夏川椎菜「ユエニ」インタビュー|草野華余子とのコラボで生まれた、夏川流のラブソング (3/3)

主人公は私じゃない

──「ササクレ」のインタビューで、“夏川フェーズ3”では「より外に向けて発信していけたらいい」とおっしゃっていましたが、「ユエニ」も「だりむくり」も歌詞が外向きになっているように思いました。

やった! まさにそれを狙っていました。

──例えば「ファーストプロット」や「クラクトリトルプライド」、あるいは「烏合讃歌」(「コンポジット」収録曲)などは夏川さんをよく知っている人ほど刺さる曲でした。しかし今回の2曲は、夏川さんの言葉で書かれてはいるが、夏川さんのパーソナリティがそこまで表に出ていないというか。

うんうん。例えば「ササクレ」は、テーマこそパーソナルなものだけど、夏川椎菜の背景を知らない人にも刺さってほしいという気持ちで作った曲なんです。そのカップリングの「passable :(」と今回の2曲は、もちろん自分が思っていないことは書けないからパーソナルなことも言っているけれど、主人公は私じゃない。「だりむくり」に関していえば、私は声優の仕事をしているから、毎日同じ職場に通って定時に帰れないみたいな経験はしたことがないんですよ。そこは完全に「きっと、そういう人が多いんじゃないか」という想像で書いたというか、「そういう人に刺されー!」と念じながら書いたので、自分でもフェーズ3感が出ているんじゃないかなと思います。

──そんなフェーズ3感が出た今回のシングルにしても、先日の「令和5年度 417の日」にしても(参照:夏川椎菜が1人で「ミュージックレインフェスティバル」開催!スフィアからチコハニまで全15曲カバー)、4月10日から配信が始まった自主ラジオ「夏川椎菜の #ヒヨコ群集合!」にしても、我が道を行っている感じが年々強くなっていますね。

そう思っていただけるとうれしいです。これは自己評価なんですけど、私は人と同じことをしても埋もれていくだけなんですよ。自分で自分に似合うものとか、おかしなものを見つけて発信して、誰かに気付いてもらわないと簡単に消えてなくなるという危機感が常にある。だから、面白いと思ってもらえるならなんでもするし、その空間を自分で作れるならいくらでもアイデアを出します。私はもともとゼロからイチを生み出すような作業が好きなので、それが向いているとも思うし、事務所もそれを許してくれるんですよね。

夏川椎菜

──株式会社ミュージックレイン。

うちの事務所のいいところは、完成形を見せればけっこうゴーサインを出してくれるところで。昔、私が「Music Rainbow」というイベントでブログ紙芝居をやりたいと当時のマネージャーさんに言ったとき、「ちょっとよくわからない」と一蹴されたんですよ。それが悔しくて、改めてブログ紙芝居の実物を作ってプレゼンしたら「まあ、そんなにやりたいなら……」とOKしてくれて。実際にステージでやったらものすごいシュールなことになったんですけど(2016年12月に開催された「LAWSON premium event 夏川椎菜のMusic Rainbow 04」)、それが最初の成功体験になったというか、そこで味を占めまして。以来、「これをやりたいけど、マネージャーに是非を問わねば」という場合は、自分で完成形まで詰めて、すぐ公開できる状態にしてから提出するようになったんですよ。

──「もう作っちゃったんですけど」って。

そうそう。作ったものを見せて「今、面白いと思いましたよね? あとはこれ、このまま出すだけですよ?」って。やりたいことができたら、まずは自分で形にしてみる。そこからYouTubeチャンネルも、そのベースになった「417の日」も始まっているし、これからも楽しいことを模索し続けたいです。

