常に「I'm ready」でいることの大切さ
──ギニアビサウ共和国では、現地で「ロカリザン」という曲が大ヒットしているのを知ったその夜に、たまたま「ロカリザン」を歌うエリック・ダロのライブに出くわすという恐ろしい引きの強さを見せています(笑)。
現地の人にオススメしてもらったクラブに行ったらエリック・ダロのポスターが貼ってあって。たまたまオススメされて行った場所にビサウの音楽業界の一等地があるとは(笑)。
──しかも彼のマイクでナオトさんがボイスパーカッションを披露することになるとは(笑)。
あんなところで振られるとは思ってなかったです(笑)。昔だったら自分から「俺にやらせてくれ」ぐらいのことを言っていたと思うんですけど、今回は生でインプットしたいという思いがあったから、こっちから「歌わせてくれ!」っていうのをほとんどしてないんです。でもなぜか僕のところにマイクが回ってくる。初日にモザンビークのフェスに出たのもたまたまなんです。昔だったらあのフェスに行って「ちょっと俺も出させてよ。誰に言ったら出れるの?」って感じだったと思うんですけどね。
──そうだったんですか。映画のクライマックスになっているカーボベルデの酒場でのライブは特に印象的に残りました。酒場で歌われた「Sodade」はアルバムに音源も収録されていますけど、あの場面はもう最高でしたね。
最初はアルバムに入れるつもりじゃなかったんですよ。でもあれはアフリカの旅での1つのハイライトだったので、ボーナストラックとして入れてみました。
──「Sodade」は現地の民謡ですけど、どこか歌謡曲っぽさもありますよね。
そうなんですよ。カーボベルデはポルトガル領だったので、ポルトガルの民族歌謡ファドが根付いてるんです。大航海時代に船乗りが故郷を思う気持ちや、残された奥さんたちが旦那さんを思う気持ちを歌うというジャンルなんですけど、南米のああいう曲は日本の歌謡曲とかなり通ずるところがあるんですよね。
──そのライブを終えたナオトさんがおっしゃっていた「常に『I'm ready』でいられたことがスタンディングオベーションにつながった」という言葉が印象的でした。
あの酒場のライブの前日にやった飛び込みライブが、なんだかうまくいかなかったんですよ。それは「I'm ready」になれていなかったから。「Sodade」が体に入ってなかったし、もっと日本人っぽいものも入れてあげたほうがウケたのにな……とか後悔しましたね。飛び込みライブは準備して臨むものじゃないけど、いつ何時どんな状況が来ても「I'm ready」でいないといけないと思うんです。あのときは本当に悔しくて翌日は朝から部屋や公園でずっと「Sodade」を練習しました。僕のツアーでやるライブなんかは「この曲をやるから練習をしていく」という「ready」の状態ですが、今回の旅ではいつ巡ってくるかわからないチャンスに備えて「I'm ready」にしておくっていう精神性みたいなものを学んだんですよね。自分がエンターテイナーとしてその場を掌握できるものを持っていたいと思った。今までもそういう精神はあったけど、さらに1段階上のものと言うか。
──なるほど。
まあでも基本的に俺の人生はそうかな。いつ何時誰に会うかもわからないから、自分の音源は今でもバッグに入れていて、いろんな人に渡してきたんです。大事なのは、自分がしたいことと自分ができることの旗を常に上げておくこと。実際に自分の人生や夢においてのキーマンに会ったとき、旗を上げていれば見つけてくれるんですよ。逆に言うと、何ができて何がしたいのかわからない人は、例え自分にとってキーマンになる可能性がある人と近付くことがあっても見つけてはもらえない。それがないと「僕は歌を歌っています」と言ったところで「どんな歌を歌うの?」と相手から聞いてもらえることはそうそうない。今回の旅ではやっぱり旗を上げておくことで何かが起きていくんだなって改めて実感しましたね。
旅を通じて知ったJ-POPのすごさ
──帰国してからはどうだったんですか?
