Newspeakサウンドはどのように作られるのか
──アルバムを聴いて「Higher Than The Sun」や「Blue Monday」という曲名から、Primal ScreamやNew Orderへのオマージュを感じたのですが……。
Rei もちろん楽曲は知っていますが、まったく関係ないんですよ(笑)。おそらくキャッチーな言葉として頭の中にずっと残っていて、曲を作りながらふと出てきたのかなと思います。言葉としてのインパクトの話であって、音楽的なインスピレーションや影響は特にないです。仮に僕が「Primal Screamっぽい曲を作りたい」と思っても、それはあえてメンバーには明かさず、2人に好きなように演奏してもらうことで、結果的にNewspeakらしいごちゃごちゃとした音像になっているでしょうね。
Yohey 確かに。例えば「Alcatraz」は、Reiから「これに好きにベース入れて」とデモを渡されたんです。僕はその音源を聴いてすぐにP-Funkのエッセンスを入れるアイデアを思いついたんだけど、それは言わずにReiに戻したら「これいいね!」と言ってくれたのでそのまま進めました。展開部分で少し変えたいなと思ってHappy Mondaysのようなマッドチェスターっぽいベースを入れてみたりして。そういうことの積み重ねや繰り返しで楽曲が作られていくんです。
──Newspeakの音楽は取り入れるオマージュの層が厚いからこそ、リスナーの音楽遍歴によって聴こえ方が変わるのではないでしょうか。音楽以外で何かインスピレーションを受けるカルチャーはありますか?
Rei 結局音楽の話になってしまうんですが、映画を観ているときにセリフの後ろで流れているコードの響きから曲のアイデアが閃くことはありますね。「この曲の響きがいい!」と思ったら一旦映画を止めて、アコギを引っ張り出してきて曲作りを始めるんです。M83がサントラを担当したトム・クルーズ主演の「オブリビオン」からはものすごくインスピレーションを受けました。
自分が所属するコミュニティに息苦しさを感じたら
──歌詞にフォーカスすると、アルバム全体を通して「ありのまま」という言葉がよく出てきますよね。
Rei さっきYoheyが言ったようにこの2、3年は「Newspeakとは?」みたいなことを考える機会がとても多かったんです。ただ、別に「ありのままでいることが一番」だとは思っていないんですよ。人間、多かれ少なかれ誰しも背伸びしてるものじゃないですか。それ自体は人間らしいことだし、別に悪いことではないというか。
──確かに。それは向上心でもあり、成長するために必要な欲求ですよね。
Rei ただ、コアにある思い……自分が本当に好きでやっていることや、大事だと思っている人に対しての態度は“ありのまま”であるべきなんじゃないかなって。逆にそれ以外の場面では“ありのまま”である必要はない。そんなことを、手を替え品を替え、何度も歌詞にしているんでしょうね(笑)。
──「Tokyo」という曲を書こうと思ったのはなぜですか?
Rei 「Tokyo」は夢をあきらめきれない人の曲です。生きていると自然と何かしらのコミュニティに属することになりますよね。でも、1つの世界だけに固執する必要はない。例えば学校に行きたくないと悩んでいる人がいたとして、卒業したり別の場所に飛び込んだりすれば、そこが小さな世界だったと気付くことは往々にしてあると思うんです。それは社会もバンドも同じで。「Tokyo」ではコミュニティの象徴として「東京にいる息苦しさ」を歌っているけど、「一歩踏み出せばもっと大きな世界が広がっているのに、なんでそんな生き方をしているの?」と問いかけている曲ですね。
──今日、X(Twitter)で「コロナ禍で好きな人とだけ会うようになったことが、かえって心を狂わせたのかもしれない。苦手な人と話して不快な思いをしたり、嫌いな人と過ごしてストレスを感じたりすることも、実は大事だったのでは?」という趣旨のポストをたまたま見て、「なるほど」と思ったんですよね。今のお話を聞いていてそのことを思い出しました。
Rei 確かに。僕はアメリカで生まれて茨城に引っ越し、中高は大阪で過ごしたのちに自分の意思で上京、その後もイギリスへ留学するなど、常にコミュニティを転々としていたんです。もし自分が同じコミュニティにずっと属さなければならない環境にいたら、そのストレスをどう発散したらいいかわからなかったかもしれない。