ライブをやるために、偉い人にゴマをする日々

──夏川さんをマネジメントする側からすると、本人が勝手にいろいろやってくれるから楽なんですかね。

そういう側面もなくはないんじゃないかな(笑)。そもそも「Music Rainbow」というのが演者にとってけっこうハードルが高いイベントで。それこそ私が「417の日」でやっているようなことを強要される……というと言葉が悪いけど「この日に会場を押さえちゃってるんで、何かやってください」と丸投げされる感じなんです。なんでもやっていいイベントだけれども、「なんでも」の部分は自分で考えなきゃいけないから、人によっては頭を抱えちゃう。でも、私にはそこでやりたいことがいっぱいあったし、アイデアもどんどん湧いてきたから、それが結果的に「417の日」につながっていて。うちの事務所はやったもん勝ちというか、やると決まれば全力でサポートしてくれるので、自分で企画書とか台本さえ書ければやりたいことをやれると思っています。勝手に。

──その様子だと、まだまだ飽きそうにないですね。

飽きないですね、うん。

──夏川さんは自分が飽きないこと、自分が楽しいと思うことをやっているのは活動を拝見していても直接お話を伺っていてもわかります。そのうえで、ヒヨコ群のどこを押せば喜んでピヨピヨ鳴くのか、ツボを心得ていますよね?

いや、どうなんだろう? 夏川が楽しいと思ってやっていることを楽しんでくれる人が、結果的にヒヨコ群になっているから。まあ、今年の「417の日」で「Fanfare!!」(麻倉ももの楽曲)を歌おうと決めたときは「ヒヨコ群の喜ぶ顔が目に浮かぶなあ」と思いましたけど。強いていえば、自分のやりたいことを並べてみて、その中でよりヒヨコ群がニヤニヤしそうなものから優先的にやっていく感じですかね。

──先ほど「ユエニ」は「今からライブが楽しみ」とおっしゃっていましたが……。

ライブもやりたいです! 「ユエニ」だけじゃなくて「だりむくり」もライブでやったらまた違うものになるだろうし、私はまだヒヨコ労働組合を背負った状態で、お客さんが声出しできるライブを体験していないんですよ。いわば完全体のライブはまだやっていないので、願わくばスタンディングのライブハウスでそれを実現させたいですね。そのために、偉い人にゴマをする日々です。

夏川椎菜

──ゴマ、すれるタイプですか?

本人はすれているつもりなんですけどね。とりあえず事務所内で「なんか面白いことやってるやつだな」という認識はされていると思うので、もっと面白いことをして「じゃあ、手伝ってやるか」という気にさせたい。面白いことにはみんな乗っかりたいだろうし、「417の日」は、偉い人に向けた営業みたいなところもあるんですよ。「4月17日に会場だけ押さえてもらえれば、あとはこっちで面白くするんで」「もちろんお客さんも集めますよ」って。

──企画屋みたいですね。

「見てください! 平日の昼間からこんなにたくさんの人が!」「キャパ知ってます? 1500人!」みたいな。私には、平日だろうが千葉(「417の日」は毎年、夏川の出身地である千葉県で開催)のどこだろうが必ず来てくれるヒヨコ群がついているという思い上がりがあるし、ヒヨコ群のみんなを「私に任せてくれたら、こんなに楽しいイベントになりますよ! どうですか、乗りませんか?」と関係者にアピールするのに半分利用しているところもあって(笑)。あの日すったゴマが偉い人に届いていれば、そう遠くない未来にライブができるかも!

プロフィール

夏川椎菜(ナツカワシイナ)

1996年7月18日生まれの声優、アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年より声優として活動を開始。2015年に同じミュージックレインに所属する麻倉もも、雨宮天とともに声優ユニット・TrySailを結成し、神奈川・横浜アリーナ公演などを経て現在まで精力的に活動している。2017年4月に1stシングル「グレープフルーツムーン」で自身の名義にてソロデビュー。2019年4月には作詞に初挑戦した1stアルバム「ログライン」をリリースし、9月より初のツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 1st Live Tour 2019 プロットポイント」を開催した。2022年2月に2ndアルバム「コンポジット」を発表し、5月よりライブツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 2nd Live Tour 2022 MAKEOVER」を開催。11月に6thシングル「ササクレ」、2023年5月に草野華余子が作曲した表題曲を含む7thシングル「ユエニ」をリリースした。