日食なつこ×住野よる|鬱屈とした2人 “もう一人の私”との対話

日食なつこが9月27日にミニアルバム「鸚鵡」をリリース。これを記念して、音楽ナタリーでは「君の膵臓をたべたい」で知られる小説家・住野よるとの対談を実施した。日食の歌に衝撃を受けた住野が自身のTwitterアカウントで感想をつぶやき、これに日食がツイートで応える形で始まった2人の交流。この日が初対面ながら、2人はお互いの作品に共通する思いや人生観など、深い話題まで語り合った。

取材・文 / 廿楽玲子 撮影 / 西槇太一

住野先生の予約済みですから

日食なつこ 今日の対談、楽しみにしていました。住野先生の小説を私に薦めてくれたのは岩手に住む母なんです。今日の対談は母も楽しみにしているので、この記事が出たらすぐに知らせます。

住野よる ありがとうございます。僕が日食さんを知ったきっかけは、インターネットで観た「水流のロック」の動画なんです。「これはカッコいい!」と思ってすぐにCDを買いに行って、「エピゴウネ」を聴いて完全にやられてしまいました。僕は自分に向かって歌っている人に惹かれるんですが、日食さんもそんな感じがして。

日食 まさに自分に向けて歌ってます。内向的な人間の歌ですよね。

日食なつこと住野よるの“本体”。

住野 日食さんの歌を聴いていると、鋭利な角度から叱られている気分になるんです。「エピゴウネ」の「情熱だけで生き残れたらどいつもこいつもヒーローだよ」という歌詞の一節とか、胸に突き刺さるものがありました。僕もデビューしてから生き残れるのか、毎日脅えているので。

日食 うれしいです。私から見ると住野先生は「君の膵臓をたべたい」のヒットで自分の世界を築かれたようなイメージがあるので、「エピゴウネ」をそんなふうに捉えていただけるなんて。

住野 新作「鸚鵡」もすばらしかったです。中でも「廊下を走るな」がとてつもなく好きです。これは僕もデビュー時から言ってるんですけど、生きるために大切なことって本当はすべて小学生の頃に習ってるはずだと思うんですよ。この曲はまさにそういうことを歌っていると思うので、僕の「また、同じ夢を見ていた」が映画化されたら主題歌にしてほしいくらいです。

日食 えっ、本当ですか!?

住野 とは言え映像化しにくい話だし、今のところなんの声もかかってないんですけど(笑)。

日食 じゃあ、それまで「廊下を走るな」は取っておきますね。誰にも手を付けられないように、「住野先生の予約済みですから」って。

チェックポイントにたどり着く瞬間が、物語を作っていて一番楽しいとき

日食 住野先生は小説で、いろんな人物の物語を書かれていますよね。私は常に自分のことだけを書いているので、他人の物語というのは手を付けられない分野なんです。だから今日は、どうやってゼロから物語をひねり出してるのか、ぜひお聞きしてみたくて。

住野 僕の場合、主人公のダメなところは全部僕のダメなところだと思うんです。1作目の「また、同じ夢を見ていた」の主人公は偉そうな小学生で、一人でいるのがラクだし、周りはみんなバカだと思ってる。僕にもそういう部分があるから、“そうじゃないよ”と主人公に物語で教えてあげたいという思いから書き始めました。

日食 キャラクターありきじゃなくて、テーマを考えるうちに自分を投影した主人公が生まれるんですね。

住野 そうですね。まず初めに小説の中で言わせたい台詞がポツンポツンと浮かんできて、それを物語のチェックポイントとして書き留めます。そのポイントでテンションを頂点に持って行くために、話の前後をいかに埋めるかを考えていきます。

日食 あ、それは私が歌を書くときと同じかも。例えば「エピゴウネ」なら、「情熱だけで生き残れたらどいつもこいつもヒーローだよ」という一文が最初にバッと出てきて、その一文を伝えたいがために前後の歌詞を足していくんです。

住野 僕もそういう感じです。チェックポイントにたどり着く瞬間が、物語を作っていて一番楽しいときなんですよ。ちなみに今は次回作の改稿という、全然楽しくない作業をやってるところです(笑)。

いつまでたっても昔の自分のほうが強い

住野 日食さんは曲作りのとき、歌詞を先に書かれるんですか?

