「ノー・ガンズ・ライフ」特集 浅井健一インタビュー|“作品の正義”に沿った社会風刺ロックンロール

ちゃんと光がある作品じゃないと嫌

──歌詞は、さっきおっしゃっていた“作品の正義”に寄り添いながら書いていったんですか?

「ノー・ガンズ・ライフ」1巻 ©︎カラスマタスク/集英社

そう。マンガを読んで、浮かんだものを書いた。今、世の中がすごい状況になってるじゃん。「これから、どうなっていくんだろう?」と思うよね。みんな感じてるだろうけど。そこらへんの感覚が歌になってると思うね。世界が危なくなっているという。

──サウジアラビアの石油生産プラントが攻撃されたりとか。

それもだし、韓国と日本、アメリカと中国との関係もそうだしさ。いよいよ世界が大きく変化するかもわからない。その危機感はみんなと同じだと思うんだよね。それをどのような音にするか、物語にするかということを一生懸命やったかな。

──それは作品にインスパイアされた部分もありつつ、日頃、浅井さん自身が感じていることでもあるわけですよね。

そうだね。日々生活しとって、自然に心に入ってくることが曲になるのが当たり前っていうか。それをカッコいい形で表現できたらいいなと思ってるよ。

──この作品の制作に寄せて、「殺人事件とテーマパークの広告が隣り合わせてる画面を眺める。ペラペラな出来事も悲惨な事件もひっくるめたランキング。まったく奇妙な世界になったもんだ」とコメントをされていたのも印象的でした。

かわいそうな事件の直後に、アホみたいなコマーシャルが流れとって、すごい世の中だなと思うんだよね。悲惨すぎるニュースがランキングになっちゃってるもんね。

──言い方が正しいかわからないですけど、芸能人の不倫と、政治の問題と、殺人事件が全部1つのランキングに入ってますよね。

人の不幸をランキングにしてどうすんの? そのランキングの上位をクリックするという。それが普通になっていて、その異常性に気付けないというのは異常だよ。

──浅井さんは、音楽の中で社会の出来事も切り離さずに歌いたいんですか?

それはあると思う。あんまり決めてないけどね。音楽を作るときは、自由な発想で作りたいとは思ってるから。もちろん社会とは関係ない曲も作りたいし。聴いた人がうれしくなったり、いい気持ちになったり、いい方向にいくものだったらなんでもいい。映画でも、演劇でも、マンガでも、ちゃんと光がある作品じゃないと嫌なんだよね。

──最終的に光があることが、表現者として大切にしていることであると。

それが当たり前だと思ってるね。

──ちなみに「MOTOR CITY」の歌詞を書くうえで、「ノー・ガンズ・ライフ」の原作を読んだからこそ出てきたという言葉はありましたか?

「モーターシティ」かな。これが最初に出てきたんだよね。本当は、最初の歌詞は「ロングドライブ モーテル チェックイン」だったんだけど、事情があって変えたんだ。残念だったけどね。モーテルという言葉は使ってはいけないんだって。

ずっと心に残ってたお坊さんの話

──この機会にシングルのカップリング曲「Addiction」の話も聞かせてください。グラマラスなグルーヴが心地いいセクシーな曲だと思いますけど、これもアルバムの制作過程でできた曲なんですか?

そうだね。でもこのタイプの曲がほかにもあったから、そっちをアルバムに入れて、「Addiction」は入れなかった。「MOTOR CITY」とは作ったタイミングがまったく違うんだよね。「Addiction」は去年の秋ぐらいにできた曲で。3曲目の「ぐっさり」は、そのあとにレコーディングしたのかな。

浅井健一

──「Addiction」は、浅井さんの中ではどういう曲にしようと思って作ったんでしょう?

タイトなロカビリー調の曲が好きで。まずコーラスの「Churururu…」のところが気に入っていて、そこからカッコいい感じにならないかなと思って作った。

──曲の展開もカッコいいですよね。後半にかけて高まっていく感じがあって。

うん、いいよね。ほかにあんまりない曲でしょ?

