ナタリー PowerPush - NICO Touches the Walls

「Shout to the Walls!」全曲解説 メンバーソロインタビュー

5. ストロベリーガール

──「ストロベリーガール」は音も歌詞もひねったタイプの曲で。

光村 個人的にはアルバムの中で1、2を争うくらい好きな曲ですね。で、俺らはノリノリで演奏するけど、お客さんはテンポや構成が変だからノレないタイプの曲(笑)。早くライブでやってみたいですね。

──歌詞はすんなりできました?

光村 いや。音作ってるときはかなり調子がよかったんですけど、歌詞を書く段階になって詰まって。言葉遊びが合うタイプのサウンドなんだけど、1音1音が強くて、余計なものが入るのが一切許されない。10パターン以上歌詞を書いて、テーマも途中で変えて。

──テーマも変えたんですか?

光村 ええ。最初は曲が7拍子だったんで、7にまつわる歌詞を書こうと思ったんですよね。7と言えばスリーセブンとか、ラッキーナンバーかなと思って。ただ7にまつわる言葉を並べるだけだと面白くないから、ストーリーも加えたいなと。最初はスリーセブンにちなんでパチンコ屋の女の子に恋をする曲にしようかなと思ってたけど、俺パチンコやらないから全然広がらなくて。じゃあ7にまつわるものを考えて、1週間が7日だしそれをネタにした歌詞にしようと。ただの1週間の歌じゃなくて、サラリーマンがいて土日にケーキ屋のかわいい女の子に会いに行くために平日がんばってるっていうストーリーにまとめて。さらに「食べちゃいたい」とかこれまであまり使ってない言葉をそのストーリーの中で書いてみたという。歌詞を書き上げて歌入れが終わったらみんなに「こういう歌詞を待ってたよ」って言われましたね。

古村 みっちゃんにしか書けないし、歌えない歌詞だと思う。「食べちゃいたい」っていうのも含めて(笑)。

光村 っていうように3人からの言葉で報われたというエピソードがあります。

6.紅い爪

──次は対馬さん作詞の「紅い爪」。以前、対馬さんは作曲をしていると聞いていたので、作詞の曲が出てきて驚きました。

対馬 曲も作ってたんですけど、今回は歌詞を書こうという話になりまして。

光村 曲が先に完成してたんだけど、歌詞が全然進まないから対馬くんに依頼して。今年に入ってから対馬くんの調子がいいんですよ。レコーディングでもいろんなパートのOKを出すのが対馬くんだったりしてて、今お願いしたらいい歌詞が出てくるんじゃないかなって(笑)。そしたら想像をはるかに超えた繊細な歌詞が出てきて。ほんっとに裏切られましたね。なんでこんな才能を隠してたんだっていう。

──ほかの3人とはまったくタイプが違いますよね。何よりも女性視点の歌詞だし。

対馬祥太郎(Dr)

対馬 ですよね。映画のようなストーリーを思い浮かべながら書きましたね。試しに書いてみたけど、決して簡単ではなかったですね。まず歌詞をどう書いたらいいのかってみっちゃんに聞いたし、ほかのみんなの力も借りたし。でもこの曲の歌詞を書いたことで、ドラムだけやってたときに見えなかったメンバーとのつながりを実感しましたね。

──つながりとは?

対馬 「夢1号」でフルとか坂倉がコーラスを始めたことで感じたことと近いかも。自分の体を使ってできることはまだあるというか、バンドの可能性を感じた。あとどんな歌詞を書いてもみっちゃんが歌うんだったら不安はないなって気持ちもあったんですよね。まあレコーディング中にみっちゃんが「紅いマニキュア」って歌ってるのを聴いたときはかーなり新鮮でしたけど(笑)。

光村 あんたが歌わせたんだろ! でも今の俺には絶対出てこない歌詞なんですよ。これがバンドならではの化学反応かなって。もとがこういうフェミニンな雰囲気の音だし、対馬くんの繊細な性格もわかってたし、最初に女目線で書いてみるのも面白いんじゃないって提案してたんですよね。そのときは「それはちょっと、俺は無理だよ」って言われてたんですけど、たった40分くらいで女性目線の歌詞を書いてきてびっくりした。

対馬 俺の場合は作詞ビギナーだから、「この言葉前に使ったな」とか気にしなくていいんです。ただ今後やっていったらみっちゃんと同じく、「使える言葉がない壁」にぶちあたるかもしれない。

光村 いや、もうマニキュアとドレスとハイヒールが出てきたら怖いもんはないだろ(笑)。

7. チェインリアクション

──この曲は「Mr. ECHO」のカップリングにもなってますが、アルバムの中に入ると印象が変わりますね。攻撃的な感じが強くなる。

坂倉 この曲は個人的には、どこに置いてもいいタイプの曲だと思ってます。起爆剤にもなるし。これまで自分が作ってきた中でも傑作だなって。

──音の話は前回のインタビューで話してもらったんで、今回は詞について聞きたいのですが、「チェインリアクション」の詞はこれまで坂倉さんが発表してきた曲とはタイプが違う気がしました。言葉のリズムをすごく大切にしている。

