ナタリー PowerPush - NIKIIE
自分の闇を肯定する「CHROMATOGRAPHY」
NIKIIEから新たに届いたミニアルバム「CHROMATOGRAPHY」。前作「hachimitsu e.p.」と対をなすように制作されたという本作には、自らとまっすぐに向き合い、心の奥底に渦巻くさまざまな思いをすくいあげた、彼女の深淵に迫る全5曲が収録されている。
今回のインタビューでは、それぞれの楽曲解説を軸にしつつ、自身の中に芽生えた新たな変化と大きな決意について語ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき
「hachimitsu e.p.」を振り返る
──前作「hachimitsu e.p.」に続き、2作連続でミニアルバムになりましたね。
はい。昨年、「*(NOTES)」というアルバムを出したあと、「ミニアルバムをリリースしてみたらどうだろう」っていう提案をスタッフからもらったんです。自分の中にはそういう発想はなかったんですけど、そもそも自分自身もミニアルバムを聴くのがすごく好きだし、シングルよりもふくよかな世界観を表現できるかもなって思えたんですよね。なので、チャレンジとしてやってみようっていうことになったんです。
──「hachimitsu e.p.」はすごく明るい印象を放つ内容でしたが、今振り返るとどんな作品だったと思いますか?
自分としても振り切ったポップさとキャッチーさを出した作品だったと思います。NIKIIEのサニーサイドを表現したミニアルバムというか。それがそのとき一番表現したかったものだったので。
──どうしてそういうモードになったんでしょう?
去年は日本自体が激動の1年だったので、自分の中にものすごく葛藤があったし、わからないことだらけだったんですよ。でも、1stアルバムをリリースしてツアーを回ったあと、次のリリースに向けて作業をしていく中で、今だからこそ表現できる明るさっていうものが自分の中にはあるなってすごくわかったんですよね。だからこそ「hachimitsu e.p.」はすごく意味のある、大切なものを改めて再確認するための作品になったような気もしていて。
NIKIIEのダークサイド
──では、それに続く今回の作品「CHROMATOGRAPHY」はどのような気持ちで制作に臨んだんですか?
今回は「hachimitsu e.p.」とは対照的に、NIKIIEのダークサイドというか、影の部分にスポットを当てたミニアルバムにしたいなっていう構想がありましたね。
──なるほど。2つの作品を対になるものにしようと。
やっぱりどっちか片方だけでは私じゃないなってすごく感じていたので、今回はもうちょっと自分の奥の方に入っていく作品にしようと思って。
──その狙いはすごく納得できます。ただ、本作は単純にダークなものばかりかと言えばそうでもなく、さまざまなタイプの曲が収録されていますよね。
そうなんです。構想を練ってるときはダークな方向に思い切って振ろうと思ってたんですけど、いざアレンジを固めていく段階になったときに、ダークなところとの向き合い方が変わっていたことに気付いて。
──それはどういうことですか?
例えば「幻想フォルム」のような初期のダークな曲っていうのは、ほんとに抜け道のない真っ暗な部屋にいるような感じだったと思うんです。どうしようもない絶望感に包まれて、そこにそのまま存在することが答えになっていたというか。描き方自体がすごく重たかったんですよね。でも今回自分が選んだ曲たちっていうのは、ネガティブだったり暗い部分だったりから曲が始まっていたとしても、最終的には前に向かってる楽曲がとっても多かったんです。だからアレンジ面に関しても、もっとカオスな感じにすることは可能だったんですけど、そうではなくて割とオルタナというか、そんな雰囲気になっていったんですよね。ジャジーでファンクなサウンドだったり、そういうチャレンジをすることでダークなところがちょっとかすんだ感じはしますね。
──そういった変化を迎えた理由も気になりますね。
やっぱり「hachimitsu e.p.」を作ったことがとにかく大きかった気がします。ああいう振り切った明るい作品を作っていく過程では、どうしても自分の影の部分、闇の部分と向き合わざるをえなくなるというか。その中で、そういった自分にとってマイナスとなる部分をどうプラスに転換していけばいいのかがわかってきたし、そこを恐れないでいられるようになってきたんだと思うんです。
──よく考えてみると、サウンドがものすごく明るい印象だった前作も歌詞の面では単純にハッピーなだけではなかったと思うんですよ。だからNIKIIEさんが伝えたいこと、伝えようとしていることの根本は全ての楽曲で同じ方向を向いているのかなって。その表現の仕方がさまざまなだけであるというか。
うん、そうなんですよね。根底は同じだと思います。ただ「hachimitsu e.p.」ではポップなメロディだからこそ託せたメッセージがあったと思うし、今回はマイナーなメロディだから表現できるメッセージがあると思ったので、そういう基準で曲を集めて作っていった感じがします。
見にアルバム「CHROMATOGRAPHY」 / 2012年9月19日発売 / 日本コロムビア
CD収録曲
- Duty Friend
- Runnning Bird
- 光の月
- Everytime
- harmonic harmonist
初回限定盤DVD収録内容
- ito.
- 3sec.
- Duty Friend
- Everytime
- good night my sweet home
NIKIIE(にきー)
1987年茨城県生まれの女性シンガーソングライター。4歳からピアノを弾き、16歳の夏から作詞作曲を始める。高校時代のバンド活動を経て、17歳よりピアノ弾き語りでソロ活動を開始。高校卒業後に上京し、本格的にライブ活動を始める。精力的なライブ活動が現在のレーベルの目に留まり、2010年12月にシングル「春夏秋冬」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。3rdシングル「紫陽花」は、東日本大震災の発生を受けフリーダウンロードと無料CD配布の形でリリースされた。2011年7月、1stフルアルバム「*(NOTES)」を発表し、これに伴う初の全国ツアーを大成功に収める。2012年には新曲「Duty Friend」がアニメ「LUPIN the Third -峰不二子という女-」のエンディングテーマに起用され話題に。同年9月には同曲を含むミニアルバム「CHROMATOGRAPHY」を発表。