──はい。歌詞では「人間らしい生き方とはなんなのか」ということをストレートに歌っているけど、最後に「言ってたよ ある僧が」というオチがついていて、ちょっとおかしかったです。

本当に言っとったんだもん(笑)。

──実際にお坊さんに会いに行ったんですか?

会いに行った。雑誌の取材でね。「誰かと対談してください」って言われたから、「お坊さんと話がしたい」って言ったんだよ。

──どうしてお坊さんに会いたいと思ったんですか?

なんでも知ってるかなと思って。で、「人間ってなんのために生きてるんですか?」って聞いたんだわ。そしたら、「そんなことぐちゃぐちゃ考えとらんでもいい」と言っとって。それと「死んだらどこに行くんですか?」って聞いたら、「死んだらどこに行くかだとか、なんのために生きるだとか、そんなこと言っとらずに夢を見つけてそれに向かって一生懸命生きる。その姿が一番人間らしいんだ」って言うのよ。「死後の世界から帰ってきた人だとかは全部嘘。死んでこの世に戻ってきた人なんかいない、死んだらどうなるかなんて誰も知らん!」って。

──その答えに納得できたんですか?

「さすがお坊さん」と思ったよ。「はー、ありがとうございました」っていう感じ。で、それを歌詞に書いたんだよ。ずーっと前の話なんだけど。

──え、いつ頃の話なんですか?

15年ぐらい前かな。で、今もそのことが自分の中に残ってるんだよね。

絵を描いてるときのほうが楽しい

──3曲目の「ぐっさり」は2月に配信リリースされた曲ですけど、改めてシングルに入れようと思ったのは?

浅井健一

配信だとモノとして残らないでしょ。「ぐっさり」は大事な曲だと思ってたから、形としてCDで残したいなと思ったんだよね。

──シングルの初回限定盤にはミュージックビデオが収録されますけど、「ぐっさり」のMVのイラストは浅井さんが描いたんですよね。

そう、俺が絵を描いた。それぞれのセクションで15枚ぐらい書いたのかな。それをアニメーションにしてもらったんだよね。

──特に注目してほしいシーンはありますか?

車の上に人間が座ってるところが面白いですよね。

──あれは衝撃的でした。まさにインターネットで、1人の人間を総攻撃してる様を象徴してるというか。

そうだったのか。そういうことにします、ありがとう。

──絵を描くときは、音楽を作るときとは違うクリエイティブの脳を使うんですか?

絵を描いてるときのほうが楽しいかな(笑)。音楽も楽しいんだけど。

──はははは(笑)。音楽のほうが本業だから、絵のほうが気楽に取り組めるんですかね?

うーん、わからんけど。違う脳を使うという意味では、例えば「ぐっさり」のレコーディングをしてるとするでしょ。それで、最初に「お、なかなかいいのができた」と思って作ってたときの脳と、「もっといいものが録れるかもしれないから、もう1回やってみようぜ」ってテイク2を録るときの脳は全然違うんだよね。

──新鮮さがなくなるというか。

欲が出てるんだよね。やっぱり純粋に録ったときとは違う脳で歌ってるなと思う。

──そうなんですね。「ぐっさり」は誹謗中傷が飛び交うネット社会の闇を表現した楽曲ですけど、サウンド的にはアコースティックギターが軸になっていて、人肌のぬくもりも感じる曲だなと思いました。

光が最後に入っとるからね。さっきも言ったけど、ちゃんと光がある曲じゃないと嫌だから。この曲は暗い話じゃん。だから「こんなこと歌っていいんかな?」と思いながら作ってて。最後に「にっこり笑おう」というフレーズが出てきたから、「あ、これは歌うべきだな」と思ったんだよね。

──シングルの最後に、どこか「ノー・ガンズ・ライフ」の世界観にもつながりつつ、「にっこり笑おう」で終わる「ぐっさり」があることによって、作品として美しい流れになったと思います。

うん。終わり方がホッとするよね。

浅井健一