自己表現よりもまず型から入る
——リリーさんはライブのときには何を歌ってるんですか?
リリー:スキャットっていうか流れに任せて声を出すのが多いですね、いわゆる詩吟っていうのは漢詩とか和歌とかを歌うってものなんですけど、今は即興が多いから。
エリー:でもみんながポケットを作るんですよ。即興やってて、今だ!っていうときにみんながさっと引いて、そこでリリーちゃんが詩吟を一句吟じたりするときもある。
——そのときに吟じる詩吟はスタンダードなものですか?
リリー:はい。あとみんなの曲に合わせて、詩吟で詠ってる詩を合うように詠ってみたりするときもあるし。
——詩吟の詩というのは、どんな内容のものが多いんでしょうか?
リリー:私が選ぶ昔の詩って、例えば「庭の面は まだかわかぬに 夕立の 空さりげなく 澄める月かな」とか。夕立が降って上がって、まだじめっとしてるんだけど、しれっと月が輝いてますとか、こういうのいいと思うんですけど(笑)。歴史の本とか漫画読むとかにちょっと似てると思うんです。その状況を思って、そのとき作った人はどう思ったのかっていうのを考えて、じゃあ自分はどうなのかって照らし合わせて考え直したりすることが、自分を考え直すきっかけになったりする。“私がいなくなる”っていうのが重要なんだと思います。“私が私が!”っていうものではなくて。すごく広い捉え方で歌えるし、聴けるんじゃないかなって思うんですけど。
——今のはスタンダードな詩吟の話ですよね。
リリー:そうですね。
——それと共通するものがneohachiにはあるということでしょうか?
リリー:そうかもしれないですね。
——それは歌詞で自分の思いを伝えたい、という欲求とは違いますよね。
リリー:自分を表現しようと思い始めると、一気に崩れちゃうんですよ。まず形から入るのが基本というか。私が歌詞から入ると技術がものすごい下がっちゃって、虫けらみたいなレベルになっちゃうんで。だからまず型から入って、中を味わう。普通は情感を得てから型ができるっていう風になりそうなんだけど、まず型から真似してそこから味わっていくって感じなんですよね。なんか私の場合は“心をこめて歌えば伝わる”っていうのじゃなくて“型をうまくやれば伝わる”っていうほうが信じられる気がします。
太古の記憶にアクセスする
——エリーさんは、リリーさんの詩吟ボーカルというスタイルについてはどう感じていますか?
エリー:おもしろいなーって(笑)。こんなのあんまりないし、あんまり和歌とか知らないけど、説明してもらうとものすごい単純だったりして。「大根の葉っぱが川を流れる速さって速いよね!」みたいなだけのストーリーを、そんなに心をこめて言うんだ? みたいな(笑)。
リリー:「流れゆく 大根の葉の 速さかな」っていう詩があって。
エリー:それをね、3分くらいかけて言うんですよ。
リリー:名句だよね、あれは(笑)。
エリー:もう、流れていっちゃってるじゃんっていうのを、まだ言う?みたいな。そういうものの見方をしてる人がいたのかな、っていうことを教えてくれる。
——なるほど。
エリー:だからこっちは、そのストーリーを盛り上げるための伴奏を作る。「そうだよね、葉っぱ流れるの超速いよね!」みたいに、まずいっしょに感動して、じゃあ音でどうやれば速さを感じられるんだろうって考えるのが楽しいんです。早弾きをすればいいってわけじゃないと思うし、音色だけでもできるかもしれないしっていうのを、即興で対話していくのが楽しくてやってる。その世界を音で作るっていうか。
——でもその世界というのは、エリーさんのものでもリリーさんのものでもないわけですよね。
エリー:そう、誰かの記憶にアクセスする。
リリー:でも、それすごい古い人だし、逆に言えばみんなにアクセスできると思う。
エリー:うん、みんな速いよね。
リリー:(笑)絶対、大根の葉の速さわかるでしょ?っていうような。
エリー:気付いた人はその人しかいなかったかもしれないけど、言われてみれば速いよね。
リリー:それは個人的な思いを伝えるよりも、ずっと面白いことだなって。そうやって、でっかいことを表現したいっていうのがあるんですよね。
——それは確かに普遍的だし、ある意味とても大きいですね。
エリー:そう、だから地球みたいになりたいって。
——イタコっぽい感じもありますね。どこか大きな力に操られているような。
リリー:正直ありますよ(笑)。イタコはちょっと暗い感じがするけど、もっと楽しい方向で。自分が楽しい音楽の一部になれるっていうのが、ものすごい生きてる感じがして。
——なるほど。
リリー:ちょっと宗教っぽい話になりますが(笑)自分では意識しない生命の力を感じたり。人類の記憶にアクセスするような感覚が楽しいんです。例えばディレイをかけまくってるときの感覚はやまびこに近くて。例えば流れてる川を見てるだけで安心するとか、揺らいでる炎を見てるだけで安心するって、これたぶんほとんどの人が安心すると思うんですけど。そういうものに似た安心感が得られるところまで人力で表現できたらいいなって思うんですよね。
——2人は信仰はあるんですか?
リリー&エリー:ないです。
リリー:アニメ見るくらいです。
エリー:宗教には入ってない。でも興味はすごくある。
——はい。
エリー:やおよろずの神だよね。
リリー:みんなが心に持っている。
エリー:神様はみんなの心に。
——どうもありがとうございました。
コメント映像
CD収録曲
- Hey! It's fun
- rhythm of wonder
- 雑興 - zakkyo
- 天伝ふ - amatsutoh
- singing for the moon in summer
neohachi『MUSIC FOR AIR MAIL』
発売中 / 1000円(税込) / NHCD-0001 / neohac records
CD収録曲
- EAR TO DEEP ~耳をすませば
- LOVE MORE THAN YESTERDAY ~昨日にまさる恋しさの
- GUXXUMIN ~眠れる谷の海の底
- ANOYO(BONUS TRACK)
neohachi trio『live at flying teapot 26 March,2008』
発売中 / 500円(税込) / NHCD-0002 / neohac records
CD収録曲
- NEOHACHI TRIO LIVE@FLYING TEAPOT080326
プロフィール
neohachi(ねおはち)
lily(詩吟ボーカル)とelly(シンセサイザー)によるファンシーでコミカルなエレクトロジャムユニット。往年のプログレッシヴ・ロック、ジャーマン・ロックを思わせる手弾きの反復が幾何学的なパターンを描き出し、そこにエコー処理された詩吟の歌唱法によって、断片的なイマジネーションを喚起させる歌詞が歌われる。
また、山本達久(不思議なドラマー)を加えた特別編成neohachi trioを結成するなど、ゲストプレーヤーを迎えた即興セッションライブも積極的に行っている。
2008年1月に初のミニアルバム「rhythm of wonder」をreal future recordsよりリリース。同年、自主レーベルneohac recordsより初老の落ち着きをみせるアンビエントシリーズ第一弾「MUSIC FOR AIRMAIL」、neohachi trioによる初ライブ音源「live at flying teapot 26 March,2008」もリリース。