音楽ナタリー Power Push - 野水いおり

野水いおり×大槻ケンヂ×橘高文彦 “ジョイント”される3つの才能

なぜか謝られた記憶があります

大槻ケンヂ

大槻 さすがにあそこまでリスペクトしていただくと「我々もちゃんとしなければ」ってなりますよね。

橘高 ところがその日、我々がやったことといえば……。

──何をしちゃいました?(笑)

橘高 筋少のライブにはたまに大槻以外のメンバーが歌うコーナーっていうのがありまして。野水さんがいらっしゃった日はよりにもよって僕が「小さな恋のメロディ」を歌う日だったんですよ(笑)。

野水 すごくレアなバージョンを観せていただけたので「おおっ!」ってなりました。

橘高 いやいやいや。ボーカルが大槻でない上に、僕は僕で男女で歌い分けるわけでもなく普通に歌ってしまい……。なので、ご挨拶のときは開口一番「ごめんね、よりにもよって初対面が今日で」と。

野水 確かになぜか謝られた記憶があります(笑)。

──その出会いが今回のコラボレーションのきっかけに?

橘高 そうですね。作詞・大槻ケンヂ、作曲・橘高文彦、アレンジ・manzoさん、歌唱・野水いおりさんっていう、今回の「球体関節人形の夜」に繋がるメンバーで写真を撮って「今度は何か一緒にできたらいいね」「できることがあれば協力しますよ」って話をしていたら、思いのほか早く本当に話が来て。

──写真を撮った日、要はReNYのライブの日程とシングルの制作期間を考えると、半年と待たずに話が来たわけですもんね。

野水 なので私も「ええっ!?」ってなりました(笑)。

──あっ、野水さんからのオファーじゃないんですか?

野水 そんなそんな! 恐れ多くてお願いごとなんて……。ディレクターさんから「頼んでみよっか?」って言われたときはホントに「ええっ!?」ってなってましたから。

大槻 我々はお話をいただいたときには某居酒屋並に「喜んで!」って感じだったんですけどね。厨房に聞こえるくらいの大声で言ってやりましたよ。光栄でしたから。

橘高 「野水さんから1曲ご注文いただきました!」

野水 あはははは(笑)。

脳内「アニサマ」で“日本のメタルの到達点”を歌う

橘高文彦

橘高 しかもそのディレクターさんからのメールがすごく印象的だったんですよ。内容がすごく具体的で。まず「スピーディでプログレッシブで」って書いてあって。まあこのへんはわかるんです。筋少に対して皆さんが持っているイメージはそういうものだろうから。ただそのあと「変拍子があって、途中でアコースティックギターが入って」って「おーっ、来た来た来た!」って感じの文章が続いていて(笑)。最後には「もちろん橘高さん特有のテクニカルで印象的なギターフレーズが入っていて」とあったという。「確かに『できることがあれば協力しますよ』とは言ったけど、これオレができること全部やないかい!」と。

野水 ウチのディレクターが本当に申し訳ないことを……。

橘高 はははは(笑)。でも「なるほどな」とも思ったんです。僕、今年でデビュー30周年なんですね。筋少に入る前、1984年にAROUGEっていうヘヴィメタルバンドでデビューしているので。だから「じゃあ、オレの30年の集大成みたいな曲を書けばいいんだな」と思って。そういういいプレッシャーを与えてもらえたのはうれしかったですね。

大槻 で、これがホントにいい曲なんですよ。客観的に見ても日本のヘヴィメタルポップスのトップクラスにランクインする曲だと思ってます。

橘高 曲作り自体、スムーズだったし面白かったですしね。僕、曲を書くとき楽器を持たないんですよ。大槻がライブで歌っている画を思い浮かべているとメロディやアレンジが浮かんでくるから、そのまま頭の中のライブがエンディングを迎えられたら万々歳。それは曲が最後まで演奏されたっていうことだから、あとは頭の中にあるメロディとアレンジを楽器でコピーすれば完成なので。で、野水さんは筋少のことを好きでいてくれるわけだから、筋少のライブを思い浮かべるところから作業を始めればよかったんですよね。

──ただ「球体関節人形の夜」のボーカリストは野水さんですよね?

橘高 そこが面白かったんです。今、大槻が歌っている画を思い浮かべるって言ったけど、実はそれはちょっと正確じゃなくて。いつもボーカリストになった気持ちで曲を書いてるんです。だからこの曲を作ってるときはライブでの野水さんを思い浮かべていたら、だんだん自分が野水さんになったような気がしてきて……。

大槻 なんだそれ(笑)。

橘高 いや、ホントにそういう気持ちになったんだよ! で、野水さんになったら、あの開けた感じのサビとか、「膝が」「肘が」のところに入るブレイクなんかが自然と出てきた。根っこには筋少があるんだけど、筋少の焼き直しではない。ちゃんと野水さんのオリジナルでもある曲を書き下ろせたんです。しかも歌入れにも立ち会ったら、もう完全に野水さんと同一化しちゃって。歌声を聴いてたら、自分がペンライトやサイリウムを振られているような気持ちになってきたんですよね(笑)。

大槻 「アニサマ」のステージで?

