音楽ナタリー Power Push - 野水いおり
野水いおり×大槻ケンヂ×橘高文彦 “ジョイント”される3つの才能
“伊織”と“いおり”を考える
──ここからはシングル表題曲の「D.O.B.」とカップリング1曲目の「水底のremains」について聞かせてください。
はい。
──まず「D.O.B.」なんですけど、すごくカッコよかったです。もう最初のスラップベースからして「こんなのズルいわ」って感じで(笑)。
ありがとうございます(笑)。今回は「空戦魔導士候補生の教官」というアニメ、空の上で戦うアニメのテーマソングだったので、突き抜ける感じや疾走感と、それでいて空を舞う軽やかさが欲しかったんです。あと私が声を担当させてもらっているリコ・フラメルもそうなんですけど、落ちこぼれなんだけどプライドはあるし、強い意思も持っているヒロインたちの「やってやるわよ!」みたいな思いに寄り添えたらいいな、と思って。なので、今おっしゃっていたベースの音であったり、エッジの効いた強い音がたくさん使われている上に全体的に音が重たかったりもするんだけど、ちょっとダンサブルで軽やかでもあった、この曲にさせてもらいました。
──あっ、楽曲の企画段階から制作にタッチしているんですか?
はい。もともとアーティスト活動を始めるときからのディレクターさんのやり方なんですけど、制作や企画のタイミングから、私の意見を聞いてくれるんです。なので、今回も楽曲をお願いするタイミング、さらに音源を何曲かいただいて聴いたあと、といった形で何度か相談をしながら進めさせてもらっています。 “いおり”名義のときは本当に好き勝手にやらせていただいています(笑)。
──その名義についてはぜひ伺いたかったんです。声優のときは“野水伊織”で、ボーカリストのときは“野水いおり”。“伊織”と“いおり”ではキャラクターに違いがあるのかな?って。
キャラクターの違いというよりは職業が違うから振る舞い方が変わる感じですね。“伊織”のとき、声優のときの私は、当たり前なんですけど、素を表現するのではなくキャラクターというほかの人物に命を吹き込むことが仕事で。でも“いおり”のときはより素に近い私を表現するのが仕事なんです。だから歌いたい曲を歌うし、大好きなホラーマンガ家さんをゲストに呼んでトークイベントを開いたりもするし。趣味を全開にさせてもらっています(笑)。
──じゃあ、のちにこの「D.O.B.」の形になるデモも、単にアニメのテーマソング向きだから選び取ったというわけではない?
はい。さっきお話したヒロインたちの「やってやるわよ!」という気持ちは私も持っていますから。そうやって彼女たちと通じ合える部分があったのも、この曲を選んだ理由なんです。あと曲と同じように、藤林(聖子)さんの歌詞もエッジが効いていて強かったのも選んだ理由の1つですね。私自身、いつも物事は白黒ハッキリさせたいタイプなので、このくらい強い言葉を歌うときっと気持ちいいだろうな、と思ったのと、その反対にこの言葉を女の子らしく歌ってみたら面白いかなとも思ったので。
野水いおり、「マジ」にマジで悩む
──実際、この曲の野水さんのボーカルのノリは「やってやるぜ!」というよりは「やってやるわよ!」的。ガーリーですよね。
そうですね。
──で、藤林さんの詞も「この曲ズルいわ」って思った理由の1つなんです。サビ頭で連呼する「Magic」を「マジ」に聞こえるようにしているあたりが特にズルいな、と。
私もビックリしました(笑)。これまでにも藤林さんには詞を書いていただいていて、そのたびに「おおっ!」と驚かされていたんですけど、今回は「おおっ!」の声がより大きかったというか。タイトルを歌詞にも出てくる「DROPOUT BREAKERS」でなく略語の「D.O.B.」にしているところがまず謎かけっぽくて気になりましたし、その「マジ」にもやっぱり驚かされました。
──しかも今日ここまでお話を伺っていて「マジ」に対する驚きがより大きくなったんですよ。というのも野水さんって基本的に敬語が崩れないんですよね。すごく丁寧にお話している印象があるんです。
目上の方とご一緒するときやお仕事の現場では自然と「ちゃんとお話しなきゃ」って思っているのかもしれませんね。
──でも「Magic 泣きそうで」「Magic 無理で」と歌ってるときの野水さんはちゃんと女の子っぽい。「マジ」を連発されて若干ウザさすらありましたから(笑)。
あはははは(笑)。でもだからこそ「マジ」は自分の中ではチャレンジだったんです。「どう歌ったらいいんだろう?」ってけっこう悩みました。
──年相応の女の子っぽい言葉遣いがチャレンジだったって難儀な性分ですねえ。
よく言われます(笑)。「『Magic』の『c』は発音しないで『マジ』に聞こえるようにするんだよな」「女の子っぽく『マジ』って言えばいいんだよな」ということはさすがにわかっていたんですけど、どのくらい軽くすれば女の子っぽくなるのかがまるでわからなくて。「どんなトーンで歌います?」って何度も確認してました。男の子っぽく「マジかっ!?」って驚くこととか、「マジかあ……」って落胆することはしょっちゅうあるんですけど……。
──「本当ですか?」という意味で「マジ」を使うことはよくある、と。
でも「とても」とか「すごく」という意味で女の子っぽく「マジ」って言ったことがほとんどなかったんです(笑)。
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- ニューシングル「D.O.B.」 / 2015年7月29日発売 / FlyingDog
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1944円 / VTZL-97
- 通常盤 [CD] / 1404円 / VTCL-35204
CD収録曲
- D.O.B.
[作詞:藤林聖子 / 作曲:ミライショウ / 編曲:CHOKKAKU] - 水底のremains
[作詞:野水いおり / 作曲・編曲:雅大] - 球体関節人形の夜
[作詞:大槻ケンヂ / 作曲:橘高文彦 / 編曲:橘高文彦・manzo]
初回限定盤DVD収録内容
- 「D.O.B.」MUSIC VIDEO
野水いおり(ノミズイオリ)
北海道出身のボーカリスト、声優。2010年アニメ「そらのおとしもの」で本格的に声優としてのキャリアをスタートさせる。そして2011年、自身がヒロイン・ハルナ役を務めたアニメ「これはゾンビですか?」のオープニングテーマ「魔・カ・セ・テ Tonight」でアーティストデビューを果たす。以降アニメ「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」のオープニングテーマ「Black † White」(ブラック・ホワイト)や、「デート・ア・ライブ」エンディングテーマ「SAVE THE WORLD」などのシングルやミニアルバム「月虹カタン」、フルアルバム「Hat Trick」などを発表する。またその傍ら、アニメ「うぽって!!」で共演した声優の富樫美鈴、佐土原かおり、味里とともにユニット・sweet ARMSを結成し、また幼少の頃から愛好しているホラーマンガの作家を迎えるトークイベント「宵闇倶楽部」を不定期開催するなど幅広い活動を展開。2015年7月にはアニメ「空戦魔導士候補生の教官」のオープニングテーマとなる表題曲や、ファンだと公言する筋肉少女帯の大槻ケンヂ(Vo)と橘高文彦(G)が制作に参加した「球体関節人形の夜」が収められたシングル「D.O.B」をリリースする。