夏川椎菜が痛快にパンチ!フック、アッパー織り交ぜた攻撃的ロックチューン「シャドウボクサー」 (3/3)

滑舌悪く歌うには、滑舌がよくないと無理

──「労働奉音」のボーカルは中低域の、比較的ドスのきいた声を押し出していく感じで、早口でまくし立てる「シャドウボクサー」とは対照的ですね。

「労働奉音」のレコーディングでは、ライブの最後のほうでついやっちゃうような、ライブでしかやらない歌い方を無意識にしていたんですよ。だから自分のテンションをライブと同等にまで引き上げてくれる曲ですね。あとこの曲はヒ労組のテーマ曲なので、音源にヒ労組の音が入っていないのは嘘だろうと思って。急いでメンバーのスケジュールを押さえて録ってもらったので、歌も楽器もライブの現場で鳴っている音をそのままパッケージできたんじゃないかな。

──「ケーブルサラダ」のインタビューで、夏川さんは「アレンジに馴染むように」歌った結果、声色が変わるとおっしゃっていました(参照:夏川椎菜「ケーブルサラダ」インタビュー)。「労働奉音」を聴いて、なんとなくそれがわかった気がします。

そうなんですよ。声色の使い分けみたいなところではまったくテクニカルなことをしていなくて。感覚優先というか快感優先というか「このメロとアレンジと歌詞で、私が歌っていて一番気持ちいいのはどこ?」とさまよって、それが見つかったときの声を採用している感じなんですよね。だから「声を操ろう」とか、ソロアーティスト活動においては考えたことがない。声優にあるまじきことなのかもしれませんけど。

夏川椎菜

──逆に、夏川さんの声優アーティストらしい部分って、どこにあるんですかね。

滑舌ですかね。

──でも、「あえて滑舌よく歌おうとしていない」というお話もたびたびなさっていますよね。

それはそうなんですけど、今回の「シャドウボクサー」ぐらい言葉が詰まってきちゃうと、滑舌悪く歌うには、滑舌がよくないと無理なんですよ。だから滑舌に関してはけっこう意識的に、例えば「ら行はどれぐらい巻こうかな」とか「歌の抜けだけもっと甘くしようかな」とか、細かい調整をしていて。甘く歌っている部分とはっきり歌っている部分の両方があるときは、滑舌よく歌う技術がないとメリハリを付けられないし、そもそも「滑舌悪く」といっても最低限聞き取れるようにしなきゃいけない。そのうえでニュアンスやアタックを付けたりいろいろやることがあるから、滑舌がよくないと詰むんです。

──確かに、滑舌の悪い人が滑舌悪く歌ったら、それはただの滑舌の悪い歌ですね。

今言ったことって、厳密には声優としての滑舌のよさとはちょっと違うかもしれないけど、声優業で培われた技術は生かされていると思いますね。それを実感したのが、「奔放ストラテジー」(「コンポジット」収録曲)を歌ったときで。この曲はボカロ的な考え方でメロが作られていて、かなり滑舌よく歌わないと言葉を聞き取れないし、リズムにもハマらないんですよ。ただ、はっきり歌いすぎると今度は歌としてカッコ悪くなってしまうんです。だから、一定の水準の滑舌のよさを維持したうえでカッコつけなきゃいけないんですけど、もし私に声優としての下地がなかったらこの曲は歌えなかったと思いますね。

──当たり前のことを言いますが、基礎は大事だと。

本当に大事だなと、最近は特に思うんですよ。私の育成期間といいますか、ただ夢を見ていた時代はとにかく現場に出たくて仕方なくて。基礎はもう死ぬほどやったから、早く応用がやりたかったんですね。でも、地味な基礎練習をひたすら繰り返していた時間が、夏川椎菜のすべての活動の前提になっているし、今ようやく応用に入れるところまで来られた気がする。「ケーブルモンスター」の最終日に「シャドウボクサー」のリリースを発表したとき、私は「いろんな意味で夏川しか歌えない楽曲になってる」と大きなことを言ったんですけど(参照:夏川椎菜、ヒヨコ群とともに高々と掲げたピースサイン「これからもいっぱいいっぱい笑おうね!」)、これは本気で。自分で作詞しているから歌唱表現にも自分の癖が出ているうえに、今まで積み重ねてきた基礎的な技術も生かされている、とてもじゃないけど一朝一夕で歌える歌ではないから、そう言えたんです。

