ナタリー PowerPush - ニコナタ(音楽)HISASHI(GLAY)

“うp主”HISASHIとニコ動の関係

今年の春、突如ニコニコ動画にアニメ「らき☆すた」のオープニングテーマ「もってけ!セーラーふく」とMetallica「Master of Puppets」の“弾いてみた”動画をアップし、ネット界を騒然とさせたGLAYのギタリストHISASHI。自他ともに認めるサブカル好きでもある彼だが、国民的バンドとも言えるバンドのメンバーがなぜ、このタイミングでニコニコ動画に“降臨”したのか。

今回ナタリーはその真相を突き止めるべくHISASHIを直撃。ニコニコ動画やニコニコ生放送に対する思いを明かしてもらった。

取材・文 / 中野明子 撮影 / 上山陽介

俺が切り込んでいかなきゃ

──HISASHIさんがニコニコ動画に興味を持ち始めたのはいつ頃でしたか?

Twitterを始めた頃と同時期だった記憶があるかな。だから2008年から2009年の間かな? 僕の場合、新しいものが出てくるとすぐ飛び付く性格で。ニコ動は新しいコンテンツとして面白い“姿”をしてるなと思ったんですよね。ただ、僕、新しいもの好きではあるんだけど、冷めやすくもあって(笑)。

──と言いながらも、ニコ動やニコ生への興味はずっと持ち続けていらっしゃるようですが。

そうなんですよね。ニコ動やニコ生って、誰でもブロードキャスティングできて、秘めた才能を発揮できる場所だし。常に新しくて、いろんな動きがあるから飽きないんですよ。僕、北海道に住んでたからわかるんですけど、地方の町ってエンタテインメントがないんですよね。サーカスだったり、映画やミュージカルだったり……エンタテインメントが限られた環境になっちゃって。東京にすごい憧れがあった。でも、今はニコ動とかYouTubeを通して、いろんなものが楽しめる上、地方にいる人も自分の作品を発表できる場所がある。素晴らしいチャンスが転がってると思う。

HISASHI

──例えばご自身が中学生や高校生のときにニコニコ動画に出会っていたら、どうなっていたと思いますか?

配信をしている人たちの技を盗みたがったでしょうね。ただ自分では手を出せなかった気がする。ニコ動やニコ生って、ただ音源や作品をアップする場っていうんじゃなくて、ちょっと踏み込んだディープなカルチャーという意識があるから。今のテクノロジーがあればPro Toolsとか使ってバンドの音を気軽に発信できるんだけど、センスを試されるというか。物理的には気軽に動画をアップできるけど、意識の上でのハードルがちょっとありますね。

──そんなHISASHIさんですが、今年に入ってニコ動で発信する側になって。「もってけ!セーラーふく」と「Master of Puppets」の“弾いてみた”動画をアップして大きな反響を呼びました(参照:HISASHI、ニコ動で「もってけ!セーラーふく」弾いてみた)。Yahoo!のニュースにもピックアップされましたし。

そうですね(笑)。

──何かご自分の中のハードルを越えたきっかけがあったんですか?

去年、GLAY以外の活動をする機会にすごく恵まれて。ほかのアーティストのライブやレコーディングにゲスト参加したり、プロデュースを手がけたりしていく中で、自分のハードルが下がった気がするんです。やれる余裕も出てきたのかもしれないですし。

──HISASHIさんの“GLAYのギタリスト”という肩書きが、動画をアップする上で壁になったりはしませんでしたか?

それはもちろんありましたね(笑)。自分の立場っていうのを、20年間の活動の中で自覚はしてるんで。でも、ニコ動ってほかのメンバーは興味がないコンテンツだと思うんですよ。だからこそ、俺が切り込んでいかなきゃいけないという意識もあって。ニコ動って日本のネットシーンの中では、かなりのウエートを占めてる気がするんですよ。もちろんGLAYも作品をリリースするたびにいろんな企画をやらせてもらってるし。今ってプロモーションの仕方が変わってきてる時期だから。以前のように雑誌の取材を受けて、テレビに出演させてもらって新作を伝えるのも大事だけど、ネットだとそことは違った層にアプローチできる。自分から積極的にはGLAYを聴きに行かないけど……っていう人たちも、たまたまニコ動で目や耳に入る情報や映像を通して、GLAYの音楽や僕の趣味に触れてもらえる機会がある。

──ニコ動やニコ生って間口が広いのも特徴ですものね。

ええ。人って保守的なところがあると思うんですよ。僕自身も聴かず嫌いな音楽はもちろんあるし。でも触れる角度が違うことで、印象が変わることもある。テレビの歌番組で流れているのを聴くのと、ネットでたまたま耳に入ったりするのでも違うだろうし。SNSを介して、口コミのような形で音楽に触れると印象が変わることもありますよね。

──確かに。

そういうアプローチを試していきたいんですよね。それをやるのが自分の役割だとも思ってるし。あと今の情報化社会の中では、音楽も“情報”のひとつになっている気がするんです。YouTubeでMVが無料で観られたり、楽曲が聴けたり。だったら音楽をタダで聴いてもらうのもいいじゃんって思って。もちろん僕は好きなアーティストの曲は配信で買ったり、パッケージを手に取ったりしますけど。買う人は買うし、買わない人は買わない。僕は今の時代、そういう流れになってる気がするんですよね。

GLAY EXPO 2014 TOHOKU 20th Anniversary
2014年9月20日(土)
宮城県 ひとめぼれスタジアム宮城
OPEN 13:30 / START 16:30 / END 19:30(予定)
HISASHI(ヒサシ)

1972年生まれ、青森県出身のギタリスト。1994年にGLAYのメンバーとしてシングル「RAIN」でメジャーデビューを果たす。1996年に発表したシングル「グロリアス」とアルバム「BELOVED」がミリオンヒットを記録し、これを機に全国的な人気を獲得した。GLAYのギタリストとして活躍する一方で、TAKAHIRO(Vo / EXILE)らとともに期間限定ユニットACE OF SPADESを結成したり、BiSのアルバム「WHO KiLLED IDOL?」のレコーディングに参加したりといった活動も展開。アニメやゲーム、サブカルチャーに精通していることでも広く知られている。