NIKO NIKO TAN TAN「新喜劇」インタビュー|中毒性の高い“音楽×アート”を生み出す3人の思考回路

NIKO NIKO TAN TANのメジャー1stアルバム「新喜劇」がリリースされた。

アルバムにはライブアンセム「Jurassic」やエキゾチックなファンクチューン「IAI」、ぷにぷに電機をゲストに迎えたメロウでサイケデリックな「可可 feat. ぷにぷに電機」など全14曲を収録。どの曲もカテゴライズ不能なサウンドで、情熱と虚無、主観と客観を行き来する歌詞世界は、視点を変えれば「喜劇」にも「悲劇」にも捉えられる不思議な魅力を放っている。

音楽ナタリーではライブなどで表舞台に立つOCHAN(Vo, Synth, etc)とAnabebe(Dr)、ミュージックビデオやライブのビジュアライザーなどを手がけるDrug Store Cowboyの3人にインタビュー。アルバムについてはもちろん、このユニークな編成ならではのクリエイティブに迫った。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / YURIE PEPE

最小限の編成で周りと違うことを

──Drug Store Cowboyさんもインタビューを受けていただく貴重な機会なので、まずはこの編成になった経緯を聞かせてください。

OCHAN(Vo, Synth, etc) 僕はNIKO NIKO TAN TANをやる前の前身バンドで音源を作ってツアーをしていた時期があったんです。その後、絵を描いたりする方向に行って。そのうちまた「もうちょっと気楽に音楽も作ってみよう」と思い立ち、前身バンドで一緒に活動していたドラムのAnabebeと、友達だったDrug Store Cowboyを誘って始めたのがNIKO NIKO TAN TANです。

──ベースレスで、かつ映像も含めたバンドという形態にしたのはあえてですか?

OCHAN そうですね。最初は1人でやろうと思っていたんですけど、やっぱり生ドラムも欲しいなと。僕がAnabebeのドラムを好きなのと、肉体的なものが入っていたほうがやっぱり音楽がよくなるし、必要最小限の編成かつ、周りと違うことをやりたかったというか。それもあって、映像やアートワークも混ぜた表現にしようと思いました。

──そういう発想は、OCHANさんが絵を描いていた時期があったのも大きい?

OCHAN そうですね、それもあると思います。

OCHAN(Vo, Synth, etc)

OCHAN(Vo, Synth, etc)

──誰かお手本にしたり影響を受けたりしているアーティストはいますか?

OCHAN 特にいないですね。何事もひと通り出し尽くされているとはいえ、「今までなかったものを作りたい」という気持ちが昔からあって。もちろん、やっているうちにほかの人から「◯◯みたいだね」と言われることはあります。VANS主催の「VANS MUSICIANS WANTED」(2020年)に出たときは、審査員のアンダーソン・パークに「The Chemical Brothersを見てるみたいだった」と言われ、ちょっと鵜呑みにしました(笑)。あと「映像が入った2人組のエレクトロユニット」という文脈で、電気グルーヴの名前を挙げてもらうことも多いですね。僕らは電気グルーヴが好きなので、それもちょっとうれしかったです。

──Drug Store Cowboyさんは、どんなきっかけで映像に興味を持ったのですか?

Drug Store Cowboy もともと映像はまったくやるつもりはなかったんですけど、気付いたらとある企業で映像の仕事を始めていました。ルーツみたいなことで言うと、幼少期からずっと観ている「スター・ウォーズ」(1977年~)の影響は大きいと思います。

──先日のライブ「NIKO NIKO TAN TAN 2MAN TOUR 2024 “喜劇”」は、オープニング映像が「2001年宇宙の旅」(1968年)のオマージュになっていました。「2001年宇宙の旅」は冒頭で原始人が骨を空高く投げ、それが宇宙船にパッと変わる。骨が武器に変わって最終的に人類はロケットまで作ってしまったという歴史を一瞬で表現しています。それを先日のライブでは、骨が「武器」ではなく「楽器」へと進化していくパロディにしているところがNIKO NIKO TAN TANらしいなと。

Drug Store Cowboy そこまでわかってもらえてうれしいです。映画は幼少期からたくさん観てきたし、特に80年代、90年代ぐらいの映画が好きで、その色味、映像の感じとかは影響を受けているなと自分でも思います。

──色味やストーリーの世界観は、個人的にはジム・ジャームッシュやクエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイあたりからの影響を感じました。

Drug Store Cowboy ありがとうございます。実際、今回のアルバム「新喜劇」のジャケットはウォン・カーウァイの映画を観ながら制作しました(笑)。ダイナーでダラダラしている様子を描いているのは、それこそタランティーノの「パルプ・フィクション」(1994年)や「レザボア・ドッグス」(1992年)を意識していますね。

──AnabebeさんはOCHANさんが作る曲や、Drug Store Cowboyさんが作る映像など、NIKO NIKO TAN TANというユニットにどんな思いを抱きながら活動していますか?

Anabebe(Dr) OCHANの作る曲は何を聴いても心地いいですね。Drug Store Cowboyの作る映像も信頼しています。

Anabebe(Dr)

Anabebe(Dr)

「琥珀」「Jurassic」の音楽×映像が生まれるまで

──では、これまで制作されてきたミュージックビデオに関して、楽曲制作のエピソードと合わせてお聞かせください。まず「琥珀」ですが、この曲はどうやって生まれたのですか?

