真似できそうで、なかなか真似できない動画
──動画作品などで描かれている脱力感のあるビジュアルも、ナユタン星人さんの作品の魅力の1つだと思います。
初音ミクが登場してオリジナルのボカロ曲が上がり始めた頃って、どの曲もだいたい“一枚絵”と言われる画像1枚に、音楽が付いたスタイルが多かったんです。でも2015年あたりって、どのボカロ曲の動画もバリバリ動くものが主流気味になっていて。昔どこかでcosMo(暴走P)さんが「ボカロの文化はみんなが参加できるものだから、自分だけでも一枚絵で投稿して敷居を下げたい」みたいなことをおっしゃっていたんです。その発言に感銘を受けたのをずっと覚えていて、自分もボカロをやるならそうしようと。ほぼ一枚絵で、下手な絵で、ちょっと力の抜けた感じのテイストにして「こんな動画でいいのなら自分でもやってみよう」と思ってもらえるようなものにしたかったんです。
──とは言え、ナユタンさんの動画ってよく見ると作り込まれていますよね。
はい(笑)。簡単そうに見えて細部でこだわっています。例えば動画の文字の配置はどのシーンを切り取っても見栄えがいいように1シーン1シーン気を使っていますし、背景色の青、赤、緑と文字色のバランスもかなり吟味して決めました。実は動画を作るのも好きなので、ところどころでけっこう技術が必要な動かし方がこっそり入っていたり……だから真似できそうで、なかなか真似できない動画だと思います。
男の子曲と女の子曲
──「X」「Y」「Z」の3作品については活動開始当初からコンセプトを決めていたということですが、各作品どのようなコンセプトを考えていたんでしょうか?
「X」は最初のアルバムだったので「ナユタン星人はこういう曲を作る人です」っていう自己紹介的な内容、「Y」は刺さる曲多めでみんなに気に入ってもらえそうなアルバムにしていて、「Z」は自分が作りたいもの、自分が好きな曲調を入れたものにしようと思っていたんです。色が緑であるように、自分の好み多めでまったり楽しもうみたいな。
──「彗星ハネムーン」や「明星ギャラクティカ」といった昭和歌謡のテイストが入った曲がナユタン星人さんの好みなんでしょうか?
はい。昭和の頃の曲や1990年代の歌謡曲も好きで、視聴者の皆さんにどう響くかはわからなかったけど「こういう曲もよくないですか?」って提示したくて、いろいろ作ってみました。
──アルバムを通して聴いてみて、確かにいろんな曲調のものが収録されていますが、今作「Z」はナユタン星人さんの表現の軸にバンドサウンドがあることをより感じさせる作品だとも思いました。
確かに自分が好きなバンドサウンドであることにはこだわり続けてきたんですが、実は活動当初からバンドサウンドの中に2つの軸を用意していたんです。“男の子曲”と“女の子曲”って感じで。
──男の子曲と、女の子曲?
男の子曲はけっこうストレートなロック。例えば「ロケットサイダー」「ストラトステラ」みたいな曲は男の子曲なんです。それに対して、ちょっと奇をてらったような曲は女の子曲なことが多いですね。「アンドロメダアンドロメダ」「パーフェクト生命」とか。
──もしかしてMVで描かれているキャラクターの性別と合わせていますか?
そうです。アルバムには動画になっていない曲も多数ありますから、どっちがどっちの性別なのか想像しながら聴いてもらっても面白いかもしれません。それと性別を分けるという法則をせっかく作ったので、「Z」ではあえてそれを崩して遊んでいる曲もしてます。例を挙げると「金星のダンス」。“男の子曲”かつダンサブルな楽曲にして、割と最近の邦楽ロックっぽい、意外と今までやってないラインの曲になってます。あと「ハイカラガールスーパーノヴァ」って曲はコンピ盤(2018年2月発売の「モノカラーガールスーパーノヴァ」)の収録曲なんですが、女の子目線で詞を作っていたものを今回のアルバムでは男の子目線の歌詞に書き変えているんです。
──なぜ歌詞を変えたんでしょうか?
1回やってみたかったんです(笑)。それにコンピ盤のときはアルバムの1曲目、アルバム「Z」では本編の最後を飾る曲と、立ち位置を変えることで歌詞の視点も変えて、同じ曲を異なる面から見せてみたくて。2曲聴き比べてもらうと面白いと思いますけど、どちらも単体で完結している曲でもあるので、どちらを聴いてもらっても楽しめると思います。
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ナユタン星語による新曲
- ナユタン星人「ナユタン星からの物体Z」
- 2018年8月29日発売 / UFO RECORDS
-
初回限定盤 [CD2枚組]
2800円 / NYT-301~2 -
通常盤 [CD]
2400円 / NYT-303
- DISC 1 収録曲
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- ユーフォーユーフォー
- 星の王子サマ
- 明星ギャラクティカ
- 彗星ハネムーン
- エンドレス空中戦
- サークレット
- 金星のダンス
- パラレリズム恋心
- ルミナ
- ハイカラーガールスーパーノヴァ
ボーナストラック
- 恋スル侵略計画
- リバースユニバース
- ドリームドリーム夢ドリーム
- 光線チューニング
- 初回限定盤付属 DISC 2 収録曲
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- ピーポーマイフレンド
- 突発☆ギャラクティック恋
- 藍と極星
- halo(vocal.ナユタン星人)
- ナユタン星人(ナユタンセイジン)
- ボーカロイドプロデューサー。2015年7月に「アンドロメダアンドロメダ」をニコニコ動画に投稿し、ボカロPとしての活動をスタートさせる。自身が手がける脱力感のあるイラストを用いた動画作品と宇宙をテーマにした楽曲が人気を集め、たちまち人気のボカロPとして注目を集める。2016年7月に1stアルバム「ナユタン星からの物体X」を、2017年1月に2ndアルバム「ナユタン星からの物体Y」をリリース。2018年8月には「X」「Y」「Z」のシリーズ三部作の完結編となる3rdアルバム「ナユタン星からの物体Z」を発表した。