新東京インタビュー|現役大学生4人が描く、都市の持つ美しさと残酷さ (2/2)

冷たくて排他的な街・東京

──新東京という名前のバンドがリリースする1曲目のタイトルが「Cynical City」というのは、すごく象徴的なことのように感じたのですが、歌詞のコンセプトとして「東京という都市の在り様を描きたい」という思いがあるのでしょうか。

杉田 「Cynical City」に関しては、作詞したときの記憶があまりないんですよね……(笑)。歌詞を書くこと自体が初めてだったので、本当に手探りで。ただ、僕の歌詞に関しては、都市が持つ冷たさを描いているというのは終始一貫しているかもしれないです。僕と保田は東京出身なんですけど、僕は東京に対してあまり温かいイメージを持っていなくて。冷たくて排他的な街という印象があるんです。「Cynical City」の歌詞は、そんな東京に暮らす2人の人間にスポットを当てて書きました。

──きらびやかな街としての東京ではなく、冷たくて薄暗い部分を持った街として東京を描いていると。

杉田 そうですね。冷たくて暗い街の中で、街灯が2人だけを照らしているような。そういうイメージです。

新東京

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──長年東京に住んでいて、そういう冷たさを実際に感じているんですか?

杉田 感じてますね。ただ、そういうひんやりしたところに美しさを感じることもあって。僕は日々生きていく中で、心に残ったり美しいなと思ったりした情景を書き貯めていて、それをもとに歌詞を作ることがあるんです。なので、東京での自分の生活感も無意識のうちに表れているかもしれない。「都市を描く」ということをコンセプトとして掲げているわけではないんですけど、自分にとって身近な風景や思いを言葉にしていくと、自然とこういう歌詞になるんだと思います。

「The Few」は一番の自信作

──ではここからは新曲「The Few」についてお聞きします。こちらも「Cynical City」と同じく、杉田さんが作詞、田中さんが作曲を担当されていますが、この曲はどのように作っていったんですか?

田中 「The Few」は、エレガントな雰囲気の曲にしたいと思って作りました。大人の女性をイメージして、グランドピアノの音を入れたりして。最初はサビのメロディがあまりしっくりきていなかったんですけど、杉田が「めっちゃいいじゃん」と言ってくれたので、もう一度聴いてみたら確かにめちゃくちゃよくて(笑)。このバンド以外のものも含めて、今まで自分が作ってきた曲の中で「The Few」が一番好きですね。アレンジや、杉田が書いてくれた歌詞も含めて、一番の自信作。すべての音にこだわって、食事も睡眠もろくに取らずに、ずっとこの曲の作業にかかりきりだったので、完成したとき自分で泣きましたもん(笑)。

杉田 はははは。それは初めて聞いたわ(笑)。でも田中は本当に病的なまでにストイックなんですよ。ほとんど同じデモ音源が送られてきて、「どっちがいい?」と聞かれることがあって。「わかんないよ!」っていう(笑)。

田中 最終的にデモが50個くらいできたんですけど、また次の日の朝に聴くとなんか違う気がして、結果的に「デモ51」ができるみたいな(笑)。それくらいこだわって作った曲です。

保田 僕もこの曲は大好きです。「Cynical City」のビートは、とし(田中)に指示されたものを再現して作ったんですけど、「The Few」は自分が作った大枠をとしに渡してアレンジしてもらって……という感じで。今作は前作よりも携われてうれしかったです。

杉田 この曲のドラムは「The Few」の持つ壮大さにかなり貢献してるよね。

美しさの裏側にある残酷さ

──歌詞に関してもお聞きしたいのですが、この曲はタイトルが“少数派”という言葉を意味している通り、いわゆる“マイノリティ”と言われる人々について書かれた曲ですよね。なぜそのようなテーマにしようと思ったんですか?

杉田 僕は本や映画などに触れることで創作意欲を掻き立てられるタイプなんですけど、「ミッドナイトスワン」という小説を読んで、ものすごく感動したんです。それで、1人の表現者としてそのときの気持ちを歌詞として残しておきたいと思ったのがきっかけです。

新東京

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──確かに歌詞の中に「白鳥」などのワードがちりばめられていますね。

杉田 そうなんです。いろんな“少数派”の人たちの美しさを描きたくて。もちろん美しさだけではなく、弱さや、自分を強くみせようとする部分も含めて肯定したいと思って歌詞を書きました。サビを疑問形で構築したり、「はじきもの」という自分が作った造語も入れたりしていて。

──その「はじきもの」という言葉が自分もすごく印象的で。いわゆる“マイノリティ”と言われる人たちを「はじきもの」という言葉で表現するのは、ある意味社会の残酷さのようなものがそこに描かれている気がしたんですよね。

