Newspeak|複雑な感情を「Turn」に凝縮 大混乱のコロナ禍でどうやって前を向いた?

2020年はコロナ禍突入後、配信形態での作品発表を積極的に展開してきたNewspeak。各楽曲は先の見えない状況の中で感じた混乱がストレートに反映され、「Another Clone」では怒りもありのままに落とし込まれている。こうした体験を経て完成したアルバム「Turn」は、前に進もうとするポジティブなムードに満ちた作品に仕上がった。音楽ナタリーではメンバー全員にインタビューを行い、コロナ禍での活動や当時の心境を振り返ってもらいつつ、アルバム「Turn」に込められたメッセージについて語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 山崎玲士

「大丈夫なんだ」と「希望に向かっていこうぜ」、どちらのメッセージを伝えるべき?

──アルバム「Turn」の歌詞を読みながら聴いていて驚いたのですが、6曲目「Great Pretenders」の歌詞の一節は、去年9月に発表されたEP「Complexity & Simplicity of Humanity (and That's Okay)」の収録曲「Complexity & Simplicity of Humanity」と一緒ですよね。

Rei(Vo, Key)

Rei(Vo, Key) そうなんです。EPを出す前に「Pyramid Shakes」「Another Clone」「Parachute Flare」「Blinding Lights」の4曲を連続で配信リリースしたんですけど、「Great Pretenders」もすでに完成していて。ただ、連続リリースの最後を「Blinding Lights」と「Great Pretenders」のどちらにするか、スタッフも含めて意見が真っ二つに分かれたんです。

──意見が分かれたのはなぜだったんですか?

Rei この2曲はそれぞれ異なるメッセージを掲げていて、どちらを先に発表するか悩んじゃって。振り返ってみると、アルバムに向けて曲作りを始めたのがコロナ禍に入る直前だったんですけど、制作中にウイルスが流行し始めてしまったんです。ライブもなくなっていくし、バンドの活動を進めていけなくなってしまった。それによって、何かコンセプトを決めてアルバムを作り出すことができず、そのときの感情に流されるがままに曲を作っていく状況になって、先ほど挙げた5曲ができあがったんです。そのプロセスを経て、「Complexity & Simplicity of Humanity (and That's Okay)」は「感情を持つこと自体、間違ってない」「それはみんなが経験していることだから大丈夫なんだ」ということが表現されたEPになったと思います。

──自分たちの中に生まれてきた感情を肯定する、というか。

Rei はい。EPをリリースした頃は「もがきながらも前を向きたい」という心情だったし、「Great Pretenders」も「We'll make better days」と歌うことで、“フリでもいいから前を向こう”というメッセージを込めたんです。でも当時は先のことがまったく見えない状況で、ワクチンも「接種できるまであと1、2年はかかるんじゃないか?」と言われていたんですよね。自分の中には「この状況下で、そういうことを歌ってもいいのかな?」という迷いがあったんです。

──なるほど。

Rei それに対して「Blinding Lights」は“光が見えて、そこに向かって泳ぎ始めている”という曲で。前を向きたいという意志はあるけど、まだ「~しよう」という段階ではないんです。

Yohey(B) だから、感情の動きとしては「Blinding Lights」がまずあって、その次は「Great Pretenders」、という順番になるんですよね。「Great pretenders」のように包容してくれるような曲、「Blinding Lights」のように“希望に向かっていこうぜ”と伝える曲のどちらを先に発表するのがいいか、さらに言えば「リスナーはどっちの優しさを求めているのかな?」というところで意見が分かれたんです。結果、メッセージ性を考えて「Blinding Lights」を先に発表したんですけど、代わりにEPのイントロとなる楽曲「Complexity & Simplicity of Humanity」に「Great Pretenders」の一節を持ってきて、作品タイトルに「(and That's Okay)」と付けることで、4カ月連続リリース後のEPのコンセプトがうまくまとまりました。それで「Great Pretenders」と「Complexity & Simplicity of Humanity」の一部歌詞が同じになったという流れです。

Rei 「We'll make better days」という言葉は、EPをリリースする時点では言えるテンションではなかったんです。あまりにも先が見えていなかったから。逆に言うと、こういう言葉はアルバムを発表するタイミングまで残しておきたかった。「Complexity & Simplicity of Humanity」は「これはまだ終わりじゃない、この先もまだ続いていく」というメッセージを込めた仕掛けだったんです。

──結果として「Great Pretenders」はアルバム「Turn」のリード曲になりましたけど、「Blinding Lights」と「Great Pretenders」のどちらを先に発表するかは、「Turn」の方向性を決めるきっかけにもなったわけですね。

Rei そうですね。具体的に話すと、アルバム「Turn」のリード曲は僕とYoheyが「Great Pretenders」派で、Stevenが「Blinding Lights」派だったんです。Stevenは「『Blinding Lights』の光に向かっていく力をアルバムまで取っておきたい」と言っていたんですけど、僕とYoheyは「Great Pretenders」のメッセージを残しておきたかった。最終的にリード曲は「Great Pretenders」になりましたけど、どちらを選んでも間違いじゃないし、逆でも全然よかったと思います。

