音楽でこの言葉を選べた意味
──「それでも僕は歌わなくちゃ」や「この劣等感を救ってくれ」もそうですけど、アルバム全体としてはシニシズムをコンセプトに掲げながらも、どこかに希望を見出したい意識が働いてるのかなと思いました。
思うことがあっても口にできないから音楽にするというのもまさにそういうことで、音楽を通じて許されたいとか救われたいという感情が自分としては強いんだと思います。客観的に見ると、それが歌詞やサウンドににじみ出るのかなとは思うんですけど、作ってるときはそういうことを考えられるほどの余裕がないので、よくわかりません。
──例えばご自身の中で聴いて救いを感じた音楽はありますか?
救いなのかはわからないですけど、僕は昔からBUMP OF CHICKENの「グロリアスレボリューション」という曲の歌詞がすごく好きなんです。「弱音という名の地雷原を 最短距離で走ってこい」とか「凡人の一般論は アイロンかけて送り返せ」という歌詞を聴いて、「音楽ってこういうことを言ってもいいんだ!」という衝撃がすごく大きくて、それが自分の中でのクリエイティブのベースになってると言うか。この曲に出会ってなければ、僕はそれまで認識していた音楽の演じられた部分だけが生きる上でのすべてだと思っていただろうし、救われたという表現が適切かはわからないですけど感謝してます。
──そういう体験があったからこそ、今作でも歌詞にご自身のシニシズム的な主義主張を盛り込むことができたんでしょうね。
その頃の衝撃を思い返してるのかもしれないですね。あのときの気持ちをもう一度味わいたいと言うか。
──「い~やい~やい~や」にしても「脱法ロック」にしても、聴く人によっては「よくぞ言ってくれた!」と共感できるものだと思うんですよね。それは誰かにとっての救いになってるのかもしれないですし、それを実感する瞬間もあるのでは?
少なくとも「い~やい~やい~や」とか「脱法ロック」は人の背中を押すような言語体系をしてないと思うんですけど、その中で少なからず救われた人がいるとすれば、それは音楽という表現でしかできないことだと思うし、音楽でこの言葉を選べた意味があったんだなと僕自身も救われる瞬間かもしれません。これが例えば詩集やゲーム、映画で同じことを言っても、きっと受け入れてもらえないでしょうから。
Neruとしての活動を辞めることはない
──改めて今回のアルバムがどんな人に届いてほしいですか?
僕にどこまでその使命が果たせるかは定かではないのですが、聴いてくれた人たちにボカロシーンの変化を感じてもらえたらそれ以上、幸せなことはありません。シーンから自然と離れていった人たちが聴いて「Vocaloidって今こんなことになってるんだ」と驚いてくれたらうれしいです。
──新しい表現方法を見つけてシーンから離れていった人もいる中で、Neruさんは「CYNICISM」というタイトルを付けながらもこのシーンで音楽を作ることを大事にされていますよね。それは今後も変わらない?
それは間違いないと思います。もし新しい表現方法が見つかったとしても、Neruとしての活動を辞めることはないですね。もちろん新しい表現にも興味はあるので、そっちをやりつつ、Neruとしても曲を作り続けると思います。
──こうやってお話を伺ってみて、Neruさん自身はシニシズムとはかけ離れたスタンスで活動されている印象を持ちました。すごく真摯にシーンと向き合っているクリエイターだと思います。
いやあ、全然真摯じゃないですよ(笑)。ただ僕が考えすぎなだけなんだと思います。
- Neru「CYNICISM」
- 2018年3月28日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
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初回限定盤 [CD2枚組+DVD]
3240円 / GNCL-1277 -
通常盤 [CD]
2160円 / GNCL-1278
- DISC 1 CD収録曲
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- CYNICISM is(instrumental)
- SNOBBISM(feat. z'5)
- い~やい~やい~や(feat. z'5)
- くたばろうぜ
- 敗者のマーチ
- 脱法ロック
- 失踪チューン
- それでも僕は歌わなくちゃ
- この劣等感を救ってくれ
- ニヒルと水没都市(feat. z'5)
- 捨て子のステラ(feat. z'5)
- ねえ、レイン(feat. z'5)
- なんて物騒な時代だ
- 病名は愛だった(feat. z'5)
- DISC 2 CD収録曲(初回限定盤のみ)
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- 病名は愛だった(Neru Remix)
- い~やい~やい~や(Neru Remix)
- SNOBBISM(Neru Remix)
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 脱法ロック
- 捨て子のステラ
- 病名は愛だった
- い~やい~やい~や
- くたばろうぜ
- Neru(ネル)
- ボーカロイドプロデューサー。2009年に作曲活動を開始し、2011年、18歳のときにニコニコ動画に投稿した「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」が瞬く間に人気を集める。主に鏡音リン・レンを用いて楽曲制作をしており、「ロストワンの号哭」「命のユースティティア」など100万回以上の再生数を誇る楽曲を多数投稿。2013年3月には初の全国流通アルバム「世界征服」を、2015年9月にはNBCユニバーサルエンターテイメントからフルアルバム「マイネームイズラヴソング」をリリースした。2018年3月、「脱法ロック」「病名は愛だった」といった人気曲を収録したフルアルバム「CYNICISM」をリリースする。