躍動感あふれるグルーヴとパワフルなボーカルを武器に、国内外でファンベースを広げるNewspeakが、メジャー1stアルバム「Newspeak」をワーナーミュージック・ジャパンからリリースした。
「Newspeak」は、コロナ禍に制作された前作「Turn」からおよそ3年ぶりとなるオリジナルアルバム。UKインディーやUSオルタナに影響を受けた従来のサウンドを踏襲しつつも、改めて日本語の歌詞を本格的に導入した楽曲が並んでおり、“Newspeakらしさ”はそのままに、自分たちの音楽をより多くのリスナーへ届けようという3人の強い意志が感じられる。環境が大きく変わった中、彼らは何を思いこのアルバムを完成させたのか、じっくりと語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 斎藤大嗣
メジャーに行っても変わらない
──Newspeak結成から7年、ついにメジャーデビューを果たしたわけですが、まずは率直な心境から聞かせてもらえますか?
Rei(Vo, Key) 僕らはインディーズの頃から常に「もっと大きな場所で、たくさんの人に音楽を届けたい」と思って活動を続けていて。メジャーレーベルに移籍してチームが大きくなったことで、その夢がより達成しやすい体制を築けたことを素直にうれしく思います。ただ、自分たちの音楽そのものを変えようとは思っていなくて。今後もインディペンデントで、自分たちの考え方で音楽を作り続けていきたいです。
Yohey(B) メジャーに行ってNewspeakのことを親身に考えてくれる仲間が増えたから、優しい意見から厳しい意見まで、たくさん耳にする機会が多くなりました。その中で今まで以上に「Newspeakってどんなバンドだろう?」と自問自答する時間が増えていて。何が強みでそれをどう届けていくか、改めてじっくり考えているところです。
Steven(Dr) メジャーに行くことに対してのプレッシャーはもちろんありますが、それに引っ張られないよう「いい音楽を作る!」という気持ちをメインにがんばっています(笑)。とにかくいい音楽を作り、いいライブをやるというベーシックな部分は変えずに活動を続けていきたいです。
生きるエネルギーに変えてくれたら
──アルバムの中で一番古い曲は、Honda FITのCMソングとして書き下ろされた「Leviathan」です。Newspeakにとっては初のCMソングですよね。
Rei 実は「最初のデモが欲しい」と言われてから締め切りまでたった1週間しか時間がなかったんですよ(笑)。自宅にこもってバーッとデモを作って提出したら一発OKになったのでホッとしました(笑)。サウンドとしては、CMソングということで15秒間で視聴者の心をつかむために、パワフルかつ振り切れた楽曲を目指しました。結果的に地元の友達からも反響があって、テレビの力を感じました(笑)。
──「Leviathan」は旧約聖書に登場する怪獣の名ですが、これはなんのメタファーだったんですか?
Rei 旧約聖書から引っ張ってきたというより、大きくて強い力に引っ張られるようなイメージの曲を作りたかった。Hondaさんとのタイアップですし、「この勢いに乗って新しい景色を見に行こう!」という思いはありました。
Yohey Reiの言う「大きくて強い力」を自分の内側から湧き出てくるものと捉えるか、それとも自分の外側にあって、どこか違う場所へと運んでくれるものと捉えるか。それによって意味合いも変わってくると思いますね。
──確かに。HondaのCMソングということで車にも例えられますよね。
Rei それもあるかもしれません。僕はメッセージを具体的に伝えるというより、漠然としたイメージで伝えたいと思っていて。聴いた人が自分なりに解釈して、生きるエネルギーに変えてくれたらうれしいですね。
日本語の歌詞に自信が持てるようになってきた
──Newspeakは昨年リリースしたシングル曲「State of Mind」で日本語の歌詞を全面にフィーチャーしていましたよね。これはバンドにとって大きなチャレンジだったのでは?
Rei 実は最初に出したミニアルバム「Out Of The Shrinking Habitat」(2018年)で一度、日本語の歌詞に挑戦したことはあったんです。僕自身、普段聴く音楽のほとんどが英語の歌詞なんですけど、バンドを結成したばかりの頃に「Reiの作った曲、日本語の歌詞ハマりそうじゃん」とは言われていたんですよ。特にStevenから(笑)。
Steven そうそう。今回メジャーに行くタイミングでスタッフからも同じアイデアが出たんだよね。それで「よし、やるか!」ってなったんだけど、もっと早くやってほしかったくらい(笑)。
Rei 僕が英語で歌っていたのは、洋楽がルーツというのももちろんあるけど、とにかくシャイな自分を隠すためでもあったんですよね。それこそメンバーやスタッフ、仲のいい友人に作った曲を聴かせるときに、その内容がダイレクトに伝わるのは恥ずかしいじゃないですか(笑)。「いや、歌詞はいいからとりあえず音楽を聴いてくれよ!」といつも思うんですよね。でもいざ日本語にしてみたら、言いたいことがだいたい同じでびっくりした(笑)。
Steven けっこう生々しいこと言ってるよね?