もうずっと創作意欲がすごいです。それこそコンセプトアルバムの収録曲は7、8曲でいいって言われていたのに、28曲も作っちゃって(笑)。だから映画に使われていない曲も入っているし、歌モノも実はたくさんできているしね。何しろ曲のライブラリーがたくさん溜まっている状態なので、海外に向けて発信したい曲のアイデアもいっぱいあります。今回の旅はアフリカ、ヨーロッパを回ったあと、1カ月半ロサンゼルスにいたんです。向こうのアーティストとコライトして、トラックメーカーとトップライナーと一緒に曲を作りました。それは提供用だったり、自分が海外で活動するための曲だったりなんですけど。海外のアーティストと一緒にやっていく中で気付いた自分のアイデンティティは、J-POP育ちの日本人であること、アレンジのアイデアがたくさんあること、66カ国を旅してきた旅人であることっていうこの3つ。それは今ものすごく強いアイデンティティだなって思いますね。だから今後音楽をやるうえで、今の世界の最新トレンドはどんな形であれアレンジにまぶしてJ-POPに着地させられると思っています。
──今回のアルバムは、録り下ろしの歌モノ、インストに現地で収録された音源を加えて、旅の足跡を記録するような構成になっています。映画主題歌に採用された「Sunday」は、旅から戻ってきて最初に作った曲だそうですね。
はい。この曲を皮切りに、堰を切ったようにアルバムのアイデアを形にし始めたんです。
──「Sunday」はご自身の旅を記録しようとして書いた曲ですか?
いや、なんにも意識してないですね。別に主題歌のために書いた曲ではない。ただ単に、旅のあとにできた曲が主題歌にぴったりだったから使ったというだけで。
──旅から帰ってきて何も考えずにパッと作ったらこれができたと。
そうですね。主題歌を書くぞと思って書いた曲だったら、おそらくキーをあと2つか3つ上げてますよ。こんなに声を張らないで歌える曲なんて今までなかったし。肩の力を抜いて曲を作れたから、制作は純粋に楽しかったです。シングル曲とかタイアップ曲とかそういうことじゃなくて、ただただ曲を作り、いい曲ができればシングル曲になればいい。旅を経て音楽家として何か変わったかと言うと、そんなに変わったことはないけど、前作「旅歌ダイアリー」(2013年9月発売)を出した頃より音楽的にやれることが増えているし、頭の中で鳴っている音を形にするスピードは何倍速にもなったかなと思います。
──海外に発信する部分ではもうちょっとリミッターを外したものを考えていると思うんですけど、世界のさまざまな音楽を吸収してもなおJ-POPを鳴らし続けたいという気持ちがありますか?
旅をしたからこそJ-POPは何がすごいのかがわかって、すごく誇らしいと感じたんです。僕はいろんなJ-POPを聴いて育ってきてJ-POPが大好きだから、より強くJ-POPを作りたいという思いがあるんですよね。面白いもので。だから世界を旅しても海外かぶれになるつもりはないです。J-POPと海外に向けて発信したい音楽を分けて考えればいいだけで。それを融合して考えちゃうと、今の時代はやっぱり洋楽と邦楽が乖離しすぎているから難しいんですよ。
──確かにそうですね。
ファンの皆さんやスタッフのみんながある程度ここまで押し進めてくれたから、今回この旅をする時間が取れたし、この経験ができたんですよ。皆さんの協力があって、今回J-POPの枠からはみ出したコンセプトアルバム作ってリリースさせていただけるのはありがたいことですね。テレビ番組でナオト・インティライミを知ってくれた方々にこの音はちょっと新鮮かもしれないけど、ナオト・インティライミの“旅歌ミュージック”として捉えてもらえたらうれしいです。
──この映画やドキュメンタリーを観たうえでナオトさんの音楽を聴くと、J-POPアーティストであるナオトさんの根っこが見えて、より音楽のコクが増すと言うか。
そうですね。映画を観て本を読んで、そしてこのアルバムを聴くという3次元で知ってもらえたらもう本望です。やっぱりこの6年間「ナオト・インティライミって世界を旅してるわりにJ-POPじゃね?」と思われていたはずなので。別に「海外の音楽を取り入れている」というところを誇張する必要がないからやっていないだけなんですよ。僕の作るJ-POPがどういう要素からできているのかは、アルバムを聴いたりライブに来てもらえればわかると思うんですが、お茶の間で僕の音楽を知ってくれた人がアルバムを買ったりライブに来たりするのは、なかなかハードルが高いことだと思うんです。今お茶の間で観られるナオト・インティライミが実は旅人だっていうことを決定付けられるコンセプトアルバムができたと思います。アルバム、映画、本……一連の「旅歌ダイアリー2」でちょっとでもそういうところを感じてもらえたらうれしいですね。
