ニノミヤユイ|弱い自分を変えられない……“陰キャのカリスマ”が放つ自己嫌悪全開の1stシングル

ニノミヤユイが8月19日に1stシングル「つらぬいて憂鬱」をリリースする。

声優・二ノ宮ゆいとしても活躍する彼女は、今年の1月にアルバム「愛とか感情」でアーティストデビュー。“陰キャのカリスマ”を掲げて10代の悩みや葛藤を歌い、独自の世界観を築き上げている。そんな彼女の1stシングルの表題曲は、自身がルヴェリア・サンクトゥス役として声優出演するテレビアニメ「ピーター・グリルと賢者の時間」のオープニング主題歌。ニノミヤはこの曲で主人公のピーター・グリルの葛藤を表現しながら、自身が抱える「弱い自分を変えられない」という思いをさらけ出すように力強く歌い上げている。カップリングにはニノミヤ自身が作詞を手がけた「re:flection」を収録。こちらは叙情的な言葉で“君”への思いをつづった失恋ソングだ。

音楽ナタリーではニノミヤに2回目となるインタビューを行い、彼女が抱える闇や葛藤をさらに深掘りした。

取材・文 / 須藤輝

よく「生きづらそうだね」って言われます

──1stシングル表題曲の「つらぬいて憂鬱」ですが、だいぶ闇が深いですね。

そうですね(笑)。

──“陰キャのカリスマ”を標榜するニノミヤさんらしい曲と言えるかもしれませんが、作曲のTom-H@ckさん、作詞のhotaruさんとはどのようなやりとりを?

Tom-H@ckさんとは1stアルバム「愛とか感情」をリリースした直後ぐらいに打ち合わせをさせていただきました。前回のインタビューでお話ししたように、1stアルバムの制作はまず楽曲をお願いする作家さんに私のことを知っていただくところから始めていて(参照:ニノミヤユイ「愛とか感情」インタビュー)。同じように今回も、私からTom-H@ckさんに「普段こういうことを考えてます」みたいなことをお話ししつつ、そのうえでタイアップ先のアニメ「ピーター・グリルと賢者の時間」の要素をどのように入れるのかご相談させていただきました。

──hotaruさんとは?

Tom-H@ckさんがhotaruさんにつないでくださったんですけど、hotaruさんとはレコーディングまで直接はお会いできなくて。でも、hotaruさんも私のアルバムを全曲聴いて歌詞も読み込んでくださったらしくて、「つらぬいて憂鬱」の歌詞をいただいたとき「私のことが書いてある」と思ってびっくりしました。

──ニノミヤさんはアルバムの収録曲でも、内省的で、自分の恥ずかしい部分をさらけ出すような歌詞を書かれていました。普段からご自身の内面のことをよく考えているんですか?

はい。いつも「なんでこんなに自分に自信が持てないんだろう?」と思うし、周りの人と比べては自分が劣っていることに気付かされるみたいな。自分の長所を自分で言い表せないことが輪をかけて自分を苦しめていて……そういうのを友達に相談するとよく「生きづらそうだね」と言われます。

──どうしてそういう自分が形作られたんだと思います?

どうしてだろう……昔から負けず嫌いなところはあって、だからこそ人と比べてしまうんですよ。学生時代は模試の順位とかテストの点で「この子には勝った」「でもあの子には負けた」というのをいちいち気にしたり、そういう数字で見える優劣に敏感で。数字ではっきりと“負け”を突きつけられると、「自分はダメだ」とどんどん落ち込んでいく感じです。

──今でも人と比べちゃいます?

めちゃめちゃ比べちゃいます。数字で人の優劣が決まるわけじゃないというのは頭ではわかっているんですけど……やっぱり無意識に、例えば「あの子のほうがTwitterのフォロワー数が多いな」とか。そういう数字が見えちゃうのも怖いし、怖いなら見なきゃいいんですけど、結局見て比べて落ち込んでいくという。

タイアップが私のネガティブを加速させる

──デビューアルバムをリリースして以降、そういう自分に変化はありました?

もちろん、ファンの皆さんから「陰キャの気持ちを代弁してくれている」と言っていただいたり、私に期待してくださっているのがわかるので、その期待に応えたいという思いは強くなっています。ただ、びっくりするくらい早く1stシングルの制作が決まって、しかもタイアップも付いたりと、自分の理解が追いつかないスピードで物事が進んでいて、それが逆に私のネガティブを加速させるというか……。

──「こんな私で大丈夫なのだろうか?」と。

そうなんですよ。もちろんシングルのリリースもタイアップも本当にありがたいんですけど、ありがたすぎて申し訳なくなってきて「私なんかが……」という負の感情が増幅していっているので……いい歌詞が書けそうですね(笑)。

──沈めば沈むほど作詞が捗る(笑)。その申し訳なさがやる気に変換されたりはしないんですか?

