最初に作ったへなちょこなデモを改めて聴き直した

──アコギがメインとなるサウンドの中、ピアノに関してはどんなイメージがありました？

ギターがメインで鳴っている景色ではあるんですけど、ピアノもそんなに変わらないというか。ピアノもピアノでちゃんとした景色として、同じ分量で、同じぐらいそこにあるものっていうイメージでしたね。ピアノが消えてるわけでもなく、どっちもあってこの「紫陽花」になっているというか。

──なるほど。でも全編ピアノを弾きっぱなしというアレンジではないですよね。

あ、でもこの曲も意外と全部弾いてるんですよ。ベースが鳴ってたり、ギターがメインで鳴ってるときなんかは、単体では何を弾いてるかわかんなようなフレーズをピアノで弾いてたりとか。全編入ってますね。

──手紙のような曲にしたかったという思いからなのか、言葉がいつも以上にはっきりと響いてきますね。歌で意識したことってありますか？

やっぱり書いたときの気持ちを忘れないように歌いました。最初に自分でへなちょこなギターを弾きながら録ったデモを改めて聴き直して、「ああ、こういう気持ちだったな」っていうのを思い出しつつ。で、そこに今まで自分が感じてきたものや、今まで吸収してきたものを合体させて歌ったというか。

──そこで新たに加わった思いっていうのは、どんなものなんでしょうね。

当時の歌い方はすごく純粋だったんですよ。今の自分が純粋じゃないのかどうかはわかんないんですけど（笑）、とにかく歌詞の内容だけをまっすぐに歌ってる感じ。でも、そこに伝えたい思いをちゃんと伝えていくんだっていう思いがより加わったんですよね。この思いが届くといいな、もっと深みが出るといいなっていうふうに声を使った感じはありますね。とはいえ、曲が持っている衝動というか、そういう部分の根っこは当時も今もあんまり変わってなかったりもして。なので、歌うときにはあんまり迷いがなかったですね。

「無料」じゃなくて「0円」って言いたい

──この曲は当初の発売予定を変更して、無料で配信されることになりました。先日のライブでNIKIIEさんが「0円で」という表現をされていたのがすごく印象的だったんですが、あえてそういう言い方をしたんですよね、きっと。

そうなんです。はい。なんか「無料」って言うと、ちょっと違うかなって感じがするんですよね。だから「0円」かなって。うまく説明ができないんですけど、ただ無料で配ってるっていう気持ちじゃなくて……。

──「0円で買ってもらっている」っていうニュアンスなんでしょうね。リスナーからの0円をNIKIIEさんがしっかりと受け取ってる。一方通行じゃない感じというか。

ああ、そうです、そうです！ ほんとにそういう感じなんですよね、うん。

──でも、すごい決断ですよね。

3月11日以降、自分にできることはなんなんだろうってすごく考えたんです。比べる必要もないのに、何か行動している人を見てすごくうらやましく思ったり、自己嫌悪に陥ったりもしてて。で、そういう中で、やっぱり前に進まなきゃっていう決意を固めたときに、スタッフの人にいろいろ相談をしたんです。ワンマンライブのときに募金箱を置くとか、一部を義援金にできないかとか。そうしたら「じゃあ5月25日にリリースすることが決まっている3rdシングルを、ちょっと早めて無料で配信するのはどう？」って言ってくれて。なんかほんとにずっとあたためてきた曲だったので、まさかそこまでの決断をしてくれるとは私も思ってなくって。その話を聞いたときには正直すごくビックリしたんですよ。

──そうでしょうね。

私の実家も茨城の北部にあって震災の被害に遭ったんですけど、CDを買う場所がないんですね。お店はどこもやってないし。その他の被災地の方もきっと同じ状況だと思うんです。でも考えてみると、そういう中でもケータイの電波が通じて、少量の電力があれば音楽を届けることができるんじゃないかなって。だったら、今回は0円でリリースしようって。みんなでいっぱい話し合った上で決断して、こういう形になったんです。

──NIKIIEさんやスタッフの方々の思いは、きっと伝わりますよね。この曲を通じて。

すごく穏やかな日常を歌っていて、本当に見落としてしまいがちなさりげないことを歌詞にしているので、そういう日常を思い返して少しでもほっとしてもらえるような場所になってくれたらいいなって思いますね、この曲が。今回はこういう形でのリリースになりましたけど、ジャケットも作ったし、ビデオクリップも撮影したんですよ、普通のシングルと同じ感覚で。なので、そちらもぜひ観ていただけるとうれしいです。

──アルバムに向けて楽曲制作は継続していると伺いましたが。

はい。今はいい具合に進んでます。震災があってからはまったく曲を作ろうという気持ちになれなくて、ピアノにもずっと触れなかったんです。でも、香川と広島であったイベントに出ることになっていたので練習を兼ねてピアノを弾き始めたときに、悲しいっていう気持ちも含めて自分の思いをピアノにぶつけてみたんですよ。そうしたら少し楽になれたというか。そのときにできた曲の断片もいくつかありますし、この後もどんどん曲をいっぱい書いていきたいなって思いますね。