ニノミヤユイ|闇を抱えた少女がデビュー作で起こす革命

聴いてくれる人に「刺され!」

──6曲目は「呪いを背負って生きたいよ。」という、なかなか物騒な曲名で。

すごく強いタイトルですよね。でもこの“呪い”とは、生きていくうえで絶対に抱えなきゃいけない不安とか、そういう負の感情の象徴みたいなものだと私は解釈しまして。それをちゃんと背負って葛藤しつつ生きるような姿を、また違う角度から歌えたんじゃないかなと思いますね。

──ヒップホップ、R&Bテイストのあるトラックで、ニノミヤさんのボーカルもラップありウイスパーボイスありと多彩ですね。

曲を書いてくださったケンカイヨシさんにディレクションしていただいたんですけど、かわいらしさとちょっとトゲのある感じの共存を目指しました。ウイスパーや裏声と地声の使い分けだったり、前半はふわっと歌っていたのが後半に向けてどんどん熱を帯びていくような感じとか、そういうものを1曲の中に落とし込めたんじゃないかと思いますし、自分でもお気に入りの曲ですね。

──相当テクニカルなボーカルだと思ったのですが、ケンカイさんのディレクション通りにさらっと録れたんですか?

いや、何回も何回も録り直しました。でも、実はこの曲は最後にレコーディングした曲で、自分の理想とする歌い方や声の使い方がなんとなく固まっていたんです。だから、この曲の中で自分がやりたいこととケンカイさんのディレクションを重ねるようにして、わりと頭で考えながらレコーディングできたというのはありますね。

──そこから一転して、7曲目の氏原ワタル(DOES)さん作詞・作曲の「わたしを離さないで」はストレートなロックナンバーですね。

ニノミヤユイ「愛とか感情」ジャケット

この曲は、サビ終わりに「イタイイタイイタイイタイ大キライ」とまくし立てるところがあるんですけど、そこがもう、めちゃめちゃスカッとするんですよ。なので、ここにピークを持ってくるようなイメージで歌いました。「イタイ」も「大キライ」も言葉として強いし、キーも高いので、聴いてくださる方に対して「刺され!」と思いながら。あと、ここ以外にも全体的にキメが多いので、メリハリも意識しつつ。

──ある意味でもっともキャッチーな曲かもしれませんね。

おっしゃる通りストレートで勢いのある曲なので、私も一番素直に歌ったというか、シンプルにカッコよさを追求した曲だと思いますね。

表には出さない陰キャの開き直り

──次の8曲目、佐伯youthKさん作詞・作曲・編曲の「安心 to the 安全」も強烈ですね。

ぶっ飛んでますよね(笑)。最初にデモをいただいたとき「なんだこれは!?」と思いました。尺的には短い、3分もない曲なのに、聴き終わったときの満足度がすごいというか、歌詞もぎゅうぎゅうに詰まっていますし、コール&レスポンス的なパートもありますし。第一印象で「ライブで歌ったら絶対に楽しいだろう」と思ったので、レコーディングでもライブで歌っているところを想像して歌いました。あと、言葉がずらずらっと並んでいるのがちょっとVocaloidっぽくて、それも私の好みだったので、たぶん一番ノリノリでレコーディングできたんじゃないかと思います。

──「安心 to the 安全」はパーティーチューン的なダンスナンバーとも言えますが、これは陰キャとしてアリなんですか?

確かに(笑)。でも私の中では、表には出さない陰キャの開き直った部分を音楽として抽出したらこうなった、みたいな曲なんです。だから、陰キャとしての考えをそのまま全力で叫ぶ、ある意味でストレス発散用の曲にもなっていると思います。

──そしてアルバムのラストを飾る、湘南乃風の若旦那こと新羅慎二さん作詞・作曲の「あどけなさも私の武器にする」は、昭和歌謡的なナンバーですね。

若旦那さんとの打ち合わせは一緒にごはんを食べながらだったんですけど、その時点でできあがっていた曲が、自分の内面を吐露するようなパーソナルな曲が多かったんですね。なので逆に、ちょっと背伸びした、大人っぽいニノミヤユイを見せられたらいいねという話になり、そこから若旦那さんが「中森明菜さんみたいなイメージが合いますね」とおっしゃってくださって、じゃあ昭和歌謡がいいんじゃないかと。

──ニノミヤさんは昭和歌謡になじみがあったんですか?

はい、好きです。もちろんリアルタイムで聴いているわけがないんですけど、すごくおしゃれに聞こえますね。

──「あどけなさも私の武器にする」は歌詞もかなり艶っぽいですね。

ほかの曲にはない色気がありますね。若旦那さんからも、別れた人のことが忘れられなくて夢にまで出てくるんだけど、でもそれは夢でしかなくて現実では自分1人……みたいな状況を自分で払拭しようとする、そういう女性の葛藤が滲み出ている曲だと。なので「そうか……」と、私も失恋した気分になりながら歌いましたね(笑)。

──ニノミヤさんの気だるげなボーカルも曲によくマッチしています。

ありがとうございます。「あどけなさも私の武器にする」は私の声の低音域を生かした曲にしたいというのもあって、ほかの曲よりもキーが低いので喉的には負担が少ないんです。なおかつ、この曲だけハンドマイクでレコーディングしたので、身振り手振りを交えながら自分の気持ちを込められたというか、曲の世界観に没入しやすかったんですよね。だからそういう表現ができたんだと思います。

──全10曲、バラエティに富んだ楽曲群でありながら不思議とトーンは統一されていて、なおかつ全体としてギラついているのがいいですね。

うれしいです。と同時に、繰り返しになりますけど、そんな作品を一緒に作ってくださったスタッフさんと作家の皆さんに本当に感謝しています。

──そのアルバムを携えて、3月に東京で、4月に大阪でそれぞれワンマンライブが予定されています。

最初のほうでお話しした通り、このアルバムで本当に私のやりたいことができたので、ライブでも自分の世界観を爆発させるしかないと思っています。もう、お客さんの心を力づくでかき乱すようなエモーショナルなライブにしたいし、やっぱり「生で聴きたい」と思われるようなアーティストになりたいので、CD音源とはまた違う生のよさを研究してライブに臨みたいですね。

ライブ情報

ニノミヤユイ 1st LIVE「愛とか死、或いは名もない感情からの逃避」
  • 2020年3月28日(土)東京都 下北沢GARDEN
  • 2020年4月11日(土)大阪府 梅田Zeela