Night Tempo|中山美穂の名曲がよみがえる オフィシャルリエディットで見せる自身の原点と80'sサウンドへの憧れ

Night Tempoがシングル「中山美穂 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ」を6月18日に配信リリースした。

日本とアメリカを中心に活動する韓国人プロデューサー兼DJのNight Tempo。1980年代の日本のシティポップや昭和歌謡などを再構築したフューチャーファンクシーンを牽引する存在であり、昨今のシティポップブームの火付け役としても知られている。

今回リリースされた「中山美穂 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ」は、そんなNight Tempoが2019年に始動させた、昭和時代の名曲を現代にアップデートする「昭和グルーヴ」シリーズの第8弾。この作品で彼は、1980年代を代表するアイドルの1人であり、今も女優・歌手として活躍する中山美穂の代表曲「CATCH ME」「WAKU WAKUさせて」をオフィシャルリエディットしている。幼少時に聴いた「CATCH ME」が日本のポップスとの出会いであり、同曲の作詞作曲を手がけた角松敏生を敬愛するNight Tempoにとっては、キャリアの原点となる楽曲でもある。

念願叶ってのリエディットとなる本作のリリースを機に、音楽ナタリーは韓国在住のNight Tempoにリモートでインタビューを実施。彼が考える昭和ポップスの魅力、そして自身のルーツやこれからの展望に迫った。

取材・文 / 柴那典

やっと叶いました

──中山美穂さんのオフィシャルリエディットの話が来たときの最初の印象はどうでしたか?

「やっと来た」という気持ちでした。時間はかかっちゃったんですけど、いろんな方がご協力してくださって、やっと叶いましたね。

──以前からリエディットしたいとずっと思っていたと。

Night Tempo

はい。中山美穂さんの「CATCH ME」が僕にとっての日本の音楽との出会いだったということも、いろんなところで話してきましたので。僕のインタビューを以前から読んでいた方で「いつも話してたから、やっと叶えたね」という気持ちになった方も多いと思います。

──Night Tempoさんは中山美穂さんの「CATCH ME」とはどのように出会ったんでしょうか。

小学3年生の頃、お父さんが日本でゲーム機やカセットウォークマン、CDウォークマンなどを買ってきてくれて、それと一緒にCDももらったんです。それを聴いてカッコいいなと思って、最初は言葉もわからずに聴いていました。

──中山美穂さんの「CATCH ME」は、どういうところが一番好きになったポイントでした?

幼い頃だったので、音楽性も全然わからずにただ聴いていたんですけど、純粋な子供の感覚でカッコいいなと思っていた気がします。そこから角松敏生という人が曲を作っているんだと知って。「誰が作ったか」というのが重要でした。

──角松敏生さんのサウンドの特徴はどのようなところにあると思いますか?

角松敏生さんはもともと山下達郎さんに影響を受けていたんですが、そこから離れるために変化を模索するようになるんですね。アメリカに行って、チャカ・カーンのような当時の新しい音楽をいろいろ学んで自分のサウンドを作り上げた。そういうことは20代になってインターネットで情報を調べられるようになってから知ったんですけど、その頃はチャカ・カーンも好きだったし、純粋にカッコいいと思っていました。そのあとにはバンドサウンドに回帰したりもしているんですけれど、自分としてはああいう感じの音が“角松サウンド”だと思います。

──角松敏生さんのアルバムの中で特に好きな1枚は?

全部好きなんですけど、今言ったような“角松サウンド”が完成されたのは「AFTER 5 CLASH」(1984年)じゃないかなと思います。ただ個人的には「Touch And Go」(1986年)が一番好きですね。「CATCH ME」と同時期に作られたアルバムというのもあって、自分の耳に一番合うんです。今でもいつも聴いていますし、レコードもカセットも保存用で何枚も持っています。

──1980年代後半、中山美穂さんが角松敏生さんのプロデュースでシンガーとして本格的にブレイクしていく時期と、角松敏生さんがニューヨークで当時のモダンなダンスミュージックを取り入れて音楽性を広げていく時期は同じ頃だったわけですよね。そういうこともあとから知った?