日食 歌詞先行が多いですね。昔は歌詞とメロディが一緒に出てきたんですけど。「エピゴウネ」もそうでしたが、歌詞にふさわしいメロディを呼ぶ感じで。

住野 “メロディを呼ぶ”……カッコいいなあ。

日食 刺身には醤油、カツにはソースが合うように、あの歌詞にはこのメロディじゃないとどっちもおいしくならないっていう組み合わせがあって。それを呼ぶ直感力が、十代の頃はかなり強かったと思います。でも最近、それがどんどん鈍くなってる気がしていて……。

日食なつこと住野よるの“本体”。

住野 年々鈍ってきてるんじゃないかっていう怖さは、僕もあります。去年のほうが発想力があったような気がするって毎年思うんですよ。

日食 私もそう思います。いつまでたっても昔の自分のほうが強い。

住野 そうなんですよね。うまくなってるだけで、すごくなってるわけじゃない気がする。こなれてきちゃってるんじゃないかと思ったりもします。デビューした頃は小説家扱いされるだけでうれしかったのに、今では担当さんたちに文句を言うようになってしまったりとか(笑)。

日食 本当ですか。そんな姿は全然想像できないんですけど、住野先生でも文句を言われるんですね。

住野 めっちゃ文句言いますよ、僕(笑)。今、次作を担当さんとケンカしながら作ってます。デビュー前は自分だけを信じるしかなかったけど、今は出版社側の意見も入ってくるので、「ここはこうしたほうがいい」って言ってくる担当さんとしょっちゅうぶつかってます。

日食 音楽制作の場と同じですね。私はそういうぶつかりあいが上手じゃなくて、いつも逃げちゃうんですけど……今のスタッフは日食なつこの、いい意味での“えぐさ”を理解してくれるんですけど、世間への浸透しやすさ、わかりやすさを求められることはあります。そんなとき、一人ぼっちでやっていた十代の頃のほうが表現者として強かったんじゃないかと思うこともあって……(うんうん、と頷く住野を見て)住野先生もそうですか。

住野 思わず深く頷いてしまいました(笑)。すごくよくわかります。

日食なつこ「鸚鵡」
2017年9月27日発売 / LD&K Records
日食なつこ「鸚鵡」

[CD]
2160円 / 281-LDKCD

Amazon.co.jp

収録曲
  1. ギャングギャング
  2. レーテンシー
  3. 座礁人魚
  4. 2099年
  5. 廊下を走るな
  6. LAO
  7. ハッカシロップ

ライブ情報

時差呆け矯正ツアー
  • 2017年11月4日(土)神奈川県 Yokohama Bay Hall
  • 2017年11月15日(水)京都府 磔磔
  • 2017年11月16日(木)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2017年11月24日(金)広島県 Live Juke
  • 2017年11月26日(日)香川県 SPEAK LOW
  • 2017年12月2日(土)北海道 サンピアザ劇場
  • 2017年12月3日(日)北海道 札幌くう
  • 2017年12月7日(木)宮城県 darwin
  • 2017年12月8日(金)新潟県 ジョイアミーア
  • 2017年12月17日(日)福岡県 Gate's 7
  • 2018年1月8日(月・祝)東京都 日本橋三井ホール
  • 2018年1月14日(日)大阪府 なんばHatch
  • 2018年1月20日(土)岩手県 Club Change WAVE
日食なつこ(ニッショクナツコ)
日食なつこ
1991年5月8日、岩手県花巻市生まれのピアノ弾き語りアーティスト。9歳からピアノを、12歳から作詞作曲を始め、高校2年生の冬から地元岩手県の盛岡にて本格的なライブ活動を開始する。「ストファイHジェネ祭り09」の東北エリア代表アーティストとしてファイナルに残り、この時期にiTunesボーカルチャートで1位を獲得した。2012年から各地のロックフェスティバルに出演。2014年にはアルバム「瞼瞼」をリリースし、全国7都市を周る全国ツアーを開催する。2015年には「FUJI ROCK FESTIVAL’15」に出演した。2017年に「逆鱗マニア」をリリースし、ツアー「マニアたちの親睦会」を開催する。ツアーファイナルの様子は4月発表の自身初のライブDVD「マニアたちの親睦会-千秋楽 東京キネマ倶楽部-」に収録された。9月に2枚目となるミニアルバム「鸚鵡」をリリース。11月からはワンマンツアー「時差呆け矯正ツアー」を実施する。
住野よる(スミノヨル)
小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「君の膵臓をたべたい」が注目を集め、同作で2015年にデビュー。2016年2月に2作目の小説となる「また、同じ夢を見ていた」、12月に「よるのばけもの」を発表する。なお「君の膵臓をたべたい」は浜辺美波と北村匠海(DISH//)のダブル主演で映画化され、2017年7月に全国公開された。