Rei そうだね。いまだに「え、このテーマを日本語で歌うの……? 嫌だよ!」と自分で思います(笑)。それでもやっていくうちにだんだん日本語の歌詞にも自信が持てるようになってきました。
「Be Nothing」に込めた思い
──「Be Nothing」は、「何者かであること」を強いられるような今の世の中で、それに対してうんざりする気持ちや葛藤みたいなものが、Reiさんの中にあってできた曲なのかなと思いました。
Rei ああ、なるほど。そうとも取れますね。でも、この曲を書いていた頃は「とにかく全部やめたい」という気持ちだったんです(笑)。僕だけでなく、人間誰しもどこかに属しているし、属していないと基本的に生きていけない動物じゃないですか。だからこそ、ときにはすべてを投げ打ってしまいたくなるというか。実生活でもYoheyに子供が生まれたり、マネージャーに家族が増えたりというポジティブな出来事もあれば、逆にStevenはメンタル的に落ちている時期だったりもして。この曲を作っていた時にちょうどみんなが……。
──環境が大きく変わる経験をしていたと。
Rei そうなんです。
Steven 僕、この曲がすごく好きなんですよ。以前はライブの終演後すぐに物販コーナーに移動してお客さんと話すのが楽しかったんだけど、セキュリティの関係でそういう機会が以前より減ったりしたことで、なんだかお客さんと距離ができてしまったように感じた。「なんのために音楽をやってるんだろう?」みたいな、目標が見えなくなる感覚でした。そういう気持ちをReiに打ち明けたら、その1週間後にこの曲のデモを持ってきてくれた。だから僕にとってはすごく意味のある楽曲です。
コロナ禍は明けた、この先どうする?
──前作「Turn」はタイトル通り“変化”や“転換”がテーマとなっていました。セルフタイトルとなる今作には何かテーマやコンセプトはあるんですか?
Rei まず「Turn」は、コロナ禍から抜け出したいという思いが全体のモチベーションになっていたんですね。それに対して今回のアルバムは、コロナ禍がほぼ明けたあとの戸惑いというか、自分の中で浮かび上がってきた「抜け出したけど、ここから先はどうする?」という疑問をテーマにしています。例えば「White Lies」の歌い出し、「What would you do if you weren' t afraid at all?(もし恐れるものがなかったとしたら、君はどうする?)」の部分はアルバム全体のテーマを象徴したフレーズと言えます。
──今まで自分たちを押さえつけていたコロナ禍という足枷が取っ払われた先で、自分たちは何をするのか?ということですね。サウンド面ではテーマなどありましたか?
Rei そこは特に決めていなかったけど、自分たちのバックグラウンドや影響を受けた音楽の生々しさは残しつつ、今のサウンドにちゃんと落とし込むようにしたいという話はしていました。僕ら3人とも、同じような曲を繰り返し作ることができない飽き性なんです。特にStevenはメジャーキーの強い曲やハッピーな曲が続くと「もっと悪いやつ! もっとダークで悪いやつが欲しいよ!」とか言い出すんですよ(笑)。
一同 (笑)。
Yohey ほかのバンドはわからないけど、僕らはそれぞれが出す音やフレージングにわりと口を出すんです。逆に自分がベースを弾くときに「ここは俺のテイストで」と思いつつ、「Reiはこういうベースラインが好きだよな」「Stevenはこうやって弾いたら喜びそう」とか2人のことを考えながらフレーズを決めることもあって。だんだんそこのギャップは少なくなってきているかもしれないですね。
Rei 確かに、僕が最初に聴かせるデモの段階でベースがYoheyっぽくなっていたり、ドラムソフトを選ぶときも「あ、このパワフルなドラム音色だったらStevenも喜びそうだな」って思いついたりすることはあります。曲によっては「もう、これで完成でもよくない?」というクオリティのデモができることもあって、それは自分でもやっていて面白いですね。
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Newspeakサウンドはどのように作られるのか