はい。20代になって、角松さんについていろいろ調べて初めて知りました。それからいろんなアルバムを聴いたんですけれど、やっぱり「CATCH ME」と、同時期に出た「TOUCH AND GO」が一番のお気に入りですね。

素材だけで勝負していた80'sアイドル

──中山美穂さんにもいろんな作品がありますが、Night Tempoさんの個人的なベストはどのアルバムですか?

中山美穂さんの作品だと、角松さんがプロデュースしていて「CATCH ME」が入っている「CATCH THE NITE」(1988年)というアルバムもすごく好きなんですけど、個人的なベストは同じく1988年リリースの「angel hearts」ですね。角松さんの曲は入ってないんですが、角松さんと同じく僕の好きなCINDYさんの曲が入っているんです。このアルバムの頃が、CINDYさんが一番いい曲を書いていた全盛期だと思います。

──今回の公式リエディットは「CATCH ME」に加えて「WAKU WAKUさせて」を選曲していますが、これはどういった理由で選んだんですか?

まずは広く知られている曲をリエディットしようと思いました。今回で終わりではないので、自分が好きであまり知られていない曲はこれから自由にセレクトできるかなと。

──リエディットするにあたっては、どういうことを意識しましたか?

今回は難しかったです。もともとの曲のイメージが強すぎるし、サウンドに特徴がありすぎる。例えば「CATCH ME」「WAKU WAKUさせて」はボーカルにリバーブが強く入っていて、そういうところも難しかったですね。僕は、歌声にリバーブを入れる角松さんのアレンジに影響を受けていて、自分のオリジナルサウンドでも歌にリバーブを入れているんですけど、影響を受けた曲のサウンドに手を加えようとしたら、どうしても仕上がりが似てしまう。やはり影響を受けすぎたのかなと思いました。

──自分の原点であるがゆえに、アレンジするのが逆に難しかったと。

はい。どうやっても似たようなサウンドになってしまう。でもいろいろ悩んだ結果、シンプルに考えて、四つ打ちのハウスミュージックにすることに落ち着きました。最初は「似たようなサウンドになるなら、やる意味があるのかな」ということを気にしてしまったんですけれど、最終的には「似ていてもいいじゃん」と思って。

──「CATCH ME」や80年代の角松さんの曲はドラムのサウンドもとても特徴的ですよね。

特徴的ですね。一緒に作業していた方の話を聞くと、角松さんはいろんなドラムを重ねてサウンドを作っていたらしいです。キック1本でも4種類から5種類のキックを混ぜて作っていたみたいで。

──角松さんだけでなく、80年代のサウンドには他の時代にない独特なテイストがありますよね。Night Tempoさんは、いわゆる80年代サウンドのポイントはどこにあると思いますか?

いろんな機材を実験的に使っているところだと思います。それ以前は生演奏だったけれど、80年代半ばから打ち込みでサウンドを作る方が増えた。ドラムやサックスなどいろんな楽器が、サンプリングやデジタルサウンドに変化していったんです。環境の変化に応じてリアルタイムでアップデートしていたのかなと思います。

──Night Tempoさんは先日コンピレーションCD「Night Tempo presents ザ・昭和アイドル・グルーヴ」もリリースされましたが、80年代のアイドルにも、あの時代ならではの輝きや魅力があると思います。それはどのようなものだと感じていらっしゃいますか?

今のアイドルは仕掛けが多いし、いろんなコンセプトがありますよね。そういうふうにコンセプトで勝負するのではなく、素材だけで勝負した時代だったと思います。

──楽曲についてはどうでしょうか。

そのアイドルが歌ったら、その人の曲になっちゃうところがありますよね。例えば、松田聖子さんは何を歌っても松田聖子の曲になるし、中森明菜さんも何を歌っても中森明菜の曲になる。中山美穂さんも、森高千里さんも、河合奈保子さんも、それぞれに素材としての魅力があって、音楽がそれを光らせる燃料になっていたと思います。