橘高 うん、頭の中ではオレがさいたまスーパーアリーナで歌ってた(笑)。ところであのディレクターさんからのメールには野水さんの意向は反映されてなかったの?

左から野水いおり、大槻ケンヂ、橘高文彦。

野水 具体的なお話はしてないです。ある日「筋少さんの中ではどの曲が好き?」というざっくりとした電話があって「『恋の蜜蜂飛行』みたいにスピード感があって、ガーンってギターが入る曲が好きです」と答えてはみたんですけど、最終的には「好きに書いていただければ私はそれで幸せです」とお伝えしてました(笑)。

大槻 詞は曲以上にオーダーがなかったというか、特に指示らしい指示がなかったんですよね。

野水 「好きに書いていただければ幸せです」とお伝えしてしまって……(笑)。すみません。

ニューシングル「D.O.B.」 / 2015年7月29日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] / 1944円 / VTZL-97
通常盤 [CD] / 1404円 / VTCL-35204
CD収録曲
  1. D.O.B.
    [作詞:藤林聖子 / 作曲:ミライショウ / 編曲:CHOKKAKU]
  2. 水底のremains
    [作詞:野水いおり / 作曲・編曲:雅大]
  3. 球体関節人形の夜
    [作詞:大槻ケンヂ / 作曲:橘高文彦 / 編曲:橘高文彦・manzo]
初回限定盤DVD収録内容
  • 「D.O.B.」MUSIC VIDEO
野水いおり(ノミズイオリ)
野水いおり

北海道出身のボーカリスト、声優。2010年アニメ「そらのおとしもの」で本格的に声優としてのキャリアをスタートさせる。そして2011年、自身がヒロイン・ハルナ役を務めたアニメ「これはゾンビですか?」のオープニングテーマ「魔・カ・セ・テ Tonight」でアーティストデビューを果たす。以降アニメ「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」のオープニングテーマ「Black † White」(ブラック・ホワイト)や、「デート・ア・ライブ」エンディングテーマ「SAVE THE WORLD」などのシングルやミニアルバム「月虹カタン」、フルアルバム「Hat Trick」などを発表する。またその傍ら、アニメ「うぽって!!」で共演した声優の富樫美鈴、佐土原かおり、味里とともにユニット・sweet ARMSを結成し、また幼少の頃から愛好しているホラーマンガの作家を迎えるトークイベント「宵闇倶楽部」を不定期開催するなど幅広い活動を展開。2015年7月にはアニメ「空戦魔導士候補生の教官」のオープニングテーマとなる表題曲や、ファンだと公言する筋肉少女帯の大槻ケンヂ(Vo)と橘高文彦(G)が制作に参加した「球体関節人形の夜」が収められたシングル「D.O.B」をリリースする。

大槻ケンヂ(オオツキケンヂ)

1966年生まれ東京出身の男性シンガー、作家。中学の同級生だった内田雄一郎と筋肉少女帯を結成し、1988年にアルバム「仏陀L」でメジャーデビュー。不条理かつ幻想的な詩で独自の世界観を確立する。またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。青春小説「グミ・チョコレート・パイン」は2007年に映画化され、話題となった。また1995年にはソロアーティストとして、アルバム「ONLY YOU」をリリース。1999年には新バンド・特撮を結成し、精力的なライブ活動を展開する。2006年に筋肉少女帯が再活動。現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。

橘高文彦(キツタカフミヒコ)

1965年生まれ大阪出身のギタリスト、作曲家、プロデューサー。1984年デビューのヘヴィメタルバンド・AROUGEの一員としてプロミュージシャンとしての活動を開始し、1989年、筋肉少女帯に加入。以降バンドのギタリストとしてはもちろん、メインソングライター、アレンジャーとして数多くの楽曲を手がける一方で、1994年にはソロプロジェクト・Fumihiko Kitsutaka's Euphoria名義のアルバム「Euphoria」を発表する。1999年には筋肉少女帯脱退と前後して二井原実(Vo)、和佐田達彦(B)、ファンキー末吉(Dr)とともにバンドX.Y.Z.→Aを結成。国内のみならずアジア圏でも大きな人気を獲得する。そして2005年にソロアルバム「NEVER ENDING STORY」で大槻ケンヂと共演し、また2006年にはユニット・大槻ケンヂと橘高文彦名義で「踊る赤ちゃん人間」を発表したのを機に大槻らとともに筋肉少女帯を再結成。2010年にはソロ名義のベストアルバム「DREAM CASTLE ~BEST OF FUMIHIKO KITSUTAKA~」もリリースしている。

筋肉少女帯 ニューシングル「混ぜるな危険」
2015年8月5日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
初回限定盤 [CD+DVD] / 2970円 / TKCA-74245
通常盤 [CD] / 1296円 / TKCA-74249