新津由衣|これで空を飛べる! 本名で放つ"1stアルバム"

子供時代の自分にさよならできた

──でも、食わず嫌いもきっと必要な段階だったんだと思います。RYTHEMでポップにスタートして、Neat'sでアート的な方面に進んで、新津由衣として再び奏でるポップは、以前とは似ているようで違う。「BIG BANG!」の「君のために僕は歌うよ」という一節には、ぐるっと円環を描いてここにたどり着いたような印象を受けました。

その言葉を書いたときは私も自分でびっくりしました。「言っちゃう?」って(笑)。「ワンダープラネット」にも、「君のために僕は歌うよ」と同じくらい「言っちゃう?」って言葉が詰まってます。「ずっと前に 気づいていたんだ もう夢は覚めてるって」とか、それを言っちゃおしまいよってことを(笑)。

──子供のときの夢を大切にして、それを核にした表現にこだわってきた新津さんが「もう夢は覚めてる」ことに気付いたのは、大変なことだったのでは? もう何もできなくなるかもしれないと思うぐらい。

新津由衣

まさに絶望でした。「ワンダープラネット」はアルバムの集大成、最後にできた曲なんですけど、レコーディングに向けて歌詞を書くぞ、と自分の心に向き合ったら、ウソはつけなかったんですよね。さんざん「夢は大事だよ」って言ってきたけど、実は自分に呪文をかけてるだけだったのかなって認めちゃったんです。「もう夢は覚めてるって」と書いたときはゾッとしました。私の武器はもう何もない、空っぽだって。でも最後に空っぽな自分に気付いたことは、また1つ大きなステップになりました。ファンタジックさを120%注入してやろうとアルバム作りに向き合ってきたけど、同時に32歳の大人の女として成長していく私もいて、どちらも本当の私だし、どちらもドキュメントなんですよ。子供であることにこだわる自分も、それがもうないって気付いてる自分も。

──どうやって両者を統合していったんですか?

私にはポップスターになりたいっていう新たな夢ができたのだから、子供のときの夢を感じられてるか、感じられてないかというところで揺れる時代はもう終わったなと思ったんです。感じられる力もあるし、それを俯瞰することもできるようになった。私は自分1人ではない世界で、人と共存して生きていきたい。「ワンダープラネット」は「本当の魔法使いに僕はなろう」という歌詞で終わりますけど、本当の魔法使いは、優しさ、思いやり、愛情といった人と人の間にあるものを絶対に見逃さない。そういう人になろうと思ったときに、自分の子供時代に「一生消えないと信じてるけど、もう私の心の真ん中にいなくてもいいよ」って言って、握手してさよならできたんです。それから人に目を向けられるようにもなってきました。具体的にはお客さんですね。これからみんなに伝えていきたい、つながり合いたいって思ったら、子供の私が真ん中にいないほうがいいなって。本当の魔法使いになりたいなら閉じこもってないで空を飛ばなきゃって感じです。

これで空を飛べるぞ

──感覚的な話ですけど、今作ではこれまでにないんじゃないかと思うくらい、楽しそうに歌っている印象を受けました。CHRYSANTHEMUM BRIDGE作曲で、作詞と歌に集中した「Bye-Bye-Bee-By-Boo」が特に。

このとき私に起こった革命は、歌手になりたいっていう欲が出てきたことでした。人の曲なんて絶対に歌えるタイプじゃなかったのに、作曲した人の個性や世界観を自分の体を通して表現することが面白いと思えて。歌に対する心構えもすっごく変わって、ずっと好きじゃなかった自分の声も、徐々に楽しめるようになってきたと思います。ボイトレの先生に認めてもらえたこともあって、自分の声を受け入れ始めたって言うか。「嫌いな自分も愛してあげないと、この子どこにも行き場がないわ」って、かわいそうになってきちゃって(笑)。まだ自由自在には操れないけど、逆に自分の武器にしていく覚悟はできました。

──ジャケットにも新津さんの意向が反映されているんですよね。

新津由衣「Neat's ワンダープラネット」ジャケット

今回は、ずっと前からご一緒したいと思ってた牧野惇さんというアートディレクターにお願いしたんです。ビジュアルを制作するときはいつも最初のイメージは必ず伝えるようにしていて、今回も“妄想シート”を作ってお渡ししたんですけど、絶妙なところに落とし込んでくれて、さすがだと思いました。初めて見たのに、自分にもこれが見えていたような気がするぐらい。私の頭の中っていうファンタジー的な側面と、新津由衣の人間性というドキュメント的な側面のどちらを前面に出すか、スタッフとも話し合ったんですけど、ミニ由衣がジャイアント由衣の頭の中に入ろうとしてるこのジャケットは、両者を見事なバランスで表現してくれたと思います。

──「Neat's ワンダープラネット」というアルバムタイトルについては?