- ナオト・インティライミ コンセプトアルバム「旅歌ダイアリー2」
- 2017年11月22日発売 / UNIVERSAL SIGMA
-
完全限定生産盤
[CD+PHOTO BOOK]
3980円 / UMCK-9927
- 収録曲
-
- Mukone hikwenu ke?(ミコーナ・ケー from モザンビーク)
- Sunday
- African dream -2017 Edition-
- Sunday -African ver-
- You are
- Maputo(マプト from モザンビーク)
- Farafina
- まだ夢のまま
- Sunday -LaLaLa ver-
- Elisa Gomara Saia(エリサ・ゴマラ・サイア @ モザンビーク)
- Beautiful
- 口笛 ~行き~
- Hoch auf dem gelben Wagen(ホーフ・アウフ・デム・ゲルベン・ヴァーゲン from ドイツ)
- ハイライフ
- ME DÁ UM DINHEIRO AÍ(ミ・ダ・ウン・ジニェイロ・アイ from カーボヴェルデ)
- Gypsy Rhapsody(from ルーマニア)
- Sunday -strings ver-
- Thrill me
- Var det du eller var det jag?(ヴォル・デ・ドゥ・エレル・ヴォル・デ・ジョ from スウェーデン)
- Michikusa conversation
- Sunday -piano major ver-
- Fighting pose(from ガーナ)
- Carter’s room
- How many times?! -2017 Edition-
- 崖の上のメロウソング(@ エチオピア)
- Sunday -piano minor ver-
- 口笛 ~帰り~
Bonus Track
- Sodade(ソダ @ カーボヴェルデ)
こんなの初めて!!ナオト・インティライミ 独りっきりで全国47都道府県 弾き語りツアー2018
- 2018年3月27日(火)山梨県 コラニー文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
- 2018年3月30日(金)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
- 2018年4月1日(日)大分県 iichikoグランシアタ
- 2018年4月13日(金)長野県 まつもと市民芸術館
- 2018年4月15日(日)石川県 本多の森ホール
- 2018年4月19日(木)香川県 サンポートホール高松 大ホール
- 2018年4月20日(金)愛媛県 松山市民会館 大ホール
- 2018年4月27日(金)長崎県 長崎ブリックホール
- 2018年4月28日(土)佐賀県 鳥栖市民文化会館
- 2018年4月30日(月・祝)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 2018年5月2日(水)宮崎県 宮崎市民文化ホール
- 2018年5月11日(金)山形県 やまぎんホール(山形県県民会館)
- 2018年5月13日(日)福島県 郡山市民文化センター 大ホール
- 2018年5月18日(金)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
- 2018年5月19日(土)千葉県 千葉県文化会館 大ホール
- 2018年5月23日(水)滋賀県 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール
- 2018年5月25日(金)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2018年5月27日(日)和歌山県 和歌山県民文化会館 大ホール
- 2018年6月1日(金)岐阜県 長良川国際会議場 メインホール
- 2018年6月3日(日)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
- 2018年6月8日(金)徳島県 鳴門市文化会館
- 2018年6月10日(日)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
