音楽ナタリー Power Push - Neru
若きスタークリエイターの不思議で枯れないモチベーション
ボーカロイドプロデューサー・Neruのフルアルバム「マイネームイズラヴソング」が9月30日にリリースされる。
2011年、18歳のときに押入れP名義で発表した楽曲「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」がニコニコ動画で数十万再生を集め、以降ヒット曲を連発、2013年には初の全国流通盤「世界征服」を発表したNeru。そんな彼の2枚目のフルアルバム「マイネームイズラヴソング」は、過去の作品とトーンやマナーを同じくしながらも、これまで以上にハードなギターロックサウンドに乗せて、やはりこれまで以上にダーティで強烈な言葉を叩きつける楽曲群が居並ぶ1作となっている。
今回音楽ナタリーではアルバムリリースを記念してNeruへのインタビューを実施。「マイネームイズラヴソング」の聴きどころとともに、人気ボカロP・Neruの誕生秘話に迫った。
取材・文 / 成松哲
僕もこのシーンでちやほやされたい!
──今回Neruさんを取材するにあたって、まず気になったのが年齢なんです。
そうですか?
──プロフィールを調べていたら、2010年に大学受験に専念するため一時音楽活動を休止する、とあって。
そうですね。
──ということは、この人若いよな、と。
あはははは(笑)。
──今、おいくつなんですか?
23歳です。
──やっぱり若い(笑)。で、高校時代からボカロPをやっていた若者ってどんな人なんだろう?って気になったんです。
なるほど。
──楽器を始めたのはいつだったんですか?
実はついこの間、ハードディスクに眠っていた人生で初めて作った曲の音源が見つかったんですけど、そのファイル制作日が2009年だったから、6年前ですね。17歳のときにギターを始めました。
──あっ、ギターを握っていきなりオリジナル曲を作ったんですか?
「作曲をやりたいな」と思って、シーケンスソフトとか音源を集めて曲を作り始めたんですけど、その過程でギターの音色が必要になって「ギター買わなきゃ」って感じで始めたので。だから楽器を始めた年齢は、高校で軽音楽部に入って楽器を手にした人とそんなに変わらないと思うんですけど……。
──始めた動機が明らかに違う(笑)。
楽器の弾き方を覚えることよりも作曲の仕方を覚えることが先だったので。小中学校の頃から音楽を聴くのはもちろん好きだったんですけど、一番の趣味っていう感じでもなくて。ゲームのほうが全然好きでしたし。
──ではなぜ17歳のNeru少年は作曲をしようと?
当時のネットが好きな高校生にとってニコニコ動画で人気のボカロPってちょっとカリスマ的な存在だったんですよ。それこそプロのロックバンドを見て「僕もああなりたい!」って思って軽音楽部に入る高校生のように、ニコニコ動画のボカロカテゴリで活躍しているボカロPに憧れて音楽を始めるユーザーも多くて。で、例に漏れず「僕もこのシーンでちやほやされたい!」「じゃあ作曲をしなくては」と。
──具体的に憧れのボカロPっていました?
今ももちろん大好きな方なんですけど、buzzGさんですね。ニコニコ動画を使い始めてすぐ、buzzGさんの曲に出会ったんですけど「めちゃめちゃカッコいいロックを作ってる!」と思って。で「僕もこうなりたい」って曲を書き始めた感じですね。「僕が新しいbuzzGになるんだ!」って(笑)。
──なるほど(笑)。確かにNeruさんのサウンドを聴くとbuzzGさんの影響下にあることは見てとれるんですけど、でもbuzzGさんってLUNA SEAの真矢さんとアルバムで共演したりバンド指向の強い人ですよね。その彼に憧れてもバンドを組もうとは……。
考えてなかったですね。「buzzGさん、カッコいい!」っていうのと同時に「(初音)ミクちゃんかわいい」とも思っていたので。……いや、むしろ逆だったような気もします。ポップアイコンとしての初音ミクに惹かれてニコニコ動画を観てみたらbuzzGさんのようなカッコいいクリエイターがいたって感じで。
数学的に割り切れることを突き詰めるのが好きなんです
──繰り返しになるんですけど、17歳になるまで音楽のキャリアはなかったわけですよね?
まったくなかったですね。
──なのにいきなり作曲に取り組むってかなりすごいことだと思います。例えば子供の頃ピアノを習っていたなら、スケールやカデンツの仕組みも多少は知っているだろうし、メロディにコードを当てることもできるのかな?っていう気がしますけど。
ただ僕、理系脳というか、数学的に割り切れたり、理屈で説明が付いたりすることを突き詰めるのが好きで。だからコードブックや作曲の入門書なんかを買ってきて、それを読みながらメロディとコードの仕組みを勉強するのが苦じゃなかったんです。自分で言うのもなんなんですけど難なくこなせてたかなっていう気はします。さっきお話した最初に作った曲の音源も、改めて聴き直してみても曲としては一応成立してましたし。制作環境は……なんというかずさんでしたけど。
──ずさん?
その頃は初音ミクと無料のシーケンスソフトと無料の音源とギターを使ってたんですけど、ギターをパソコンにつなぐときはオーディオインターフェイスを通さなきゃいけない、みたいなことを一切知らなくて。「曲を作りたい!」っていう衝動の趣くままに、パソコンのマイクINにシールドを直結させて録ってたから、まあ音がヒドかった。あとアコースティックギターは打ち込みなんですけど、なんか輪ゴムみたいな音がしてましたし(笑)。
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- ニューアルバム「マイネームイズラヴソング」2015年9月30日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 「マイネームイズラヴソング」
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3240円 / GNCL-1258 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2160円 / GNCL-1259 / Amazon.co.jp
収録曲
- 世界を壊している
- 人生は吠える
- イドラのサーカス
- アノニマス御中
- ばいばい、ノスタルジーカ
- ハリボテ
- FPS
- 脱獄
- 洗脳
- テロル
- マイネームイズラヴソング
初回限定盤特典CD収録曲
- 再教育
- 世界を壊している
- 東京テディベア
- テロル
- ばいばい、ノスタルジーカ
- ハウトゥー世界征服 [PinocchioP remix]
- かなしみのなみにおぼれる [n-buna rearrange]
- 延命治療 [150P giga orchestric arrange]
- 少年少女カメレオンシンプトム [おさむらいさん rearrange]
Neru(ネル)
ボーカロイドプロデューサー。2009年に作曲活動を開始し、2011年、18歳のときにニコニコ動画に投稿した「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」が瞬く間に人気を集め、現在までに累計数百万再生を集めるビッグヒットを記録する。以降「ハウトゥー世界征服」「ロストスワンの慟哭」などミリオン再生級のヒットを連発し、2013年には初の全国流通アルバム「世界征服」を発表。そして2015年9月、NBCユニバーサルエンターテイメントからフルアルバム「マイネームイズラヴソング」をリリースする。