ニノミヤユイが11月3日に両A面シングル「Dark seeks light / 散文的LIFE」をリリースした。
シングルにはテレビアニメ「世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する」のオープニング主題歌「Dark seeks light」とテレビアニメ「テスラノート」のエンディングテーマ「散文的LIFE」を収録。どちらの楽曲も作詞はニノミヤ、作編曲はケンカイヨシというタッグで制作された。またシングルはアーティスト盤、暗殺貴族盤、テスラノート盤の3形態が用意され、それぞれ異なるカップリング曲が収められている。カップリングもすべての楽曲の作詞にニノミヤが携わり、これまで以上に彼女の色が濃く出た1枚に仕上がった。
デビュー時から一貫して自身が抱える鬱屈とした感情や反抗心を歌い続けてきたニノミヤ。今作からは自身の葛藤を音楽に落とし込むアプローチの手段が音楽ジャンル、作詞、歌唱などあらゆる面で広がっていることが感じ取れる。音楽ナタリーではニノミヤにインタビューを行い、20歳を迎えたばかりの現在の心境やシングルに見える進化に迫った。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
「私はこうしたいんだ!」と決心できた
──ニノミヤさんは去る9月6日に20歳の誕生日を迎えられましたね。遅ればせながらおめでとうございます。
ありがとうございます!
──当日に行われた配信イベントで、20歳の抱負として「絶対売れます!」と宣言したそうですね。
そうなんです。今回のシングルにつながることでもあるんですけど、今年の3月にワンマンライブをしてから夏までの間ぐらいに、自分がアーティストとしても声優としてもこの先どうやってレベルアップしていけるかをずっと考えていて。そのときに、まず自分らしさをしっかり出していかなきゃいけないと思ったんですね。加えて、約半年間、皆さんに活動のお知らせができない期間が続いたんですけど、その間も私のことを気にかけてくださっていた人たちがいて、その人たちに対して私の誠意というかやる気を見せたかったんです。
──強気でいいと思いますよ。
もしかしたら自分の首を絞めることになるかもしれないし、だからちょっとビビってはいたんですけど、それは今の私にも必要なことというか。自分の気持ちを言葉にして残すことで、自らに課題を課すみたいな。
──先ほど「自分らしさ」とおっしゃいましたけど、今回のシングルでも“らしさ”は存分に発揮されていると思います。そのうえで、言葉の強さも増しているというか。
本当ですか? 今までは自分のネガティブな部分が「こんな私なんて……」みたいな感じでズーンと沈むほうに向かうことが多くて、それを音楽に変えていたんです。でも今回のシングルでは、いろいろ考えた末に、ようやく「私はこうしたいんだ!」と決心できたので、自分のエゴが出てきたかなというのはあります。
──前回のインタビューでニノミヤさんは「作詞は自分を見つめ直す作業」であり、そのたびに「自分の嫌な部分がどんどん見えてきちゃって」とおっしゃっていましたが(参照:ニノミヤユイ「哀情解離」インタビュー)、今回のシングルは徹底的に自分と向き合っている感がありますね。
さっきの「絶対売れます!」宣言とも重なるんですけど、「自分はこの道で生きていかなきゃいけない」という覚悟とともに「自分が自分のことを一番考えてあげないと道は開けないぞ」と自分を追い詰めるような感情が芽生えてきて。例えば私はレーベルにも事務所にも所属させてもらって、いつもスタッフさんが付いてくれていて、もちろんそれは心強いんですけど、極論すれば私が何も言わなくてもリリースが決まったり、歌詞も曲も用意してもらえたりするような状況でもあると思うんです。でも、自分の思いを自分で伝えていかないとアーティストとは名乗れないし、今回のシングルでは全曲の作詞に関わらせてもらって、より強く自分の表現したいことを打ち出せたかなって。
新しいのにとっつきやすい
──今作は初の両A面シングルで、A面の2曲ともタイアップ曲です。そしてどちらの曲も作曲・編曲はケンカイヨシさんですね。
ケンカイさんには1stアルバム「愛とか感情」(2020年1月発売)で「呪いを背負って生きたいよ。」という曲を提供していただいているんですけど(参照:ニノミヤユイ「愛とか感情」インタビュー)、私はこの曲がアルバムの中でも特に好きで、またご一緒したいと思っていたんです。そうしたら、今回のタイアップの2曲はどちらもケンカイさんのカラーが作品のコンセプトに合致するんじゃないかとスタッフさんが提案してくださって、私も「うれしい! ぜひお願いしましょう!」という感じでした。
──ニノミヤさんは曲を作ってもらう前に必ず作家と対話する時間を設けていますが、ケンカイさんとは2回目ということもあり、やりとりもスムーズだったのでは?