- 2018年6月15日(金)岩手県 盛岡市民文化ホール
- 2018年6月17日(日)青森県 八戸市公会堂
- 2018年6月21日(木)群馬県 ベイシア文化ホール
- 2018年6月22日(金)茨城県 茨城県立県民文化センター
- 2018年6月28日(木)新潟県 新潟県民会館
- 2018年6月30日(土)北海道 ニトリ文化ホール
- 2018年8月30日(木)山口県 周南市文化会館 大ホール
- 2018年9月1日(土)島根県 島根県民会館 大ホール
- 2018年9月6日(木)宮城県 仙台サンプラザホール
- 2018年9月8日(土)秋田県 秋田市文化会館
- 2018年9月12日(水)大阪府 フェスティバルホール
- 2018年9月14日(金)福井県 福井市文化会館
- 2018年9月16日(日)富山県 高周波文化ホール 大ホール
- 2018年9月21日(金)栃木県 栃木県総合文化センター
- 2018年9月22日(土)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
- 2018年9月29日(土)鳥取県 とりぎん文化会館 梨花ホール
- 2018年9月30日(日)岡山県 倉敷市民会館
- 2018年10月5日(金)東京都 日本武道館
- 2018年10月8日(月・祝)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2018年10月11日(木)福岡県 福岡サンパレス
- 2018年10月12日(金)広島県 広島文化学園HBGホール
- 2018年10月17日(水)三重県 三重県文化会館 大ホール
- 2018年10月19日(金)奈良県 なら100年会館 大ホール
- 2018年10月21日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- ※沖縄公演はスケジュール調整中。
- ナオト・インティライミ
- 三重県生まれ、千葉県育ち。世界28カ国を515日間かけて1人で渡り歩き、各地でライブを行うなど、世界の音楽と文化を体感。帰国後となる2009年には自らのソロ活動のほか、サポートメンバーとしてMr. Childrenのツアーにも同行する。そして2010年4月、ナオト・インティライミ名義でのメジャーデビューシングル「カーニバる?」をリリース。同7月には1stアルバム「Shall we travel??」を発表し、メジャーデビューからわずか8ヶ月となる12月には東京・日本武道館公演も開催する。その後も2011年リリースの2ndアルバム「ADVENTURE」がオリコン週間アルバムランキング3位、2012年の3rdアルバム「風歌キャラバン」が同1位を獲得、同年末には紅白歌合戦に初出場するなど快進撃を続け、2013年5月に4thアルバム「Nice catch the moment!」をリリースした。2014年「2014 FIFA ワールドカップ ブラジル」開催に伴う「コカ・コーラ」のキャンペーン「みんなのトロフィー」キャンペーンの日本版アンセムとして「The World is ours!」を歌唱。同楽曲やシングル「LIFE」を収録した5thアルバム「Viva The World!」をリリースした。2015年は15thシングル「いつかきっと」がヒット、6月に初のベストアルバム「THE BEST!」をリリースし、12月には自身初となる大阪・京セラドームでのライブを4万人の観客と共に大成功に収める。2016年6月からは全国ホールツアー37公演を実施。9月には約2年ぶり6枚目となるオリジナルアルバム「Sixth Sense」をリリースし、11月から行った全国アリーナツアー11公演で計10万人を動員した。2017年1月31日に自分の原点に立ち返るために世界19カ国を回る旅に出ることを宣言。約半年の旅を経て、7月10日開催の「ナオトの日」でシーンに復帰した。11月より、この旅に密着したドキュメンタリー映画「ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー2」が前後編に分けて劇場公開されることが決定。さらにこの映画の主題歌「Sunday」を含むコンセプトアルバム「旅歌ダイアリー2」や旅の中で綴られたフォトエッセイ「旅歌ダイアリー2」の発売も決定している。2018年3月からは2度目の日本武道館公演を含む弾き語りワンマンツアー「こんなの初めて!!ナオト・インティライミ 独りっきりで全国47都道府県 弾き語りツアー2018」を開催する。