Steven 僕はまた違う視点でこの曲を捉えていて。田舎から東京に出てきている人はたくさんいるじゃないですか。僕の友達にもいるし、中には「東京はつらくてやっていけない。帰りたい」と言う人もいる。自分もたまにそう思うことがあるんです。東京は世界の中でも特にハードな街で、みんな朝早くからハイペースに動いている。「Tokyo」という曲は、そういう人たちに「そうだよね。わかるよ」と寄り添ってくれるというか。大変な時期を乗り越える力になってくれる曲だと思いますね。
一歩踏み出す勇気を
──アルバムのラストを飾る「Nokoribi」は、Reiさんの死生観を表しているように感じました。
Rei 死生観というほど大袈裟なものではないけど、このアルバムのデモを作ったり、歌詞を書いたりするために自宅やスタジオにこもっているのが本当に嫌になった時期があったんですよ。「もうコロナも明けたのに、なんで俺はここにずっといるんだ?」「俺はいろんな景色を見たいから音楽を始めたのに、ほぼスタジオにいるじゃん。ふざけんなよ!」って。
──ははは。
Rei 制作中にそのままのたれ死んで、誰にも発見されずに数日経っていた……なんて嫌じゃないですか(笑)。そんなことを考えていたら、カゲロウのことを思い出して。カゲロウって羽化して数日で死ぬんですけど、月明かりを頼りに川へ移動するんですね。でも、その途中に街灯とかがあると方向感覚が狂って水場にたどり着く前に力尽きてしまう。
──なんだか切ない話ですね……。
Rei それでもカゲロウは目標のために飛び立って、光を見て死んだわけですよね。Newspeakも自分の音楽人生もそうやって終えられたらと思っています。もちろん、まだまだそんなつもりはないですよ(笑)。ただツアーもせずにアルバム作って終わるんじゃなくて、いろんな人に会って、いろんな人にメッセージを伝えたいなと思ったんです。
──例え目指す方向が「月」ではなく「街灯」だったとしても、一歩踏み出して進んでいくことを肯定したいというか。
Yohey このアルバムを「Nokoribi」の「革命前夜のWingless Believer」というフレーズで締めくくることができたのはよかったなと思います。僕らにとっても強い言葉だし、聴いてくれた人も「明日からまたがんばろう」と思える。そういうアルバムに仕上がったかなと思いますね。
──11月には本作を携えてのツアーが始まります。最後にその意気込みを聞かせてもらえますか?
Rei 日本語をメインにした「State of Mind」を初めてライブで披露したときに、お客さんがものすごく聴き入ってくれているのを感じたんですよ。それまではメロディやサウンドを楽しんでる印象だったから新鮮でした。やっぱり自分のアイデンティティは日本だし、日本語が第一言語の人たちの前で、日本語で歌ったときの感覚ってこんな感じなのかと。
──「歌詞が伝わってる!」って。
Rei そうなんですよ。なんで今までこれをやらなかったんだろう? もう少し早くやるべきだったなと思いました。今回のアルバムは日本語の曲が多いので、お客さんにどう伝わるのか楽しみです。
Yohey お客さんとの掛け合いや、ライブでの会話も楽しみですね。きっと反応も違うと思うので。
──海外でのライブもいつか挑戦してみたいですか?
Rei もちろんです。海外進出は結成当初からの大きな目標なので。
Steven その日を楽しみに待っています!
公演情報
Newspeak「Major 1st Full Album "Newspeak" Release Tour 2024」
- 2024年11月22日(金)愛知県 名古屋 ell.FITS ALL
- 2024年11月29日(土)大阪府 Yogibo HOLY MOUNTAIN
- 2024年12月8日(日)東京都 Spotify O-WEST
プロフィール
Newspeak(ニュースピーク)
2017年に東京で活動を開始したロックバンド。結成年から「SUMMER SONIC」に出演し、翌2018年にはMando DiaoやThe Fratellisの来日公演でオープニングアクトを務めるなど、早くから各地で話題を集めてきた。2019年11月には1stフルアルバム「No Man's Empire」を発表し、2020年12月からはRei(Vo, Key)、Yohey(B)、Steven(Dr)の3人体制で活動を展開。2024年7月にメジャー1stアルバム「Newspeak」をワーナーミュージック・ジャパンからリリースした。