音楽ナタリー Power Push - 夏びらき MUSIC FESTIVAL'16 ~10th Anniversary~

プロデューサー・高橋マシ、宇多丸、TOSHI-LOW、SOIL社長が語る「フェスの今」

楽しいフェスの秘訣は“ポジティブ内輪”

──RHYMESTERもイベント「人間交差点」を主催していますが、オーガナイザーとしては夏びらきフェスをどんなふうに見ていますか?

宇多丸 さっきTOSHI-LOWくんも言ってたけど、「家族連れで来やすい」というのは参考にさせてもらってますね。俺らもいい年齢だし、当然、子供がいる人も多いから。ブッキングは大変ですけどね。

TOSHI-LOW(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)

TOSHI-LOW アーティスト主催のフェスといっても、パイを埋めるだけになっちゃうと、どこもメンツが似てきちゃうからね。集客も考えながら、どう自分の好みに寄せていくか。そして、どうやって来てくれた人たちに満足してもらうか。そこはホントに難しい。

宇多丸 そうだよね。夏びらきはちゃんと色を出して、しかも観客数も確保していて。それはすごいよね。

TOSHI-LOW 出演しているアーティストを見ると、音楽が好きな人ならもちろん知ってるけど、一般層の人は知らない人も多いような気がするし。

宇多丸 うん。ラインナップはけっこうシブいよね。

高橋 そうですかね……? 自分としては、僕が育ってきた音楽環境もミックスしつつ「これが最強!」という感じの出演者なんですよ。皆さんもそうですけど、ただライブで盛り上がるだけではなくて、生き方を教えてくれるような方々に出演してほしいんですよね。その日に楽しいだけではなく、何かを受け取って「明日もがんばろう」と思えるようなアーティストをブッキングしたいと思っているので。

TOSHI-LOW 青空教室みたいなね。

宇多丸 そうだね。それを続けることでブランドになっていくわけだから。

TOSHI-LOW 初めて来て満足すれば「来年も来たい」って思うからね。

高橋 そう、リピーターも多いんです。早割チケットもあるんですけど、第1弾のラインナップが発表する前の段階で「誰が出ても行くよ」って言ってくれる方も多いので。

社長(SOIL & "PIMP" SESSIONS)

社長 いい囲い込みができてるということだよね、それは。いい意味で“内輪感”があるっていうのかな。フェスを作っている人の顔が見えるのはもちろんだけど、出演者とオーガナイザーだけではなくて、ちゃんとお客さんを巻き込んだコミュニティが仕上がっているんだと思いますね。

高橋 うれしいですね、そう言ってもらえると。

社長 出演するアーティストだけじゃなくて、MCのKTa★brasilだったり、DJのNamy(高波由多加)と君嶋麻里江ちゃんも含めて、ずっと一緒にやってきた仲間が盛り上げてるのもいいなって思うし。“ポジティブ内輪”ですよね。

TOSHI-LOW いいねえ、ポジティブ内輪。俺も使おう。

高橋 まず、僕自身がPAの後ろで踊ってますから(笑)。

──高橋さんの人柄、考え方がフェス全体に浸透しているんでしょうね。

宇多丸 バックステージでも自然と「今年もよろしく」という感じになるからね。内輪感がなさすぎると、みんな出番が終わるとすぐに移動するでしょ。そうすると「トリのアーティストがやっているときには、もうバックステージに誰もいない」みたいなことになるので。

TOSHI-LOW それはあるよね。

左からプロデューサー・高橋マシ、宇多丸(RHYMESTER)、TOSHI-LOW(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)、社長(SOIL & "PIMP" SESSIONS)。

宇多丸 夏びらきフェスはほかのアーティストも観たいから、みんな最後まで残ってるんだよね。その雰囲気はステージにも出るし。

高橋 ステージの袖で観てたりしますからね、皆さん。あと、出演者のお子さんたちも来てくれたり。

TOSHI-LOW うん。航空公園の博物館(所沢航空発祥記念館)にゼロ戦が展示されているんだけど、「この飛行機がどうして戦争で使われたか?」ということを教える場にもなっていたり。「ゼロ戦に乗って命を落とした人たちは勇敢だと思う。でも、彼らを戦場に連れていった国は絶対にダメだ」ということも子供たちに伝えられるからね。

バックステージケミストリーから生まれたコラボ曲

──この10年でフェスを巡る状況は大きく変わってきて。「多すぎるのではないか」という指摘もありますが、皆さんはどう感じていますか?

