夏川椎菜|叫べ!吠えろ!感情爆発のニューシングル

夏川椎菜が9月9日にニューシングル「アンチテーゼ」をリリースする。

声優として活躍する一方で、これまでも楽曲のアレンジ、ミックス、ジャケットおよびミュージックビデオの制作などすべての工程を自ら監修するなど、前のめりで音楽活動に取り組んできた夏川。本作では自身がファンであるというサウンドクリエイターのすりぃに表題曲の制作をオファーしている。そしてカップリング曲「RUNNY NOSE」は夏川が作詞を手がけた楽曲。表題曲、カップリング曲共に、内なる感情を爆発させるような力強い楽曲となっている。

音楽ナタリーでは夏川にインタビューし、2曲の制作過程やこだわりを語ってもらった。

取材・文 / 須藤輝

私の腹の虫が治まらないので

──夏川さんは去る4月17日にYouTubeで「417Pちゃんねる」を開設されました。これは“椎菜”にちなんで毎年4月17日に行われているライブイベント「417の日」の中止を受けてのことなんですよね。

そうです。今年の「417の日」が近付くにつれて状況が日に日に悪くなっていく中で、中止が決定する2週間ぐらい前から私もこれはきっと開催できないだろうなと感じていて。ただ、今回の「417の日」は事前にいろいろと準備を進めていたので、ただの中止には絶対にしたくなかったんです。で、同時期にいろんなイベントが延期になったりオンラインになったりしている中で「417の日」はどうあるべきかを考えたとき、仮に延期にするんだったら1年間延期することになっちゃうし……。

──4月17日に開催することに意味がありますからね。しかも来年に繰り越しでは今年の「417の日」は実質的には中止と同じになってしまう。

そうそう。かといってオンラインイベントとしてやるのはさすがにシュールが過ぎるのではと思い、よい落としどころを探った結果、YouTubeチャンネルしかないなって。というのも「417の日」では私が毎回いろんな挑戦をしているんですけど、今回の挑戦がちょうど自分で動画編集をするというものだったんですよ。

──「417の日」は動画とライブを交互に見せていくような構成ですよね。

動画制作の機材。

その動画パートはいつもスタッフさんにお願いしていたんですけど、今回は自分で作っちゃおうと。実は去年の年末あたりから個人的に動画編集の勉強もしていたので、自分の技術的にもやる気的にもすんなりYouTubeに移行できたんです。だから今「417Pちゃんねる」に投稿している動画は「417の日」にやろうとしていたことがベースになっているんですけど、それもほぼ出し尽くしたし、せっかくYouTubeチャンネルを開設したので、新たに「これもできる、あれもできるな」といろいろ考えている最中です(※本インタビューは8月初旬に実施)。

──「#417の日継続」というハッシュタグを使われていますが、これからも続いていくと。

本来であれば「417の日」は1日だけで完結すべきものではあるんですけど、中止が決まったときにブログで「(*>△<)<クショがーーーーーー!!!」って悔しさと怒りをぶちまけたように、今回に限ってはちょっと私の腹の虫が治まらないところもあり、特例措置として“継続”という形を取らせていただきました。でも結果的に、もともと予定していた「417の日」以上のことが、今YouTube上で展開されている感はありますね。

やってみなきゃわかんない

──そうやって自らコンテンツを企画・制作することで、何か発見などはありました?

まず、動画編集がこんなに楽しいとは思いませんでした。昔から興味はあったんですけど、時間もお金もかかるし発表する場所もないし……というのでなかなか手を出せなくて。もっと言うと、自分が興味のあることの中で一番ハードルが高いと思っていたのが動画編集だったんですよ。でも、いざやってみると意外となんとかなるし、凝りだしたら止まらないし。そうやって自分には無理そうだと思っていたことでも実際にやってみたら実は向いてるかもしれなくて、そもそも「自分には無理そうだ」と思うこと自体が間違いだったんだなって。そこに気付けたのは大きかったですね。

──その経験は、アーティストとしての夏川さんにも生きそうですね。

動画編集の様子。

うんうん。チャレンジすることは本当に大事だなと改めてわかったというか。例えばあるジャンルの音楽を表現したいと思ったとき、そのためのセンスや技術が自分に備わっていないんじゃないかとかつい考えちゃうんですけど、手を出してみないことには何もわからないなって。あと、それをファンのみんながどういうふうに受け取ってくれるかというのも、発表してみないとわからない。「417Pちゃんねる」に関しても、やっぱり発表するまでは不安もありましたし、発表するからには平均点以上を狙いたいというか、みんなが想像しているラインを越えなきゃいけないと思っていたんですよ。でも、今のところはみんなを驚かせることができているという手応えを感じているし。うん、やってみなきゃわかんない。