そうですね。もともとケンカイさんはフレンドリーな方なので、打ち合わせのときもあんまりひさびさ感がなかったというか、すごくお話ししやすかったです。そこで曲と歌詞の方向性を決めたあと、1曲目の「Dark seeks light」に関しては、私が歌詞を書く前にケンカイさんが仮の歌詞と、その解釈をA4用紙いっぱいに書いたものを一緒に送ってくださって。その熱意に触れて私も気合いが入りましたし、レコーディングでも2曲ともディレクションしていただいたので、ちゃんとコミュニケーションしながら進めることができました。
──その「Dark seeks light」はアニメ「世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する」のオープニングテーマで、トラックはハードなトラップですね。
それは私からの提案で。最近、そういうトラップだったりヒップホップの要素を取り入れているDUSTCELLさんというユニットの曲をよく聴いているんですけど、それを参考楽曲としてお渡ししたらケンカイさんも賛同してくださって。そのイメージ通り、というより私の想像を超えつつ、アニメのオープニングらしいキャッチーさもあるというすごい曲を作ってくださいました。「暗殺貴族」の制作サイドの方も従来のアニメソングとはひと味違うものを目指していたそうなので、その思惑にケンカイさんのサウンドがすごくマッチしたんじゃないかと思いますね。
──トラップのビートとブレイクビーツで組み立てられていますが、ロック的なスピード感もありますよね。
そうなんですよ。やっぱりケンカイさんは引き出しの多さが半端ないので、いろんな音楽を混ぜこぜにして作ってくださるんです。それは2曲目の「散文的LIFE」にしてもそうなんですけど、混ぜこぜにしてある中に自分に馴染みのある要素も入っていたりして、新しいのにとっつきやすいみたいな。歌うのは本当に難しいんですけど、すごく面白い曲ですね。
かなり皮肉を込めています
──「Dark seeks light」の歌詞に関しては、言葉選びが今までと比べると厨二病的といいますか。
そうですね(笑)。アニメの原作が転生モノで、ダークファンタジー的な世界観があって、曲のサウンドもかなり攻めているので、ちょっとカッコつけたような歌詞が合うんじゃないかなと。
──タイアップ曲の作詞は初めてですよね? 例えば原作=お題があったほうが歌詞を書きやすいとか、これまでの作詞と何か違いはありました?
ああ、私はタイアップがあったほうが書きやすかったですね。作品のテーマと自分の中のテーマとの間で共通項を探しながらストーリーを描いていく感じだったんですけど、そのストーリーをイメージしやすかったというのはあります。ただ、ストーリーの組み立てはしやすかったけれど、この曲はリズムというかグルーヴ感がすごいので、そこにしっかりハマる言葉を選ぶのはすごく大変で。
──先ほど、作詞する前にケンカイさんから仮の歌詞とその解釈をもらったというお話がありましたが、そちらに引っ張られたりは?
仮歌詞の時点ですでに完成されていたので、それを崩すのは抵抗がありましたね。だから最初は共作という形で、ケンカイさんの歌詞を踏襲しながらちょっとずついじっていたんですけど、途中で「一から書き直したほうがいい」という話になって。とはいえ、最初のケンカイさんの解釈に囚われてしまっていたので、それを振り落とすために、改めて原作を自分の中で咀嚼して歌詞のテーマを抽出し直すという作業をしましたね。そういう意味でも、イメージが喚起される原作があって助かったかもしれません。
──先に白状しておくと、僕は「暗殺貴族」の原作は未読で、アニメも放送前なので作品のことを何も知らないんです(取材は10月頭に実施)。その状態で歌詞を読むと、完全にニノミヤさんのことを歌っているなと。
本当ですか? それは、すごくうれしいです。
──例えばド頭の「Rightness corroded.」や2番サビの「『良い子』のままじゃダメでしょ!」が象徴的で。ニノミヤさんは“正しさ”というものに懐疑的であり、自分に向けられた“いい子”というイメージを壊したいというお話もされていました(参照:ニノミヤユイ「つらぬいて憂鬱」インタビュー)。
自分が今まで感じてきたことが、作品のテーマとリンクするところがけっこうあって。例えば主人公は前世では暗殺者で、引退間際に自分の所属する組織に裏切られ、暗殺されて異世界に転生するんですけど、そこで今度は自分自身のために生きようと、理不尽な運命に抗おうとするんですね。私も自分のネガティブな部分と戦いたいとか、逆境から逃げ出したいと考えることが多かったので、そういう思いと重ねつつ、作品に寄せて言葉を尖らせることができたんじゃないかと。
──皮肉っぽいというか、棘のある歌詞でもありますよね。
棘があるというのはわりと意識した部分で、特にこのコロナ禍というご時世的にいろいろと思うところがあったんです。あくまで私に見えている範囲内の話ですけど、なんとなく閉塞感が漂っている中で、人のえぐみみたいなものが他人に向きやすくなっているのを感じて、SNSを見るのがつらかったりした時期があって。そのときに書いた歌詞なので、2コーラス目の「Our stupid habits!」以降はかなり皮肉を込めていますね。
──「不要不急のLove? もう何もかもが要らないじゃん!」などはまさにそうですね。
もちろん守らなきゃいけないルールがあるのはわかっているんですけど、「不要不急」という言葉であまりにも簡単に、あるいは雑に片付けられてしまっていることがあるんじゃないか。それが悲しいというか、もはや怒りに近いような複雑な感情をぶつけた感じではあります。
──その感情はボーカルにもちゃんと乗っていますよね。いい感じにイラついています。
ボーカルでも新しい一面を見せたいと思っていたので、今までの歌い方や声の出し方と若干変えているところはあります。そのボーカルディレクションもケンカイさんがすごく細かくやってくださって。特にラップに関しては、私はヒップホップをちゃんと通ってきたわけではないのでケンカイさんのディレクションをそのまま受け止めつつ、ラップをするというよりは言葉遊びの延長のような感じで、言葉の響き方やリズムを意識した結果、納得のいく歌が録れました。
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夜になると病み始める