枠を作ることで自由を手に入れた
──これまでの3作のEPを改めて振り返っていただきたいのですが、まず「新東京 #1」は今思うとどのような作品でしょうか?
杉田 新東京イズムみたいなものが一番色濃く出ているのが「#1」だと思います。ここに入っている4曲を通して自分たちの方向性が定まったというか、「これで俺らはやっていくんだ。これが俺らの美学なんだ」ということがわかりましたね。
田中 いつでも「#1」に戻ってくることができる。最初に出た作品だけど、すでにベスト盤みたいな感じですね。
──「#2」はいかがですか?
大倉 僕は「#2」、けっこう好きなんですよね。「#1」で新東京イズムを確立したうえで、歌詞やミックスの面でも「ちょっとズラそうぜ」という感じがあって、そこが好きです。
保田 僕も、EP単位で言うと「#2」が一番好きで。「#2」、とにかくクソカッコいいんですよね(笑)。
杉田 飛行機で言うと、機体が安定してきたという感じがします。「#1」は飛び立った瞬間で、「#2」はようやくシートベルトを外した感じ。
田中 それにしても、めちゃくちゃな飛び方しているけどね。で、「#3」はほとんど墜落しちゃっているという。
──「#3」で何が起こったのでしょうか?
保田 「#1」と「#2」は同じ系譜なんだけど、「#3」からは毛色が違う感じなんですよね。
杉田 「#3」に入っている「sanagi」という曲は、もともと「#2」に入れる予定だったんですよ。でも、「この曲はどうしてもエレクトロでやりたい」ということになって、「#1」と「#2」で作った核を持って「#3」ではエレクトロの世界に踏み込んでいき、今度出る「#4」ではポップスの世界に踏み込んでいく。こうしてコンセプトを設けることによって、逆にやれることも増えたと思います。
──先ほど田中さんもおっしゃっていた、“洗練”と“やりたいこと”の矛盾を解消していく方法を見つけたということですよね。
杉田 自分たちがやりたいことばかりをやることで、「新東京、こっち路線に行っちゃったんだ?」と思われるのも嫌なので。でも、EP1作ごとに世界観を決めちゃえば、そういう恐怖も取っ払われる。枠を作ることで手に入る自由もあるんですよね。
──歌詞に関して伺うと、「#1」から「#3」へと作品を経るに従い、街などの大きなものをとらえていた視点が、徐々に、より個人的なもの、人間の内面的なものへとフォーカスしているような印象を受けました。杉田さんはこの3作の歌詞を通して意識されていた変化はありますか?
杉田 「#1」は僕が全曲歌詞を書いているわけではなくて、「Cynical City」と「The Few」の2曲だけ書いていて。「Cynical City」は一応、街を舞台にはしているんですけど、鳥の目で見た自分とか、街にいる個人やちっぽけな2人にフォーカスしているから、そういう意味では、ずっと“人”を中心に据えてはいるのかなと思います。「The Few」は映画「ミッドナイトスワン」にインスピレーションを受けて、マイノリティにフォーカスしていたし。僕だけじゃなくて、みんなそうだと思うんですけど、人間関係って生活と切っても切り離せないし、常に付きまとってくるもので。だからこそ、常に自分の表現の核になっているのかなと思いますね。
J-POPや日本の歌謡曲に感じる寂しさ
──先ほど少しお話に出ましたが、これからリリースされる「新東京 #4」はポップスをコンセプトにしているということですよね。すでにリリースされている「曖させて」「ショートショート」「ポラロイド」の3曲を聴きましたが、やはり「#3」とは異なる質感を感じます。「ポップス」というコンセプトはどのように生まれたのでしょうか?