──僕も「417Pちゃんねる」を楽しく拝見しているので、今後もその調子でお願いします。

本当に今、特に私たちの業界のお客さんの娯楽という娯楽が根こそぎ奪われてしまっている状況じゃないですか。ちょっと前までは、みんな普通に毎週末のイベントやライブを楽しんでいたのに、それが普通じゃなくなってしまった今、みんなが一番憂鬱であろう月曜日に更新される「417Pちゃんねる」で気を紛らわせるなり脱力するなりしてくれたらうれしいです。エンタメは潰えてはいけないし、自分主導でそれを作る立場に回れたというのは喜ばしいことですね。

夏川、怒ってます

──ここからはニューシングルについて伺います。表題曲とカップリング曲はそれぞれタイプの違うロックナンバーですが、いずれもフラストレーションないしは怒りに満ちていますね。

そうですね。夏川、怒ってます(笑)。

──まず表題曲「アンチテーゼ」の作詞・作曲・編曲はすりぃさんです。このコラボはどういった経緯で実現したんですか?

もともと私がすりぃさんのファンだったんですよ。私が音楽を聴く手段は主にサブスクなんですけど、YouTubeの存在もけっこう大きくて。私が中学生のときにボカロが流行っていたので、人気のボカロPがYouTubeやニコニコ動画で新曲を発表したら聴きに行くというのを文化として経験していたんですね。今でもそれをやっているんですけど、最近カッコいい曲をたくさん出しているすりぃさんという人を見つけてしまい、そのことを雑談レベルでスタッフさんに話していたら、あれよあれよと楽曲を書いていただけることになりまして。

──言ってみるもんですね。

本当にそう。さっきの話にも通じるんですけど、実現不可能だと思ったことでも言ってみたら意外と叶ったりするんですよね。やっぱり言わないとわからないし、自分の好きなものや気になっていることって、もの作りにおいて1つも無駄になることはないから、全部共有しておくのがいいんだなって改めて思いました。

──ちなみに、すりぃさんの楽曲のどこに夏川さんは惹かれたんですか?

すりぃさんの曲は、内に秘めて熟成された負の感情みたいなものをぶつけているような曲が多くて、サウンド的には、疾走感というよりは切迫感があるんですよね。ずっとリズムが途切れないというか、その急かされまくる感じ、生き急がされている感じがすごく好きだなあ。あと、すりぃさんは自分でも歌う方なんですけど、そのボーカルも本当にカッコよくて。「私もこんなふうに歌いたい」と憧れているボーカリストの1人ですね。

──楽曲を依頼するにあたって、夏川さんご自身もすりぃさんと打ち合わせの場を持たれたわけですよね?

はい。といっても、膝を突き合わせてというよりはわりと雑談ベースで「今まで私はこういう曲をこういう思いで作ってきました」と、すりぃさんに私のことを知ってもらいつつ、私もすりぃさんのことを知るためにいろいろ聞いていくみたいな。お互いのやりたい音楽を少しずつすり合わせていくような打ち合わせでしたね。

──例えば歌詞の方向性など、夏川さんからすりぃさんへ何か具体的なオーダーをしたりは?

もともとすりぃさんの書く歌詞には私も共感する部分が多かったので、具体的な要望はお伝えしませんでした。ただ、「1つだけ大事にしたいことがあります」と前置きしたうえで、「夏川はいつもあまりかわいいことは歌ってない」というのはお伝えしました(笑)。

──なるほど(笑)。

「夏川には女の子のピュアな気持ちを代弁するような曲はなくて、だいたい大人の悪口を言うような曲ばっかりです」と。まあ、わざわざ言わなくても、すりぃさんが夏川向けにかわいい歌詞を書いてくることはまずないと思ったんですけど。逆に言うと、すりぃさんの歌詞って強い言葉で書かれていることが多いんですよ。そういうボキャブラリーや言語感覚をそのまま反映してほしかったので、こちらから口うるさく「こういう歌詞がいい」とは言わなかったんです。