Night Tempo|中山美穂の名曲がよみがえる オフィシャルリエディットで見せる自身の原点と80'sサウンドへの憧れ

「昭和の音楽に手を出さないでくれ」

──Night Tempoさんが「昭和グルーヴ」と銘打ったリエディットのシリーズを始めてから2年ほど経ちましたが、周囲の反響や評価について変化は感じていますか?

シティポップがトレンドになっているからという理由で聴き始めた人は、すぐ離れていくのかなと思ったりしていたんですけど、思ったよりずっと追いかけてくれる方が多いですね。最初は否定的な目線で見ていたけれど今は応援してくれているという人もいますし。ずっと聴いてくれる方のおかげで、次のステップに行けたと思っています。

──これは僕の意見ですが、Night Tempoさんが最初に出てきたときは、いわゆる企画性だけで仕掛けられたリバイバルブームというふうに見ていた人もいたと思うんです。でも、続けていくうちに、Night Tempoさん自身が上っ面じゃなく昭和のポップスや歌謡曲のカルチャーに本気で入れ込んでいるということが広く伝わっていったんじゃないかと思います。

コンセプトを立てて何かをやってる人には、ちょっとだけやってみて売れなかったり反響がなかったら辞める人も多いので、自分もそういう人の1人として見られていたのかもしれないですね。だから、「昭和の音楽に手を出さないでくれ。しかも韓国人が」と感じる人もたぶんいたんだろうなと思います。でも何年も続けてきたことで「全然変わらずに一筋だね」という考えに変わった人も多いんじゃないかな。

サウンドを定義するのはまだ早い

──ここからは、昭和のポップスや歌謡曲にとどまらず、Night Tempoさん自身のルーツや音楽性についてもお聞きします。Night Tempoさんは影響を受けたアーティストにDaft Punkを挙げていらっしゃいますが、Daft Punkのどんなところに影響を受け、どんなところに憧れを持っているんでしょうか。

サンプリングベースの音楽というところですね。古いネタを使って新しい音楽を作るということ自体はそれ以前からいろんな方がやっていたと思うんですけど、それをメインストリームに押し上げたのがDaft Punkだと思っています。サンプリングベースの音楽だけでセンセーショナルなものを生み出した。そういうところに影響を受けていますし、こういう音楽を作るきっかけになったので、自分にとってとても重要な存在です。

──Night Tempoさんは「昭和グルーヴ」のリエディットだけでなく、オリジナル作品もこれまで多数リリースされてきました。自身のアーティスト活動としてのファーストステップになったのはどの作品と位置付けていますか?

これまで2018年に「Moonrise」というアルバム、2019年に「夜韻」、2020年に「Funk To The Future」というアルバムを出したんですけれど、自分自身のキャリアは、まだポートフォリオの前半にもなっていないと思います。これらのアルバムはあくまで自分のコンセプトの土台であって、まだNight Tempoのサウンドの全容は見せていない。今年の1月に出した「集中 Concentration」はどちらかというと実験をしてみたかったという感じで、これも新しい自分のサウンド作りに向けた研究のための作品です。以前の作品と「集中 Concentration」でやったことを混ぜて、そこにさらに新しいサウンドを取り入れて、これから作る“本当のデビュー作”に生かしていこうと思っています。

──Night Tempoさんの中ではまだ“本当のデビュー作”は出していないと。

はい。今はその“本当のデビュー作”を制作している途中です。いろんな方にお手伝いをいただいて、自分がこれまで蓄積してきた考えや新しい実験を混ぜ合わせて作っているので、今までのNight Tempoのサウンドとは違うものができあがる可能性もあると思います。そういう作品をこれから作るつもりなので「これがNight Tempoのサウンド」だという定義をするのはまだ早いんじゃないかな。

──Night Tempoさんの中で、オリジナル作品と「昭和グルーヴ」シリーズは、これからどういう関係になっていくようなイメージがあるんでしょうか。まったく別物なのか、重なり合っているのか、そのあたりはどうでしょうか。

まず「昭和グルーヴ」については、自分のオタク活動の極みみたいなもので、本当に好きなものを好きなように表現しているんです。一方でオリジナル作品は、自分ならではのサウンドを模索している途中なので、これから「昭和グルーヴ」と一緒にどんどんアップデートしていくと思います。「自分が好きなこと」と「自分がやりたいこと」という感じです。

──自分の音楽活動の両輪になっていくだろう、と。

そうですね。「昭和グルーヴ」を作っている途中にいろんな音楽を詳しく知って、そこから勉強することで、オリジナル作品のレトロフューチャーサウンドをアップデートすることができるし、オリジナル作品の制作がなかったら同じようなものを作るだけになってしまう。オリジナル作品と「昭和グルーヴ」、どちらもやっていかないと進歩がなくなると思っています。

ビジュアルと音楽が一体になった体験を

──音楽周辺やそれ以外のカルチャーも含めて、やってみたいことや考えているアイデアはありますか?

前からずっと思っているのは、展示会をやりたいですね。自分の好きなものや集めたもの、写真や映像などを並べた博物館のようなものを作りたい。あと、コロナで2年くらい行けてないですけど、日本には時間が止まったまま現代に残されているような場所も地域によってはあるので、そういうところにも行って、なくなる前に記録に残したいと思っています。

──音楽だけでなく、過去の日本の街並みなどにも興味があるんですね。

そうですね。今は、韓国に残っている日本の昭和初期の家屋の写真を撮りに行ったりもしています。100年前の韓国には日本人がたくさん住んでいたので、その当時東京にあったような家がまだ韓国に残っているんです。韓国の家庭の家とは形も違うし、特徴があるので、ひと目見たら「あ、これは日本の家だな」ってわかる。そういう形や雰囲気も好きですね。

──展示会でそういう写真や映像などと一緒に音楽を体験できるというのも面白そうですね。

「Concentration」というアルバムも、もともとそういうコンセプトで作った作品なんです。昔の日本の街並みの映像などを観ながら曲を聴くような、ビジュアルと音楽が一体になった体験を提供したいというのをきっかけに作った作品だったので。これから、そういう展示のようなものをぜひやってみたいです。