Steven(Dr) うん、どっちもいい曲だしね。長い会話はいっぱいしたね。

Rei 本当にスタッフも含めて長い間話し合いました。バンド以外のことでもみんな悩んでいたし、いろんな思いがあったからこそ意見が分かれたのかも。

よくわからない、説得力のない「大丈夫」にはしたくない

──「Great Pretenders」の歌詞に「So baby it's Okay」(だからもう大丈夫だよ)という一節がありますけど、この「It's Okay」という部分がすごく重要というか。「大丈夫だよ」は単純な言葉だけど、Newspeakは「それをどうやって伝えればいいのか?」という過程や機微をすごく大事にしていると思ったんですよね。

Rei それは間違いないですね。最終的に「大丈夫だよ」と伝えるための過程すべてがアルバムやEPには表れているんじゃないかと。「大丈夫だよ」って特に理由はなくても、誰でも言われたら安心する言葉だと思うんです。だからこそ、僕らの言う「大丈夫だよ」がただのよくわからない「大丈夫」、説得力のない「大丈夫」にならないようにするため、いろんな過程を重ねていったんです。

Yohey(B)

Yohey 僕は普段、Reiが書く歌詞はあえて俯瞰しながら読むんです。メンバー同士の距離感として、入り込みすぎるのもよくないと思うから。だけど去年から今年にかけて制作した楽曲の歌詞は、同じ状況で苦しんでいる期間が長かったからか、俯瞰で読んでもスムーズに「ああ、そうやな」と思えたんですよね。「It's Okay」という言葉も同じ時間を過ごして、同じ景色を見ているからこそ、すごく重く感じる。今までは「言い回しが面白いな」くらいの感じだったけど、今回はすんなり入ってきました。

Rei そもそも、最近作った楽曲の歌詞はどれも「多くの人に伝わるように書こう」と考える余裕はあまりなかったんですよね。すごくパーソナルな内容ばかりだと思うんです。そんな歌詞でもYoheyが「わかる」と感じてくれたのは初めてかも。

──お二人は同じバンドにいるからこそ同じ景色を見ていたというのもあるでしょうし、コロナ禍に入ってからは世界中の人たちが同じものを見据えたり、同じものに怯えたりしながら過ごしてきたっていうのもありますもんね。

Yohey そうですね。だからこそ、Reiが自分自身の内側にフォーカスすればするほど、共感できる人が増えたのかもしれないです。

シンプルな言葉だけど、メッセージはとても複雑

──アルバムタイトルの「Turn」は「Great Pretenders」の「What if I turn」というフレーズから引用したと思うんですけど、この言葉をタイトルに掲げたのはどういった理由があったんですか?

Rei 言ってしまえば、今回のアルバムはすごく回りくどい内容なんです。いろんな感情を1つひとつ表現して、そのうえで「大丈夫だよ」と言っている。だからこそ、タイトルはシンプルにしたかったんですよね。スッキリしたかったというか、ひと言で言い切りたかった。そこで「Turn」という言葉がしっくりきたんです。

──「It's Okay」の話もそうですけど、複雑な感情を無視せず、どうやってシンプルな形に着地させるか……ということが、今回Newspeakにとって大きな目標になったということですよね。

Steven(Dr)

Rei はい。「Great Pretenders」の歌詞にも表れていますが、いろいろ考えすぎちゃう自分が嫌になって、「しんどいなあ」と感じる日々が続いていたんです。でも、そういう感情をタイトルにはしたくないし、どうしようか考えているとき、「Turn」という言葉はひと言でいろんな意味が包括できると思いついて。「振り返る」「曲がる」「順番」「ターニングポイント」とか、名詞も動詞も全部ひっくるめて「Turn」に凝縮できる。僕自身も制作中、これまでの人生を振り返る機会がいっぱいあったし、遠回りもしたし。リスナーには「Turn」という言葉を通して、このアルバムで表現したいろいろな感情に入り込むことができればいいなと。

Steven 「Turn」はシンプルだけど、意味がいろいろあるから説明しにくい言葉だと思う。例えばレコードプレイヤーの上でアナログ盤が回るっていう意味の「Turn」もあるし。だから、このアルバムのタイトルに込められた意味も1つだけではないんだよね。

Rei そうそう。

Yohey あと、今はテレビもスマホも、正しいか間違っているかを問わず、いろんな情報がブワーッと煩雑に入ってきますよね。そういう中で「Newspeakがアルバムを出します。『Turn』です」と言ったときのシンプルさは強みになると思います。「Turn」は英語をあまり知らない日本人でも、どんな意味が込められているかイメージできる言葉だから。そのわかりやすさと、内側にあるメッセージ性がすごくいいです。

Rei いいこと言うね。今の、僕が言ったことにしてもらいたい(笑)。