田中 J-POPや歌謡曲みたいな、メロディを基調とした音楽が好きなんです。例えば昭和歌謡で、雰囲気は明るくても、メロディがちょっと悲しかったりするものってあるじゃないですか。そういうものを、すごく美しいなと思う。J-POPや日本の歌謡曲って、どこか寂しさを感じさせると思うんですよね。しかも、それはメジャーのJ-POPに限った話ではなくて。僕はSoundCloundに上がっているインディーズのポップスや音大に通う学生が作ったような音楽を聴くのも好きなんですけど、そういう音楽にも、同じようなことを感じることがあるんです。やっぱり、日本人が好むメロディが好きなんだなと思います。今までもサビのメロディは常に意識してこだわっていたんですけど、今回はもっとそこにフォーカスして、アレンジや歌詞もそこを軸に作ってみたいと思ったんです。
大倉 個人的な意識としては、「#3」からの揺り戻しという部分もありますね。「#3」で複雑なことをやったぶん、「#4」ではすっきりさわやかにいこうという。
──歌詞のムードも「#3」までとは違いますよね。言葉の明度が高いように感じます。
杉田 そうですね。最近は比較的悩んでいないし、つらいことも少ないから、歌詞も明るくなっているのかなと思います。あと、特に「ポラロイド」は歌詞を書くうえでトシとけっこう話をしたんです。「この言い回しだと、春音が伝えたがっているニュアンスは伝わらないかもしれないよ」とか、そういうことをしっかり言ってもらって。せっかくポップス路線でやっていくのであれば、みんなに伝わるような言い回しを意識したり、シンプルな言葉に落とし込んだりする部分があってもいいのかなと思ったんです。「#3」はもう、聴いたら不幸になるんじゃないかってくらい、好き勝手やったので(笑)。
一同 (笑)。
杉田 結果として、「ポラロイド」の歌詞は今までで一番評判がいいんですよ。言葉とメロディの親和性が高いし、シンプルな言葉や明るい言葉が多いからだと思うんですけど、手応えを感じました。
──「最近悩んでいないしつらいことも少ない」というのは、裏を返すと、これまではそうした精神状態が歌詞に反映されていた部分もあるということですか?
杉田 そうですね。人はみんな精神状態に波があると思うんですけど、創作がはかどるのって、バッドに入ったときなんです。全員そうだと思っていたんですけど、どうなんでしょうね?
──そういう話はよく聞きますね。
杉田 少なくとも僕個人としては、めちゃくちゃ落ち込んで「もう死にそうや」となっているときのほうが、胸をぐちゃぐちゃにかき回す何かがある分、言葉も出てくるし、自分が置かれている状況を言葉にしたいと思う。だからこれまで、明るい歌詞が出てくることがあまりなかったんです。
──「最近は比較的悩んでいない」とのことですが、そういった状態になることで逆に歌詞を書くことが難しくなりませんか?
杉田 そう、逆に難しいんですよ。つらいことは、グチャグチャの頭を整理するという意味でも、言葉に書き出す習慣がついていて。それと比べると、楽しいことや幸せなことはすでに完結してる部分もあって、そこが難しい。でも、そうは言っても「ポラロイド」も端々には怪しい言葉を忍ばせているし、手放しで幸せや楽しさを感じているわけではないんですよね。つらいことがまったくないことが幸せなんじゃなくて、つらいことへの向き合い方を覚えたり、つらい気持ちを飼い慣らす方法を見つけたときに、人は明るくなれるんだということを描いている曲なんです、「ポラロイド」は。なので、この曲にも今までと同じ自分は表れているのかもしれないです。
──「#4」を通して聴くのが楽しみです。あと、YouTubeの公式チャンネルで「ポラロイド」を題材に「肉を焼いてみた」という動画を上げていましたよね。あれはいったいどういったアイデアで……?
田中 (笑)。あれはなんと言うか……僕らは1曲に対してものすごい熱量を注いで作るんですよ。それなのに、リリース頻度が早いから、「ポラロイド」の歌詞じゃないけど、すぐに忘れ去られてしまうという部分もあって。もっといろんな角度から曲を楽しんでもらいたいという気持ちがあるんですよね。何度もみんなの耳に入ってほしくて。
杉田 そこは、会社としての戦略的な面もあるよね。
──リリース頻度の早さについては、こだわりがあるんですか?
田中 こだわりというよりは、「できるから出しちゃう」という感じですね。特に、次の作品で作りたいものがあると、できるのが早くなる(笑)。「早くエレクトロやりたいな」と思いながら作ったから「#2」を作るのは早かったし、「早くポップスやりたいな」と思っていたから「#3」を作るのも早かった(笑)。でも、最近はもうちょっとリリース頻度を落とそうかなと思っているんです。みんなが追いつけなくなっちゃうのはもったいないし、1曲1曲をちゃんと楽しんでほしいので。
プロフィール
新東京(シントウキョウ)
杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)、保田優真(Dr)、大倉倫太郎(B)からなる4人組バンド。2021年4月の結成後、6月にEggsが主催する23歳以下限定の音楽コンテスト・TOKYO MUSIC RISEにてグランプリを獲得し、耳の早いリスナーから注目を浴びる。8月に東放学園主催のイベント「コンサートのつくりかた」にて、東京・Zepp Tokyoで初ライブを行い、その後デビューシングル「Cynical City」を配信リリースした。2022年2月には自ら運営する合同会社・新東京合同会社を設立し、8月には「SUMMER SONIC 2022」に出演。同年12月に初のワンマンツアー「NEOPHILIA」を東名阪で行った。
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