OCHAN この曲を作ったのはけっこう前で、確か「Jurassic」と同時期ぐらいだったと思います。僕ら、断片的なアイデアをたくさんストックしてあるのですが、それを組み合わせて作ったデモを、スタジオでAnabebeと仕上げていきました。MVに関しては、「曲がけっこうメロウなのであんまり甘くなりすぎない映像にしたい」という話をDrug Store Cowboyにしたら、いくつかアイデアを出してくれて。

Drug Store Cowboy Tetteyという僕らの友人が出ているんですけど、OCHANが歌っている後ろで彼とAnabebeがわちゃわちゃしている映像にしたら面白いんじゃないかと。舞台をダイナーにしたのは、これも「パルプ・フィクション」からの影響ですね。あと「スローモーションにしたい」というOCHANからのリクエストがあって、撮影のときに2倍の速さで歌ってもらい、後ろの2人には普通に動いてもらったのを編集の段階でスピードを落としています。そうすることで、スローなのに歌は普通に歌っているという不思議な映像になっていますね。

──このビデオに限らず、お二人とも本当に役者としていい味を出していますよね。

OCHAN あはは。特にAnabebeの功績が大きいですよね。

Anabebe 俺はめちゃくちゃ楽しんでやってますね。やりたいですよ、俳優のお仕事(笑)。

──「Jurassic」は一度聴いたら病みつきになる中毒性があります。

OCHAN あの曲は完全に、2023年に出演した「フジロック」のメインステージRED MARQUEEに向けて作りました。「フジロック」に出演するのが決まって、あのステージで演奏している自分たちをイメージしました。イントロは、Queenの「We Will Rock You」的なアンセムっぽい感じにしたくて。デモの段階ではなかったリズムパターンをスタジオで試し、「これええんちゃう?」みたいに盛り上がったのを覚えています。

Drug Store Cowboy この曲を最初に聴いたときは、なんて言ったらいいだろう……なんとなく、偶像みたいなものに人々が群がっているようなイメージが思い浮かんだんですよね。それでエキストラを30人くらい集めて撮影をしました。Tetteyにもエキストラで参加してもらってます(笑)。めっちゃ暑い、大勢ひしめいている中で演奏するのは大変だったと思います。

OCHAN 確か撮影時間が5時間ぐらいしかなくて、一気に撮るみたいな感じだったんですけど。エキストラさんを入れて撮影するのも初めてだったし、緊張しつつも汗だくでわーって演奏してたらいつの間にか終わってた、みたいな現場でした(笑)。

NIKO NIKO TAN TAN

「X-ファイル」にたどり着いて「これだ!」

──ぷにぷに電機をフィーチャーした「可可」のMVも、ちょっと映画仕立てのシュールな映像ですよね。

OCHAN あの曲はまず、ぷにちゃんとやることが決まり、メロディを送ったら先に歌詞を書いてくれて。それをもとに、自分が歌うパートの歌詞を考えました。世界観についてぷにちゃんが「切り裂きジャックをテーマに作ってみた」と言っていたのが印象に残ってます。そこから「光と闇」「追う側と追われる側」「かくれんぼ」みたいなことをテーマに作った曲なので、MVもそこからインスパイアされているんじゃないかなと。

Drug Store Cowboy その頃ちょうど「NOPE/ノープ」(2022年)という、ジョーダン・ピール監督が撮ったホラー映画を観て。そこから彼がプロデュースした「トワイライト・ゾーン」とかいろいろ掘り起こしていくうちに、「X-ファイル」にたどり着いて「これだ!」と(笑)。

──MVでも、「N-ファイル」というタイトルがバーンと出ますしね(笑)。3人が乗っている車もいい味出してます。

Drug Store Cowboy 当日までどんな車が来るか知らなくて、「走り屋の車来た!」「豆腐屋ハチロクだ!」ってみんなで興奮しました。

OCHAN 当時、「頭文字D」のアニメを観まくってたんですよ。めっちゃタイムリーだなって。

NIKO NIKO TAN TAN
NIKO NIKO TAN TAN

仕留めにかかってくる「IAI」

──「IAI」は三味線をフィーチャーしたユニークな楽曲です。

OCHAN これも、デモのストックから「速いテンポの曲を作ろう」と思って引っ張り出してきた曲です。ギターで弾いてるんだけど、三味線の音に聞こえるようなフレーズが残ってて、そこから着想を得て仕上げていきました。1曲の中で何度も転調する、めちゃくちゃ目まぐるしい展開の楽曲なので、それをまとめていくのに苦労したのを覚えていますね。

──先日のライブでは、カギやナイフを幾何学的に配置した万華鏡のようなビジュアライザーもとても印象的でした。

Drug Store Cowboy 僕は映像を作るとき、いつもファーストインプレッションを大切にしていて。歌詞の意味とかあまり考えずに映像を作っていくんですけど、「IAI」は聴いた瞬間「これは仕留めにかかってくるような曲だな」と思ったんです(笑)。なのでナイフだったりカギだったり、「刺す(挿す)アイテム」をちりばめようと。そこにちょっとグロテスクで狂気的なモチーフとして心臓や歯を登場させました。幾何学的に並べたのは、やっぱりライブで見せることを意識したのが大きいですね。OCHANとAnabebeがステージに並んで立つとシンメトリーに見えるので、そこを意識しつつも勢いでバーッと作っていった感じです。