
  10. 舵は俺達の手の中に
  11. 解放区
  12. 如雨露
  13. まだゴールなら遠い
  14. このトンネルを抜けりゃ
  15. 腰越ハートブレイク feat. YOSHIRO(underslowjams)
  16. ベッドの上で
NORIKIYO(ノリキヨ)

NORIKIYO

神奈川県相模原を拠点に活動するヒップホップクルー・SD JUNKSTAのメンバー。SEEDAのアルバム「花と雨」への参加などを経て、2007年に東京郊外の暮らしを中心に歌った1stアルバム「EXIT」を発表した。その後2枚のアルバムをリリースして2013年末にアルバム「花水木」を完成させ、2014年にはNORIKIYO & WATT a.k.a. ヨッテルブッテル名義のリミックスアルバム「メランコリック現代 Remix」とアルバム「雲と泥と手」を発表。8月には東京・LIQUIDROOMでワンマンライブを敢行した。さらに12月10日には6thアルバム「如雨露」を発表。

ILL-BOSSTINO(イルボスティーノ)

THA BLUE HERBのラッパー。通称、BOSS。1997年に札幌でO.N.O(Track Maker)とともにTHA BLUE HERBを結成した。1998年に1stアルバム「STILLING, STILL DREAMING」を発表し、以降も独自の世界観を確立したリリックとソリッドでミニマルなビートで人気を集める。またライブはDJ DYE(LIVE DJ)とBOSSの2人で行う。2014年12月10日にtha BOSS名義のシングル「NEW YEAR'S DAY feat. 般若」を発表する。