「ホップチューン」を作ったときに全体像が見えたんですよ。これは多様性を受け入れるアルバムだなって。そのとき、私が23歳ぐらいのとき友達になってくれたカメラマンの中川正子さんの言葉を思い出したんです。周りとうまくやれなくて悩んでいた私に「同じ女の子でも同世代でも、全部わかってもらえるなんて思わないほうがいいよ。みんな異星人だと思えば、自分のことを伝えようとするし、人のこともわかろうとするし、その行動のほうが大事かもしれない。それが優しさだったり、思いやりだったりするんじゃない?」って言ってくれて。その言葉が根底に流れてますね。みんなワンダープラネットなんだと思ったら、人と同じじゃないことが悲しくなくなったし、みんなを受け入れたいし、自分が受け入れられなくても平気だって思えたんですよ。あと、CHRYSANTHEMUM BRIDGEのもう1人は、ライブ制作のプロデューサーの石川淳さんなんですけど、彼に「ワンダープラネットって、今生きているこの世界のことだよね」って言われたのもあります。私1人の世界じゃなくて、いろんな人がいるこの場所なんだなって。そこで私とあなたの間にワンダーを見つけられるか、見つけられないか。それによってここがただの地球になるかワンダープラネットになるかが決まるんだ、決めるのは自分なんだって。そういう二重の意味がこもったタイトルです。

──素晴らしい。ベタな言い方ですが、大人になったんですね。

「大人になりたくない!」って思ってずっと生きてきたんですけど、何段も階段を上りました。「ワンダープラネット」をレコーディングしたときはまだ「大人になっちゃった……」っていう切なさでしたけど、アルバムが完成したときには、いい意味に捉えられました。「これで空を飛べるぞ」って。可能性を感じたんですよ。

──よかった。アルバム完成、おめでとうございます。

よかったです、本当に。「燃え尽きちゃうかな」って不安でしたけど、逆にスタートラインに立てました。今は、「最後の革命を起こしにいくからついてこい! いいとこ連れてってやるぜ!」って気持ちです(笑)。

新津由衣
新津由衣「Neat's ワンダープラネット」
2018年7月11日 / SLIDE SUNSET
新津由衣「Neat's ワンダープラネット」初回限定盤

[CD]
3024円 / SSSA-1001

Amazon.co.jp

収録曲
  1. Overture
  2. FLAG
  3. ワンダープラネット
  4. 愛のレクイエム
  5. Bye-Bye-Bee-By-Boo
  6. Unite
  7. フローズン・ネバーランド
  8. スイム・イン・ザ・ワンダー
  9. 月世界レター
  10. ホップチューン
  11. BIG BANG!
新津由衣LIVE
「Ethereal Pop 2018~ワンダープラネット~」

2018年10月28日(日)東京都 UNIT

チケット受付

新津由衣(ニイツユイ)
新津由衣
1985年8月生まれのシンガーソングライター。2003年、高校生でシンガーソングライターユニットRYTHEMとしてメジャーデビューする。8年間活動を続け、2011年2月に解散。同年より作詞作曲編曲、アートワークや販売までも自ら手がけるソロプロジェクトNeat'sを始動させる。CDリリースはもちろん、世界初の野外ワイヤレスヘッドフォンライブなど一風変わったライブなどで話題を集めた。2015年、SEKAI NO OWARI、ゆずなどを手掛ける音楽プロデューサーチーム・CHRYSANTHEMUM BRIDGEとタッグを組み、作品制作を開始。2018年7月に本名名義・新津由衣でアルバム「Neat's ワンダープラネット」をリリースした。