TOSHI-LOW もう少し減ってもいいのかなとも思うけど、実際にこれだけの数がある以上、俺らとしては出演するしかないからね。ただ、フェスにしか来ないっていうお客さんがいっぱいいると思うんですよ。ちょっと前までは「フェスに出て名前が売れると、普段のライブにも来る」という図式があったんだけど、今は全然ない気がしていて。「音楽に触れるのは夏フェスだけ」という人も多いだろうし、フェスで盛り上がっても、地方に行くと全然客が入らないっていうバンドもあるから。フェスで30分観ただけで自分たちのことを語られるのも困るし、そこは勝負していかないと。

社長 うん。いい面を言うと、地方のフェスが増えたことで、音楽が町おこしの一端を担うコンテンツになっているところもあると思うんです。フェスをやることで人が集まって、その土地に泊まってお金を使ったり、地元のカルチャーに触れることもあるだろうし。それはポジティブな一面ですよね。

──なるほど。宇多丸さんはどうですか?

宇多丸(RHYMESTER)

宇多丸 ヒップホップをやっている人は、まだフェスに出るだけのタマがそんなにいないと思うんですよ。大きいフェスに出ているアーティストは片手で足りちゃうんじゃないかな。「もうちょっと食い込もうよ!」とも思うし、「呼ばれないんだったら、自分たちでやったほうがいい」ということもあって。

高橋 ヒップホップのアーティストに声を掛けちゃいけないんじゃないか、という感じもあるんですよね。

宇多丸 僕らの世代の乱暴狼藉ぶりで悪印象もあるからね(笑)。今の若い子はもっとちゃんとしてると思うし、意識も高いだろうから、呼んであげるといいんじゃないかな。

TOSHI-LOW SOILはフェスやらないの?

社長 毎年話は出てます。インストのバンドも増えてるし、それを束ねてフェスをやるとしたら、ウチらだよねって。近い将来、やろうと思ってますね。

宇多丸 それはカラーがあっていいね。

プロデューサー・高橋マシ

高橋 いいですね! 僕としてはコラボレーションも楽しみなんですよ。RHYMESTERとSOILが一緒に「ジャズィ・カンヴァセイション」(SOIL & "PIMP" SESSIONS feat. RHYMESTERのコラボ曲)をやったり。

宇多丸 SOILと一緒に曲を作ったのは、それこそフェスがきっかけだったからね。フェスが終わったあとの打ち上げのライブで一緒にやって、「これ最高だな!」って。バックステージケミストリーだよね。

高橋 すごい! リスナーとしてもドキドキしますね、そういうコラボは。

社長 「この並びにしておけば、コラボしてくれるだろうな」というラインナップにすることもあるでしょ?

高橋 ありますね。今年の夏びらきも、RHYMESTERとSOILは同じ日だし……。

宇多丸 「こいつらを近くにしておけば、勝手に“つがう”だろう」っていう(笑)。俺らみたいなジャンルだと、いろんなアーティストと話ができるフェスは本当にいい機会なんだよね。Kj(Dragon Ash)と仲よくなったのも、フェスで何回も会うようになったのがきっかけだから。