ああ。確かに、そこまでお膳立てしてもらったからには実力が伴わないと絶対にダメだという気持ちにはなってきて。だからもっと上手に歌えるようにならなきゃいけないとか、そういう歌に対する向上心はすごく高まったと思います。あと、先日の配信ライブ(参照:ニノミヤユイ、配信で届けた1stライブ「1人じゃないよと声をかけていくような音楽を、これからも」)を観てくれた高校時代の友達から「前よりめっちゃ歌うまくなってた」と言ってもらえたりもして、多少なりとも伸びているという実感はあります。ただ、心に圧がかかる伸び方なので、鬱になるのは避けられないんですけど。

──ニノミヤさんは落ち込んだとき、世の中や他人のせいにせず、自己嫌悪に陥りがち?

そうですね。学生時代に、私が直接言われたわけじゃないんですけど、あるクラスメイトが「学校とか先生のせいにするのは甘えでしょ」と言っているのを聞いてしまって。たぶんそこで「そうか、人に責任をなすりつけるのは甘えなんだ」と刷り込まれたんでしょうね。人のせいにすることが私の中でタブーになっているから、自己嫌悪に全振りするみたいな。

「もってけ!セーラーふく」の闇堕ちバージョン

──少々話が逸れましたが、「つらぬいて憂鬱」の歌詞は“私のことが書いてある”と同時に、「ピーター・グリルと賢者の時間」ともリンクしているわけですよね。

はい。アニメでは主人公のピーター・グリルが「結局、弱い自分を変えられなかった」というような後悔を繰り返すんですよ。だからこの歌詞はピーターにも、常に「私なんか……」と言っている弱い自分を変えられない私にも、通じているんです。

──「また死にたくなる こんな自分、嫌」「最低な自分しか見つからない」。

そうなんですよ。hotaruさんは私の気持ちを本当に綺麗に書いてくださったので、歌詞を読んでいて胸が苦しくなりましたね。「私はきっと変われないんだ」と思って、まさに「つらぬいて憂鬱」だなと思いました。

──特に胸が苦しかったのはどのフレーズですか?

1つはサビの「完全聖人になんてなれやしない いつも理想に挫折して」ですね。私はもともとアニメが好きで、清廉潔白な主人公に憧れていたんですよ。でも、現実にはそういうわけにはいかないじゃないですか。どうしても邪な感情を抱いてしまったり、やるべきことから逃げてしまったり。そういう理想と現実のギャップみたいなものはずっと感じていて。

──はい。

それに続く「自分責めるポーズだけとって お安い免罪握りしめて甘えてる」というフレーズも思い当たる節がいくらでもあるというか、反省する振りをして自分を正当化してやり過ごすということを繰り返してきたので……ああ、苦しい。hotaruさんに見透かされているようで怖いですね。

──歌詞は闇しかありませんが、楽曲はアッパーかつファンキーで、アニソン然としたキャッチーさもあります。

やっぱりTom-H@ckさんが天才すぎて、最初の打ち合わせで「『もってけ!セーラーふく』(テレビアニメ「らき☆すた」オープニングテーマ)の闇堕ちバージョンかな」とおっしゃっていて。私は「闇堕ちってどういうことだろう?」と思っていたんですけど、最初のデモを聴かせてもらって「そういうことか!」と。

──ボーカルのレコーディングにはTomさんも立ち会われたんですか?

はい。hotaruさんもいらしてくださって、一緒にディレクションしていただきました。面白かったのは、Bメロのラップパートはデモでは普通にメロディが付いていたんですけど、当日Tom-H@ckさんから「ここ、ラップしてみよっか」と。

──へええ。まさにそこはこの曲のフックの1つだと思いまして。その気だるげなラップから、続く「後悔全然全然全然消えない」でいきなりキレだすみたいな。

そうなんですよ。その「後悔全然全然全然消えない」のところは「思いの丈をぶつけるように、叫ぶつもりで」と言われたので。おっしゃる通り鬱々としながらラップしたぶん、この曲の力強さが増したと思いますし、やっぱりTom-H@ckさんはすごいなって。

──このBメロが象徴的なのですが、全体としていい意味でメンタルが安定していないというか、感情の振れ幅が極端ですよね。どうやってコントロールするんですか?

もう歌詞が自分に当てはまりすぎているので、その言葉通りの感情を乗せていけるんです。ただ、疾走感のある曲なので、歌の勢いを失わせずに感情を乗せていくという点に関しては難しさもあったんですけど、全体として自分の中にある感情をそのまま吐き出せるので、歌いやすくはありました。