ナユタン星人|那由他光年離れた異星からの侵略計画

ナユタン星人がニューアルバム「ナユタン星からの物体Z」を8月29日にリリースした。

2015年7月にボカロ曲「アンドロメダアンドロメダ」をニコニコ動画に投稿し、宇宙をテーマにした数々の楽曲で一躍人気のボカロPとなったナユタン星人。「ナユタン星からの物体Z」は、これまで発表してきたアルバム「ナユタン星からの物体X」「ナユタン星からの物体Y」に続く三部作の完結編として制作された。音楽ナタリーでは、これまで一切メディアのインタビューに応じてこなかったナユタン星人とコンタクトを取ることに成功。インタビューを通して、本人が“侵略計画”と呼ぶボカロPとしての活動にまつわる話やシーンに対する思い、三部作完結後の計画について迫る。

取材・文 / 倉嶌孝彦 イラスト / ナユタン星人

地球でやりたいことは最初から全部決めている

──ナユタン星人さんがこういった対面の取材を受けるのは今回が初めてですよね?

はい。そもそも地球の方々とのこういった直接的なコミュニケーションは避けていたのですが、音楽以外の方法での“侵略”として、こういうインタビューに答えてみるのもいいかもしれないなと思っていたんです。

ナユタン星人

──初インタビューということもあり、まずはナユタン星人さんの初投稿とそれ以前のお話を伺えればと思います。ニコニコ動画に初めて動画を投稿したのが2015年7月の「アンドロメダアンドロメダ」ですが、それ以前からニコニコ動画というコンテンツを観ていたんでしょうか?

ナユタン星は地球から10の60乗光年(1那由他)離れた場所にあるんですが、ナユタン星からニコニコ動画というコンテンツはずっとチェックしていました。それこそ、初音ミクが流行り始めるよりも前、ニコニコ動画が開設した直後くらいからです。

──「ナユタン星からの物体Z」初回限定盤のライナーノーツには、「アンドロメダアンドロメダ」を投稿した当初のことについて「ボカロ的に過去例を見ないほど雰囲気が盛り下がっている時期」とあります。ナユタン星人さんはなぜこの盛り下がっている時期に動画投稿を始めたのでしょうか?

投稿時期に関してそんなに意味はなくて、単純に作曲できるPCを買ったタイミングが……あ、いや、侵略の準備が整ったタイミングが2015年だったというだけですね。それに「盛り下がってる時期」というのはけっこう外からの評価によるところが大きくて、実際にはずっと熱はあり続けていたと思っていました。確かにミリオン再生を達成する動画の数は減っていたみたいですけど。

──動画の初投稿時には「X」「Y」「Z」の三部作でアルバムをリリースすることなど、細かな“侵略計画”はすでに決まっていたそうですね。

はい。アルバムの構想に限らず、地球でやりたいことは最初から全部決めていて、現在に至るまでの3年間はその計画ベースで活動できています。

──3年間の活動の中で想定外だったことはありますか?

正直に言うと、ここまで多くの人に曲を聴いてもらえるとは思っていなかったですね。楽曲提供の依頼をされて、何かに向けて曲を書くことになることも想定していませんでした。だからもともと作ろうと思っていた曲に加え、いろんな方の要望に沿った曲が作れたのは面白かったです。自分の中でも新しい扉が開いた感覚がありました。

──あとライナーノーツに「楽器を弾けない」と書かれていたのが意外でした。

ナユタン星の実家が狭かったこともあって、なかなか楽器を弾く機会を作れなくて……「楽器を弾けない」って言うとけっこういろんな方に驚かれるんです。最近はようやく楽器が弾ける環境が整ったんですけど、相変わらず慣れたマウスでポチポチ曲を作ってます(笑)。

作品には作品で返す

──Vocaloidというツールについての話も聞かせてください。ナユタン星人さんはボカロの“調声”に関してどんなこだわりを?