杉田 そうですね。「ミッドナイトスワン」を読んだときに「残酷で救われないな」という気持ちになったので、その思いは多分に含まれていると思います。東京という街は、にぎわっている時間帯はすごくきらびやかだけど、その裏側には残酷で生々しい現実もあって。美しく見えるものの裏側にある残酷さのようなものに、僕は敏感なのかもしれないです。

──それは「Cynical City」での都市の描き方と通じる部分があるかもしれないですね。

杉田 そうかもしれないです。ただこの曲の歌詞は、最後に「靄をかける言葉はもう吐かない」というポジティブな言葉を持ってきていて。社会にある残酷さを描きつつ、最終的にはいろんな“少数派”の人たちを勇気付けられるような歌詞にしたいと思って作りました。

「時計じかけのオレンジ」のオマージュ

──皆さんはジャケットやミュージックビデオも自分たちでアイデアを出されているんですよね。

田中 テーマや構図、衣装などすべて自分たちで決めています。「The Few」のジャケットは、人の持つ二面性を、鏡を使って表現していて。見た目のインパクトも大事にしつつ、楽曲の持つイメージを忠実に伝えることを意識ながら考えています。

新東京「The Few」配信ジャケット

新東京「The Few」配信ジャケット

──「Cynical City」のMVもビジュアルがとても印象的です。全体的にすごくスタイリッシュだけど、4人の格好は白の全身タイツという。

田中 あれは僕が考案したんですけど、みんなずっと反対していて(笑)。「絶対カッコいいから」と言って無理やり押し通しました。

保田 実際、いざ撮ってみたらめちゃくちゃカッコよかったしね(笑)。着た瞬間に「これだ!」と思いました。

杉田 カメラの前に置いたコップに牛乳を1滴ずつ垂らして、ラストのサビ前で一気に飲み干すというシーンがあるんですけど、実は映画「時計じかけのオレンジ」のオマージュなんです。映画に出てくる、全身真っ白な犯罪集団がいつも牛乳を飲んでいるので、そこから着想を得て、こういう仕掛けを取り入れました。ワンカットで撮影すると、展開がなさすぎて、観ていて飽きてしまうと思うんですけど、この仕掛けによって視覚的な変化を作ることができたので、いいアイデアだったと思います。

早く音楽だけで生活できるように

──では最後に、今後の目標やビジョンを教えていただけますか?

杉田 僕は大学を辞めて、音楽だけに集中できるようになりたいです。「音楽で生きていきたい」と思うなんて1年くらい前まではまったく想像していなかったけど、このまま自分たちを貫いていけばできるんじゃないかと思ってます。

保田 僕はとにかく新東京でめちゃくちゃ成功したい。個人的にプレイヤーとしてうまくなりたいという思いもあるけど、まずはバンドが大きくなればいいなと思ってます。

田中 僕は曲を作る側なので、自分が作った曲をたくさんの人に聴いてもらって、できるだけ多くの人に好きになってもらえたらうれしいです。

──大倉さんは?

大倉 ……僕も大学を辞めたいです。

──大倉さんの「大学を辞めたい」はまた違う意味のようにも聞こえますけど(笑)。

大倉 ただ単に大学を辞めたいだけですね(笑)。僕は新東京を通じていろいろ面白い曲に触れられたらいいなと思います。これからバンドを通じて新しい音楽に出会ったり、学べることは多いと思うので。

──新東京が考える「バンドとしての成功」って具体的にどういうレベルのイメージなんでしょうか。

大倉 「Mステ」のオファーを断れるかどうか。

杉田 尖りすぎだって(笑)。そんなこと言ってると本当に出られなくなるから(笑)。

田中 俺は「しゃべくり007」に出たいなあ。

──意外とそういう意欲もあるんですね(笑)。

田中 真面目なことを言うと、アジアツアーとかしたいですね。海外でライブをできるようになりたい。

杉田 大きいフェスに出て、ワンマンもできる限り大きな会場でやって、とにかく早く音楽だけで生活できるようになりたいです。

新東京

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プロフィール

新東京(シントウキョウ)

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)、保田優真(Dr)、大倉倫太郎(B)からなる4人組バンド。2021年4月の結成後、6月にEggsが主催する23歳以下限定の音楽コンテスト・TOKYO MUSIC RISEにてグランプリを獲得し、耳の早いリスナーから注目を浴びる。8月に東放学園主催のイベント「コンサートのつくりかた」にて、東京・Zepp Tokyoで初ライブを行い、その後デビューシングル「Cynical City」を配信リリース。同年10月に2ndシングル「The Few」を発表する。