夏川椎菜

「417の日」史上最高傑作といっても過言ではない

──そんなシングルのリリース日が4月17日、すなわち毎年恒例のイベント「417の日」(「LAWSON presents 令和6年度 417の日」)の開催日なんですよね。コメントによれば「今年はなにやらミステリーの予感」「反復横跳びの練習を始めました☆」とのことですが、何をするつもりなのかさっぱりわかりません(参照:夏川椎菜ニューシングルジャケット&MV公開、田淵智也提供で“シイナの日”リリース)。

そのコメント以上のことは言えないんですけど、サブタイトルが「奪われしPの一張羅(アイデンティティ)」なので、もしかしたら417P(パンダの装いをした夏川そっくりの“夏川椎菜総合プロデューサー”)が登場するかもしれない。そうなった場合、417Pがヒヨコ群の前で初めて実体をさらすことになるんです。ちょっとだけ言ってしまうと、夏川椎菜のイベントである「417の日」に、417Pがゲスト出演するために必要なスキルが反復横跳びなんですよ。

──余計にわからなくなりました。

むしろそういう認識でいてくださるとうれしいです。今年の「417の日」は、もし高山みなみさんにタイトルコールしていただけたら最高なロゴをデザインしてもらったんですけど、謎解きがテーマで。会場に来てくださった皆さんにも一緒に謎の答えを考えてもらう感じになっているんですよ。

──その謎解きを企画、演出するにあたっても、時間という名の愛を注いでいるわけですよね。

その通りです! 詳しくお話しできないのがもどかしいんですけど、“謎”の中身にも自信がありますし、そもそもどうして謎解きをしなきゃいけなくなったのかとか、「奪われしPの一張羅」とはなんなのかとか、そういった諸々が全部1つの物語としてつながっているので、当日、ヒヨコ群は絶対に「ピヨー!?」ってなります。もう、「417の日」史上最高傑作といっても過言ではない。まさに時間を、愛をめいっぱい注いだだけのことはあるというか「私、ここまで行けるんだ?」って思いましたもん。

夏川椎菜

──1日2公演限りの、映像化もされない、平日に千葉(「417の日」は毎年、夏川の出身地である千葉県で開催)まで足を運んだ人だけが体験できるイベントに、そこまで……。

そう! 私が言いたい愛って、それなんです。別にそこまでやらなくていいんですよ。省略できることも、外注できることもたくさんあるから。でも、私は夏川椎菜のプロジェクトに関しては、手離れが悪いとも言えるんですけど、自分で責任を持ちたい。もちろん自分1人の力でイベントとかは作れないからスタッフさんの協力が必要なんだけれども、協力してもらうには自分が率先して動かなきゃいけないし、やりたいことを伝えるには自分の頭の中を開示するしかない。そのためにかける時間は惜しまないんですよ。なぜなら、やりたいことが伝わりさえすれば実現してくれるのが夏川チームだから。

──効率厨にはできない芸当ですね。

しかも、「417の日」は2018年から続けていますけど、この物価高の時代にチケット代は頑なに4170円を守っているんですよ。それもいろんな人たちの愛に支えられているからだし、「417の日」は“無駄 of 無駄”な行為にどこまで愛を注げるかが勝負みたいなところがあって。本当に、愛しかないイベントです。

イベント情報

LAWSON presents 令和6年度 417の日

2024年4月17日(水)千葉県 森のホール21
[第1部] OPEN 14:30 / START 15:30
[第2部] OPEN 18:00 / START 19:00

プロフィール

夏川椎菜(ナツカワシイナ)

1996年7月18日生まれの声優、アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年より声優として活動を開始。2015年に同じミュージックレインに所属する麻倉もも、雨宮天とともに声優ユニット・TrySailを結成し、神奈川・横浜アリーナ公演などを経て現在まで精力的に活動している。2017年4月に1stシングル「グレープフルーツムーン」で自身の名義にてソロデビュー。2019年4月には作詞に初挑戦した1stアルバム「ログライン」をリリースし、9月より初のツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 1st Live Tour 2019 プロットポイント」を行った。2022年2月に2ndアルバム「コンポジット」を発表。11月に6thシングル「ササクレ」、2023年5月に草野華余子が作曲した表題曲を含む7thシングル「ユエニ」をリリースした。11月に3rdアルバム「ケーブルサラダ」を発表し、12月よりライブツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 3rd Live Tour 2023-2024 ケーブルモンスター」を開催。2024年4月17日にシングル「シャドウボクサー」をリリースし、千葉・森のホール21で毎年恒例のイベント「LAWSON presents 令和6年度 417の日」を行う。