Vocaloidって同じ合成音声でも作り手によってちゃんと個性が出るのが面白いなあと思っていて。一度聴いただけで、作り手の人の特徴がわかるというか。ボカロをやるなら自分も個性が出るようにしたかったから、どういう調声にしようかはけっこうこだわりました。あと意外だったのは、2015年当時ってIAとかGUMIとかがけっこう流行っていて、それにミクもアペンド(「初音ミク・アペンド(MIKU APPEND)」)を使った曲が多い印象だったんですが、僕は一番好きだったオリジナルのミクの声を使ったら「ミクってこんな声出すんだ」みたいな反応がありまして……。

──オリジナルの初音ミクを使ったら逆に真新しい反応が返ってきたと。

もちろんかわいく、カッコよく歌わせようと調声していたのもあったと思うんですが、僕としては自分が好きなストレートなミクオリジナルの声のよさをそのまま生かしているつもりだったから、不思議な感じでした。

──ちょっと話は逸れてしまいますが、昨年8月に初音ミクの誕生10周年を記念してリリースされたコンピレーションアルバム「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』」にナユタン星人さんは「リバースユニバース」という曲を提供しました。「リバースユニバース」は、CDに収録された音源と動画で公開された音源で歌詞が異なっていると、話題になった曲でもあります。

はい。

──結論を先に言ってしまうと、これは「砂の惑星」に対するアンサーとして歌詞を書き直したんですよね?

そうです。「リバースユニバース」ってこれまで発表されてきたボカロ曲の一節を盛り込んだギミックの曲なんですけど、作り終えてから動画が公開された「砂の惑星」も同じように過去に発表された曲を引用したフレーズが散りばめられた曲なんですよね。やり方が被っちゃったのもあって、「リバースユニバース」を動画で公開するときは何かしら「砂の惑星」に対するアンサーを入れたくて歌詞の一部を変えました。けっこういろんな方がTwitterだったり、インタビューだったりで「砂の惑星」について言及していたんですけど、僕が何か発信するなら、それは作品の中でやりたかったんです。作品には作品で返そうと。

──ちなみに去年開催された「初音ミク『マジカルミライ 2017』」のイベントの中で、「砂の惑星」をかけてましたよね。「砂の惑星」のリミックスから「リバースユニバース」につなげていて、会場を盛り上げていた記憶があります。

「砂の惑星」は“ナユタンリミックス”でかけました。単純に「砂の惑星」は曲も好きなんです。ハチさんも米津玄師さんもずっとファンだしリスペクトしています。

──初音ミクの発売10周年を経て、最近のボカロシーンをナユタン星人さんはどう感じていますか?

公開されるボカロの作品には興味があるんですけど、シーンがどうこうとかにはあまり興味がないんです。ただ最近は純粋にボカロ曲が楽しめる落ち着きと言うか、空気感が出てきたかなと思っています。どちらかと言うと、僕が好きだった頃に近い雰囲気が戻ってきている気がします。みんなが趣味として動画を投稿して、みんな趣味として動画を観ていた頃の空気感が好きでしたから。とは言え、ボカロが注目されればされるだけ、盛り上がってる感を楽しめるし、落ち着いてくれたら自分の好きな雰囲気の場になるだけなので、シーンに対していい意味でどうとも思ってないんです。どっちに転んでも僕にとってはいいことだから、今後も変わらずにこの場所を楽しみ続けると思います。

ナユタン星人「ナユタン星からの物体Z」
2018年8月29日発売 / UFO RECORDS
ナユタン星人「ナユタン星からの物体Z」初回限定盤

初回限定盤 [CD2枚組]
2800円 / NYT-301~2

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ナユタン星人「ナユタン星からの物体Z」通常盤

通常盤 [CD]
2400円 / NYT-303

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DISC 1 収録曲
  1. ユーフォーユーフォー
  2. 星の王子サマ
  3. 明星ギャラクティカ
  4. 彗星ハネムーン
  5. エンドレス空中戦
  6. サークレット
  7. 金星のダンス
  8. パラレリズム恋心
  9. ルミナ
  10. ハイカラーガールスーパーノヴァ

ボーナストラック

  1. 恋スル侵略計画
  2. リバースユニバース
  3. ドリームドリーム夢ドリーム
  4. 光線チューニング
初回限定盤付属 DISC 2 収録曲
  1. ピーポーマイフレンド
  2. 突発☆ギャラクティック恋
  3. 藍と極星
  4. halo(vocal.ナユタン星人)
ナユタン星人(ナユタンセイジン)
ボーカロイドプロデューサー。2015年7月に「アンドロメダアンドロメダ」をニコニコ動画に投稿し、ボカロPとしての活動をスタートさせる。自身が手がける脱力感のあるイラストを用いた動画作品と宇宙をテーマにした楽曲が人気を集め、たちまち人気のボカロPとして注目を集める。2016年7月に1stアルバム「ナユタン星からの物体X」を、2017年1月に2ndアルバム「ナユタン星からの物体Y」をリリース。2018年8月には「X」「Y」「Z」のシリーズ三部作の完結編となる3rdアルバム「ナユタン星からの物体Z」を発表した。