音楽ナタリー PowerPush - ニコナタ(音楽)小林幸子×武田晃1等陸佐(陸上自衛隊中央音楽隊隊長)対談

すべては音楽のために

ネットの世界がだんだん近付いてきている

──しかも隊長はじめ、中央音楽隊自身も昨年の「ニコニコ超パーティー」という知らない世界での“任務”を楽しんでいたわけですよね?

武田 すごく楽しかったですね。まず喜んでいただけたこともそうですし、皆さんその喜びを表現するスピード、曲を聴いたときの反応が早いんです。

小林 すごく純粋な反応を返してくれますよね。ニコ動を観ている子たちって演歌もそうだし、おそらく吹奏楽にもそれほど馴染みは……。

武田 ないかもしれないですね。

小林幸子

小林 でも、そんな知らないジャンルの音楽であっても「いいな!」って思えたら、その瞬間に「いい!」っていうことを身体で表現してくれるんですよね。特に年配の方の中にはネット=少数派のもの、もっと言ってしまえばオタクのものっていうイメージを持ってる人もいるかもしれないんだけど……。

武田 全然違いますね。もっとアクティブなイメージがあります。そのネットユーザーの広がりを実感できたのも「ニコニコ超パーティー」が楽しかった理由なんです。実は「超パーティー」に出演する以前からネットの世界が、我々の任務に接近してきている感触はあったんです。例えばここ数年「千本桜」のようなネットでヒットした曲の吹奏楽用の楽譜が発売されたりしていますし、それから中央音楽隊のホームページやブログに寄せられる声の中にネットユーザーの方独特の言葉遣いが混じるようになりまして(笑)。

小林 「おつかれさまです」が「乙」になってたり(笑)。

武田 だから単に「社会情勢を鑑みて」というだけでなく、我々自身にも「ネットの世界がだんだん我々に近付いてきているな」という実感があったところに、去年の出演要請があったんです。そして出演してみたら、そこにはすごく純粋でアクティブな聴衆の皆さんがいたんですよね。

「歌ってみた」の子たちと気持ちは同じ

小林 私もそういうタイプだから自分で自分をホメるみたいな話にもなっちゃうんですけど(笑)、ホームページに寄せられたコメントに対して「言葉遣いがおかしいだろ!」ってならずに面白がって、しかもそれを書いている子たちの聴いている音楽の世界に飛び込んでしまえるところがいいですよね。

武田晃1等陸佐

武田 自衛隊員ですから当然活動の公益性・公共性については深く考えなくてはいけないんですけど、それと同時に中央音楽隊のやっていることは「音楽」であって、隊員はそれぞれ1人の「奏者」ですから。いち奏者という視点に立つなら、未知の音楽には当然興味があるし、面白い曲があるのであれば当然演奏してみたくなるし、聴いてくれる人がいるのであれば、当然その人たちの前でその曲を演奏してみたくなるんですよね。

小林 ですよね! 今すごくビックリしてるんですけど、ここまで似ているとは思っていませんでした。私がニコ動でやっていることって、ある意味、演歌や歌謡の世界以外の皆さんに向けた“小林幸子の広報活動”でもあると思うんです。それこそ「宣伝乙」ってやつですよね(笑)。でもボカロ曲のカバーを始めた理由はといえば「この面白い曲、私も歌ってみたいな」「えっ、この曲を歌ってるボカロって機械なの?」「機械に歌えるんなら私に歌えないわけないだろ」っていうすごくシンプルなもので。たぶん私が動画を投稿しているときの気持ちって「昨日『歌ってみた』デビューしました」「ボカロPデビューしました」っていう子たちと同じはずですから(笑)。

──キャリア十分のお2人が今も、そうやって音楽に対する初期衝動を維持できる秘訣ってなんなんでしょう?

小林 あえて維持している感覚はないですね。

武田 そうですね。

小林 ただ、ちょっと話がズレちゃうんですけど、のちにシングル曲として発表し直した「おもいで酒」ってもともと「六時、七時、八時あなたは…」っていう曲のB面で、しかも作詞の高田直和さんは専業の作詞家ではなくて、作曲の梅谷忠洋さんも演歌の畑の方じゃない。吹奏楽をやっていた方。そういうお2人が「ちょっと作ってみようよ」っていうノリ、言ってしまえば趣味みたいなノリで作り始めたらしいんです。