高橋 TOSHI-LOWさんもいろんなフェスのバックステージで見かけますよ。

TOSHI-LOW 俺らは心を閉ざしていた時期が長いから、バックステージで話せるのが楽しくてしょうがないんだよね。

宇多丸 TOSHI-LOWくん、バックステージ番長でしょ? いろんな人を呼び出して、狼藉の数々を……。

TOSHI-LOW そんなことない(薄笑い)。

夏びらきMUSIC FESTIVAL'16
~10th Anniversary~所沢

2016年7月16日(土)
埼玉県 所沢航空記念公園野外ステージ
OPEN & START 11:00
<出演者>
FIRE BALL / bonobos / ハンバート ハンバート / 天才バンド / BRADIO / wacci
2016年7月17日(日)
埼玉県 所沢航空記念公園野外ステージ
OPEN & START 11:00
<出演者>
RHYMESTER / SOIL & "PIMP" SESSIONS / 七尾旅人 / BAGDAD CAFE THE trench town / サ上と中江
2016年7月18日(月・祝)
埼玉県 所沢航空記念公園野外ステージ
OPEN & START 11:00
<出演者>
LIFE IS GROOVE / PUSHIM×韻シスト / SCOOBIE DO / キセル / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND / 住岡梨奈
MC:KTa★brasil(ケイタブラジル)
DJ:高波由多加(Namy、BOSCA / ※17日18日のみ) / 君嶋麻里江(BOSCA) / gommissey

夏びらきMUSIC FESTIVAL'16
~10th Anniversary~大阪

2016年7月30日(土)大阪府 服部緑地野外音楽堂
OPEN & START 11:00
<出演者>
LIFE IS GROOVE / FIRE BALL / 韻シスト / BAGDAD CAFE THE trench town / ワンダフルボーイズ / サ上と中江 / 住岡梨奈 / wacci
2016年7月31日(日)大阪府 服部緑地野外音楽堂
OPEN & START 11:00
<出演者>
SOIL & "PIMP" SESSIONS / SCOOBIE DO / Nabowa / 七尾旅人 / 天才バンド / BRADIO / 大石昌良 / キセル
MC:KTa★brasil(ケイタブラジル)
DJ:MASATOSHI NAKAGAWA(FM802) / SOUL ONE(Majestic Two)
高橋マシ(タカハシマシ)

株式会社エスエルディーに所属し、東京のライブハウス、代官山 LIVE HOUSE LOOPとSHIBUYA LOOP ANNEXのプロデュースを担当。2007年から開催されている野外フェス「夏びらき MUSIC FESTIVAL」を主宰する。またKISS FMでラジオパーソナリティを務めたり、DJとして韻シスト主催のパーティ「Neighbor Food」にレギュラー出演したりといった顔も持つ。

RHYMESTER(ライムスター)

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。

なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。

OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
(オーバーグラウンドアコースティックアンダーグラウンド)

BRAHMANのメンバー4人とスコットランド系アメリカ人のMARTIN(Vo, Violin, G)、KAKUEI(Per)の6人からなるアコースティックバンド。TOSHI-LOW(BRAHMAN)と MARTINの出会いをきっかけに、2005年6月に結成される。2005年にオムニバス盤「The Basement Tracks-10YEARS SOUND TRACK OF 7STARS」に初音源「Dissonant Melody」を提供し、2006年に1stアルバム「OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND」にてデビュー。その後もBRAHMANや個々の活動と並行して定期的なライブツアーを行い、2010年からは野外フェス「New Acoustic Camp」のオーガナイザーを務める。2014年9月、約5年ぶりのフルアルバム「FOLLOW THE DREAM」をリリースした。

SOIL & "PIMP" SESSIONS
(ソイルアンドピンプセッションズ)

元晴(Sax)、丈青(Piano)、タブゾンビ(Tp)、秋田ゴールドマン(B)、みどりん(Dr)、社長(アジテーター)からなる6人組バンド。東京・六本木のクラブで知り合った仲間で2001年に結成される。2003年に「FUJI ROCK FESTIVAL '03」に出演して以来、国内外のフェスに参加。2004年に1stアルバム「PIMPIN'」でメジャーデビュー。2006年には椎名林檎とともに映画「さくらん」のテーマ曲を担当。次々と作品を発表しながら、「グラストンベリー・フェスティバル」「モントルー・ジャズ・フェスティバル」など海外の大型フェスに出演し、ワールドワイドに活動する。2013年には10周年を記念してRHYMESTER、椎名林檎をそれぞれフィーチャリングゲストに迎えたシングル、全曲コラボレーションアルバム「CIRCLES」、初のベスト盤「"X" Chronicle of SOIL & "PIMP"SESSIONS」を発売。2015年7月にブルーノート東京でライブを行い、その模様を高音質で録音したライブアルバム「A NIGHT IN SOUTH BLUE MOUNTAIN」も発表した。2016年4月にオリジナルアルバム「BLACK TRACK」をリリース。