坂倉心悟(B)

坂倉 前までは歌詞を書くときに、何かしらのストーリーだったり感動できるものを歌詞に求めてたんですけど、「チェインリアクション」に関してはあえてストーリーや意味をつけないであっけらかんとさせたかったんですよね。なんの物語も作らず、ただライブに入り込めなくて、踊り狂えない人に向かって書いた歌詞ですね。

光村 坂倉ってこれまで歌詞にストーリーを込めてたんですけど、それが俺らには伝わらないことが多くて。ストーリーがなくて、リズミカルに展開していくほうが実は得意なんじゃないかと思った。「街中輪になって踊る怪奇現象」とかそういう言葉は俺からは出てこないし、これを機にストーリーは卒業してもらおうかと。

坂倉 自分としてはストーリーがあるものが気に入ってるんだけど……。でも歌い手のみっちゃんとしては歌詞を理解しないといけないし。

光村 あのね、坂倉は新幹線に乗るときに「日本の味博覧」っていうおかずが多い弁当を必ず買うんですよ。それが性格を表してると思うんですよね。要素が多いほうがいい、と。

坂倉 欲張りなんです。

光村 でも俺は1個のテーマにもとづいて書いたほうが、坂倉のよさが出る気がする。

坂倉 えー。ストーリー好きなのに(笑)。

8. ランナー

──「ランナー」はアルバムの中でも特にストレートな曲で。光村さんが中学時代に作った曲とのことですが、10年以上経ってこうやって世に出るというのはどういう感覚ですか?

光村 中3の俺が喜んでますね。

──今回レコーディングにするにあたって意識したことは?

光村 もともとアコギで作った曲だから、シンプルなアコギから始まってどんどんみんなが音を重ねて広がっていくというイメージでしたね。

──歌詞の筆致はサウンドと同じく、青臭い雰囲気で。

光村 そうですね。もうね、最近歌詞に悩むことが多くて……。1回使った言葉をほかの曲で使うのがイヤなんですよね。それを意識すると、書けば書くほどハードルがあがっていく。でも自分で歌ってて感動できる歌詞を書きたいって考えると時間がかかって。だけど中3のときは使ったことある言葉もフレーズも少なかったから、めちゃくちゃ素直で純粋なんですよね。だから「ランナー」を聴くと、その純粋さに自分の曲だけどグッとくる。

──なぜランナーをモチーフにしたんですか?

光村 俺、運動しないのにね(笑)。なんでだろう……あ、思い出した! この曲を書く前に体育の授業でマラソンがあって。マラソンの授業って、地元の景色を見ながら走るじゃないですか。そのときにふと大人になったら、この景色がすごく懐かしくなるんだろうな、だから目に焼き付けておこうと思いながら走ってた。それがきっかけで書いたんだった。

対馬 ってことは「さよならこの街」って浦安のことか。歌詞がいやに具体性帯びてきたな。

ニューアルバム「Shout to the Walls!」/ 2013年4月24日発売 / Ki/oon Music
初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / KSCL-2223~4
通常盤 [CD] 2800円 / KSCL-2225
CD収録曲
  1. 鼓動
  2. 夢1号
  3. 夏の大三角形
  4. アビダルマ
  5. ストロベリーガール
  6. 紅い爪
  7. チェインリアクション
  8. ランナー
  9. アルペジオ
  10. (who)
  11. Mr. ECHO
  12. damaged goods~紫煙鎮魂歌~
初回限定盤DVD 収録内容

NICO Touches the Walls Acoustic Sessions「アコタッチと呼んでみて☆ vol.2~真夜中のスタジオ編~」

  1. Mr. ECHO
  2. April
  3. 夢1号
NICO Touches the Walls
(にこたっちずざうぉーるず)

2004年4月に光村龍哉(Vo, G)、古村大介(G)、坂倉心悟(B)の3人で結成。同年7月に対馬祥太郎(Dr)が加入し、現在の編成となる。2005年から渋谷と千葉・柏を中心にライブ活動をスタートさせる。2006年2月に初のミニアルバム「Walls Is Beginning」をインディーズレーベルから発表し、翌2007年11月にミニアルバム「How are you?」でメジャーデビューを果たす。2008年9月に1stフルアルバム「Who are you?」、2009年11月に2ndフルアルバム「オーロラ」をリリース。2010年3月には初の日本武道館ワンマンライブを開催した。2011年4月には3rdアルバム「PASSENGER」、7月にシングル「手をたたけ」、12月に4thアルバム「HUMANIA」を発表し、それぞれの作品でバンドの新たな音楽性を提示する。2012年には幕張メッセイベントホールでワンマンライブを実施し、成功を収めているほか、「夏の大三角形」「夢1号」というシングルを2作発表。2013年3月27日にニューシングル「Mr. ECHO」をリリースした。4月24日には5thアルバム「Shout to the Walls!」を発表。


2013年4月24日更新