武田 そうなんですか。

小林 ええ。で、梅谷さんは吹奏楽の世界の方だから、最初は「演歌ってどうやって作ればいいんだろう?」って悩んでいたらしいんですけど、ある日(サラサーテのバイオリン曲)「ツィゴイネルワイゼン」みたいなイメージが頭に浮かんだらしくて。それをヒントにできあがったのが「おもいで酒」なんです。そういうエピソードの当事者の1人でもあるから私は面白そうなこと、知らないことを素直に面白がっちゃうんだろうなとは思ってます。たとえ勝手知ったる世界のことじゃなくても、面白そうだと思ったらやってみる。そうすると「ツィゴイネルワイゼン」から「おもいで酒」が生まれたように、意外な発想が飛び出してきたり、素晴らしいものができあがったりすることがあるって知っているから。

武田 我々と同じですね。基本的には「演奏してみたい」「聴いてもらいたい」「喜んでもらいたい」という気持ちに突き動かされていますから(笑)。そしてその気持ちが我がことながらよかったなって思える演奏を生むことは少なくないんです。

左から小林幸子、武田晃1等陸佐。

小林 実は私、3.11のあと自衛隊の皆さんのそういう思いを知る機会があったんですよ。気仙沼にチャリティで歌いに行ったとき、あちらの音楽隊の方と共演したんですけど、それは本当に急きょ決まった話で。皆さん譜面を受け取ってから本番まで2~3日しか練習の時間がなかった上に、当然復興のためのお仕事もあったはずなのに「幸子さんが来るなら」って「おもいで酒」を完璧に覚えてきて、完璧な演奏をしてくださったんです。

武田 たぶんその隊員たちも我々と同じ気持ちだったんでしょうね。音楽という技術を手にしている以上、それを活用できる場面ではフルに発揮したいですから。

小林 演奏が素晴らしかったことももちろんなんですけど、何よりその心意気がすごくうれしかったんですよね。

ニコニコ超会議2015

ニコニコ超会議2015

開催期間

2015年4月25日(土)、4月26日(日)

会場

幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール

超音楽祭2015
4月25日(土)出演者

アイドルマスター / 藍井エイル / アップアップガールズ(仮)/ 妖~AYAKASHI~ / 仮面ライアー217 / GARNiDELiA / ℃-ute / Gero / 超特急 / バーレスクTOKYO / 藤巻亮太(レミオロメン)/ まじ娘 / 松岡充 / みうめ / むすめん。 / ROOT FIVE / REVALCY / 古坂大魔王

4月26日(日)出演者

アルスマグナ / __(アンダーバー)/ OxT(オーイシマサヨシxTom-H@ck)/ kain / 黒崎真音 / 航空中央音楽隊 / 小林幸子 / ZAQ / Juice=Juice / SUPER☆GiRLS / でんぱ組.inc / 9nine / 松下 / RAB(リアルアキバボーイズ)/ 陸上自衛隊中央音楽隊 / 古坂大魔王

小林幸子(コバヤシサチコ)

小林幸子

1953年生まれの女性ボーカリスト。1963年、9歳で作曲家古賀政男に師事し、1964年シングル「ウソツキ鴎」でデビュー。同曲が20万枚の大ヒットを記録する。1979年1月リリースの「おもいで酒」が200万枚を超えるセールスを記録し、同年末「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。以来「もしかして」「雪椿」「越後絶唱」などヒット曲の数々を引っさげ、現在までに同番組に33回出演し、1980年代末頃からはステージ演出にも注力。NHKホールのステージをフル活用した舞台装置と衣装が年末の風物詩のひとつと目されるようになる。他方、コメディやバラエティ番組、テレビドラマなどにも出演。また「ポケットモンスター」シリーズ初の劇場用作品「ミュウツーの逆襲」の主題歌を歌ったほか「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル」では主題歌を担当すると同時に声優として登場するなど、その多岐にわたる活動を通じて幅広い年齢層の人気を獲得する。さらに2012年、ニコニコ生放送「小林幸子降臨!『茨の木』夢は捨てずに生放送」「ニコニコ大忘年会2012 in nicofarre」に登場。2013年には歌ってみた動画「ぼくとわたしとニコニコ動画を夏感満載で歌ってみた」を投稿するなどニコニコ動画を積極的に活用。ネットユーザーの多大な人気を集めている。そして2014年4月には千葉・幕張メッセでの「ニコニコ超会議2014」内の音楽系ステージイベント「ニコニコ超パーティーIII」に出演し、2015年4月の同所での「超音楽祭2015」にも登場する。


2015年5月29日更新